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我が騎士道とは、剣に捧ぐことと見つけたり ~剣に恋する王女に口説かれる日々~  作者: アレセイア
第三章

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第15話

 さすが王都、というべきか、鍛冶屋に並んだ武器はどれも一級品ばかりだった。

 だが、値段が高い。しばらく店内を見て回り、店主と話した静馬は傍に控えていたユーラに合図して鍛冶屋の外に出た。


「いかがでしたか? シズマ様」

「ああ、少々高かったですね。騎士の安い俸禄では手が届かなさそうです。ただ、いろいろと王都の剣は学びが多くて助かりました」


 例えば、王都の剣は実用よりも装飾面を意識すること。

 鍛冶屋の店主が見せてくれた一振りは鍔や鞘に派手な装飾が施されていた。貴族の贈答用向けらしく、それは目を見開くくらいの値段だったのだ。

 装飾がない、実用的な剣もかなり数があった。特に種類は豊富だ。

 ただやはり、総じて値段が高い。


(同じような刀剣なら、北方で買った方が安そうだな……)


 小さくため息をつくと、ふむ、とユーラは出てきた鍛冶屋を振り返る。


「一応、ここが評判の良い鍛冶屋の一つです。殿下もオススメしています」

「アウレリアーナ殿下も?」

「お忍びで来るのです。それでいろいろ見た結果、ここが良い、と」

「そうですか……確かに良い品ばかりでした」


 アウレリアーナは剣に長けた方だ。先日の剣術談義の際も、静馬の太刀を見るなり、匠の品だと見抜いた。こだわりもあり、いろいろと話していたことを思い出す。

 ユーラは頷きながらも、ふと何か思い出したように静馬の顔を見上げる。


「他にも騎士の評判の高い店が二件ほどありました。質はここには及びませんが、値段は安いと聞いています――見に行ってみますか?」

「もしよろしければ。ただ、ここ以上のものは期待できるかどうか」

「まぁ、物は試しと思いましょう」


 ユーラは軽い口調でそう言いながら鍛冶屋街に足を向け。


 瞬間、甲高い悲鳴が鍛冶屋街に響き渡った。


(――っ、近い!)


 静馬が身構えた直後、どん、と人を突き飛ばして向こうから猛然と黒ずくめの男が集団で走ってきた。短刀を振り回しながら喚き、人を押しのける。


「退けぇ! 殺されてぇのか!」

「――暴漢か、強盗か」


 どちらでもいいが、治安を著しく損なっているのは間違いない。

 ならば、騎士としてすべき行動は一つだ。

 静馬が迫る男を睨みつけると、一拍遅れて立ちはだかる彼に気づいた一人が短刀を向けてくる。

 叫びと共に踏み込み、短刀を突き出してくる暴漢。

 だが、静馬は怯まずに落ち着いて構えを取る。突き出された短刀を手で跳ね上げると、その袖を絡めて掴む。その腕を引きながら、流れるように静馬は身を返しながらその懐に飛び込んだ。突進の勢いを利用しながら、暴漢の身体を背負い、投げ飛ばす。

 変則的な一本背負い。暴漢は受け身も取れず、地面に転がる。


 それからすぐさま振り返ると、ユーラも二人の男を無力化したところだった。彼女の足元で股間を抑えた男と、喉を抑えた男がうずくまっている。

 だが、他の男たちは形勢不利と見るや、別の方向へと逃げていた。

 人を押しのけて立ち去っていく暴漢の背に舌打ちをこぼすと、その静馬の傍をすり抜けるように走り出す影があった――ユーラだ。

 ひらり、ひらりと身を躱して人混みをすり抜けて駆け去ってしまう。


(……おいおい)


