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我が騎士道とは、剣に捧ぐことと見つけたり ~剣に恋する王女に口説かれる日々~  作者: アレセイア
第二章

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第9話

 ギルバルドの一声で調練場の一角が空けられた。

 静馬はその中に足を踏み入れ、借りた模擬戦用の剣を軽く振る。重心の位置を確かめていると、背後から遠慮がちに声がかかった。


「――ごめんなさい、シズマ。妙なことに巻き込んだわ」


 振り返ると、そこにはアウレリアーナが申し訳なさそうに眉を寄せて立っていた。静馬は剣を振りながら、苦笑い交じりに言葉を返した。


「お気になさらず。丁度、運動がしたかったところでしたから」


 それよりも、と静馬はアウレリアーナの手に視線を向けて訊ねる。


「手は大丈夫ですか? 殿下」

「え、手?」


 アウレリアーナはきょとんとしながら手を持ち上げ、自分の掌に視線を落とし、微かに顔を顰めた。先ほど強く拳を握りしめたせいだろう、そこには爪が食い込み、血のにじんだ痕がある。その手を軽く振り、彼女は小さく笑った。


「よく見ているわね。でも気にしなくていいわ」

「気にします……怒って、下さったんですよね?」

「怒るわよ、それは。シズマや第三軍に失礼だわ、あの人は」


 思い出すだけでも腹が立つ、とばかりにアウレリアーナは瞳に怒りを滾らせた。静馬は目を細めると、力強く言葉を返した。


「その傷に見合う働きは必ずさせていただきます――どうか見届けていただければ」

「……シズマ」


 静馬の言葉にアウレリアーナの瞳から怒りが和らぐ。彼を真っ直ぐ見つめると、信頼を込めた目つきで彼女は小さく微笑んだ。


「分かったわ。見届けさせてもらう。貴方の剣を」

「はい――では」


 軽く静馬は頭を下げてから、視線を相手方に向けて足を踏み出す。そこにはギルバルド殿下に肩を叩かれている近衛騎士の姿があった。


「期待している。モストくん――近衛騎士に恥じぬ剣を見せてくれ」

「お任せください! 殿下! 必ずや勝利を捧げます!」


 年若い騎士は張り切って宣言すると、こちらに進み出て視線を向けてくる。敵意を丸出しの視線を静馬は穏やかに受け流し、静かな口調で告げる。


「未熟な剣の腕ですが、よろしくお願いできればと思います」

「ふん、東方の田舎者にしては殊勝な心構えだ。が、手心は期待するなよ」

「元より承知の上――どうぞ全力でお願い致します」


 言葉を交わし合いながら、静馬と相手の近衛騎士は所定の位置につく。周りは近衛騎士とヘロスの騎士たちが取り囲み、観戦している。

 その中からヘロスが一歩進み出ると、両者に視線を送った。


「では、私が僭越ながら審判を務めます。一本先取で勝利と見なします――では、両者、礼!」


 鋭い掛け声に一礼。静馬は頭を上げると、深呼吸して心気を研ぎ澄ませる。


「構えて」


 ヘロスの声に静馬は正眼に剣を構える。相手の騎士も剣を持ち上げて構え、こちらを見据えてくる。爪先に重心が寄っているのを見て、静馬は目を細める。


(初撃から来るな)


 真っ向から受け止める必要はない。だが、折角の手合わせの機会だ。近衛騎士の剣の実力を確かめてみるのも悪くないだろう。

 静馬も爪先に力を込める。一瞬の静寂の後、ヘロスが鋭く号令を発した。


「始め!」


 その声と共に両者、地を蹴った。彼我の距離は瞬時に消し飛び、静馬と近衛騎士の剣がぶつかり合って火花を散らす。

 最初から激しい衝突に外野がどよめくのを感じていた。鍔迫り合いで近衛騎士が力むのを感じる。静馬はそれを抑え込みながら目を細める。


(……なるほど、いい一撃だ)


 近衛騎士が力を込めた瞬間に合わせ、静馬は後ろに跳び退く。それに追随するように果敢に斬りかかってくる近衛騎士。

 剣筋は真っ直ぐであり、力が込められている。型通りの剣術を学んできたのだろう、その剣筋は鋭く重たい。それを躱しながらさらに一歩下がると、近衛騎士は刮目して吼える。


「てあああああぁっ!」


 近衛騎士は気合と共に踏み込み、剣を振り上げ、振