 追いかけようにも、人混みが多すぎる。思わず面食らっていると、人混みをかき分けて別の一団が静馬の方に駆け寄ってきた。数人の騎士たちだ。


「騎士団だ、場所を開けてくれ――っと、キミは?」

「第三軍の中臣と言います。休暇中で、たまたま居合わせていました」

「そうか、取り押さえの協力、感謝する」

「いえ、ただ数人逃がしてしまいました。ここをお任せしてもいいですか?」

「あ、ああ、もちろん構わないが、キミは?」

「追いかけます」


 そう言いながら視線を鍛冶屋の建物に向ける。建物の壁際には積み上げた薪や樽が並んでいる。それから屋根に視線を向け、小さく息を吸い込んだ。


(彼女みたいに人混みをすり抜けるのは難しい――なら)


 近道をするまでだ。

 静馬は建物の壁に向かって駆け出すと、樽を足場に跳躍。屋根に手を掛けてひらりと建物に登る。野次馬の驚きの声を背にしながら、遠くを駆ける暴漢に向かって駆け出す。

 暴漢たちは人々を突き飛ばしながら荒々しく進み、その後ろをメイド服の少女が身軽な動きで追いかけている。人の流れを巧みに避けているユーラの方が早く追いつきそうだ。


 だが、こちらは屋根の上。遮る人すらおらず、全力で走ることができる。

 静馬は屋根を次から次へと飛び移りながら、暴漢たちとユーラを追いかける。だが、建物はいつまでも隣接しているわけではない。

 建物と建物に走るのは道。その間隔は大きく開いており、飛び越えることは難しい。


(降りる時間はない――突っ切る!)


 静馬は駆けながら腰の太刀を鞘ごと引き抜き、逆手に持つ。そして屋根の端、そこにあった出っ張りに鞘の先端を引っ掛けて地を蹴った。

 それはまさに、棒高跳び。疾走する力を上に捻じ曲げて高く跳躍。

 大きく空いた屋根と屋根の間をひらりと跳び越え、屋根の上に着地。休む間もなく再び駆け出す。荒々しい近道のおかげで、暴漢たちとユーラの姿に一気に近づきつつあった。


「――っ!」


 それに暴漢たちは迫るユーラに気づいたようだ。路地裏に飛び込んでいく。

 ユーラはそれに追随。一瞬、静馬の視界から彼らの姿が消える。

 静馬は足を速めてその路地裏沿いの屋根を駆ける。すぐに逃走者と追跡者の姿は目に入った。ユーラはメイド服の裾を摘まみ上げ、疾駆している。

 瞬く間に距離が詰まる中、暴漢たちは路地裏のゴミ箱を蹴飛ばし、木箱を倒す。

 だが、ユーラはその妨害を物ともしない。ひらりと跳び越え、掻い潜りながら疾走する。その様子を静馬は追いかけながら思わず舌を巻いた。


(やはり、ユーラ――只者じゃないな)


 薄々感じていた。人混みを歩く身のこなしは滑らかだった。

 手と足を同時に出す歩き方は東方に伝わる、ナンバ、と呼ばれる歩き方に似ている。あれは衣擦れの音が立ちにくく、身体の軸をぶれにくい。

 足も高く上げず、手もほとんど上げない。まさに地面を滑るように彼女は歩くのだ。

 そして、暴漢が突っ込んできたときも、彼女は迷わず急所を狙っていた。

 侍女と名乗り、メイド服に身を包んでいるが、恐らく武術に長けているのだ。影が薄く感じていたのも、その歩き方や佇まいで存在感を薄れさせていただけだろう。


(そんな手練れに、手助けは必要ないかもしれないが――)


 静馬は追走を続けていると、暴漢が路地裏に立てかけられていた材木を崩す。激しい物音と共に路地裏に材木が散らばり、道を塞ぐ。

 それにはさすがにユーラも躱せないか、立ち止まって視線を走らせる。

 そこに静馬がようやく追いつく。屋根の上からユーラに鋭く声を掛けた。


「こっちだ、ユーラ殿! 手を貸す!」

「――っ、感謝します」


 屋根を駆ける静馬に気づいたユーラは驚きを見せるが、それも一瞬。静馬が傍で立ち止まって手を伸ばすと、ユーラはその手を掴んだ。そのまま静馬は彼女を屋根上まで引き上げる。

 ユーラはスカートを抑えながら屋根の上に着地すると、身軽に再び駆け始める。再び見えてきた暴漢の姿は油断しているのか、足を緩めながら下卑た笑みを交換していた。


(好機だ)


 静馬はユーラの横を駆けながら、指先で合図する。


(自分が先に、ユーラ殿は後)

(挟撃ですね)


 ユーラは意図を察して手を動かして応える。静馬は頷くとさらに速度を上げる。荒々しく屋根を踏み鳴らし、暴漢たちを追い抜かす。

 その音に気づき、暴漢たちは頭上を顧みる。それを跳び越すように静馬は跳躍。路地裏に飛び降りて暴漢たちの前に立ち塞がって進路を塞ぐ。


「さて、もう逃げられないぞ。御用だ」

「く……なんで騎士が……っ」

「先回りさせてもらったんだよ。全く、手間をかけさせないでくれ」


 静馬はため息をつきながら手にしていた太刀を鞘から抜き放つ。四人の暴漢たちは狼狽え、後ずさる。だが、その背後にはひらりとユーラが音もなく着地していた。

 彼女は瞬時に踏み込み、暴漢の防備な後背を襲っていた。一人の男に足払いを掛けた直後には、別の男の首に飛びつき、腕で首を絞め上げる。


「な――っ!」


 その奇襲に暴漢たちが気づいた瞬間には、静馬はすでに踏み込んでいる。

 鞘を抜くと、一人の暴漢の懐に飛び込む。鞘の先で鳩尾をしたたかに突き上げ、もう一人の男には峰打ちを腹に叩き込む。苦悶の声と共に倒れ伏す暴漢たち。

 ついでに静馬はユーラの足払いで倒れ込んだ男に歩み寄る。男は這いつくばって逃げようとしていたが、首筋に刃を突き付けるとぴたりと動きが止まった。


「さすがです、シズマ様……っ!」


 賞賛するユーラは男の首を完全に絞め上げ、意識を落とさせる。崩れ落ちた男の身体を見やりながら、苦笑をこぼした。


「ユーラ殿も見事な手並みでした。体術をやられるようですね」

「……いえ、ただの護身術です」


 ユーラは土埃を払いながら、気まずそうに視線を逸らす。自分でも言い分に無理があるのが分かっているのだろう。

 だが、静馬は指摘せずに軽く肩を竦め、太刀を鞘に納めた。


「ともあれ、助かりました、ユーラ殿。騎士としての務めを全うできました」

「いえ……お役に立てたのなら、何よりです」


 ユーラがぺこりと頭を下げる。その後ろから材木をかき分け、騎士たちが姿を現した。先ほど見た騎士たちで、静馬の姿を見て安堵したような表情を浮かべて駆け寄る。


「第三軍の……! 暴漢たちを捕まえたのか」

「はい。無事に暴漢たちは取り押さえましたので」

「見事な手前だな……協力に感謝する」

「どういたしまして。後はお任せしてもいいですか? 一応、休暇中でして」

「ああ、休み中に悪かった。こちらで後は引き受けよう」


 騎士は頷くと、部下たちに指示を出して暴漢たちの拘束を始める。それを見届けてから静馬は踵を返し、ユーラを見つめた。


「さて、行きましょう。騒ぎになったし、ここから離れた方が良さそうです」

「同意します。少し食事でもしませんか」

「ああ、それはいいですね。何か良い店を案内してくれると助かります」

「もちろんです」


 ユーラはメイド服の裾を摘まんで一礼し、歩き出す。

 その彼女は激しい追跡劇の後は思えないほど、平然としたものだった。

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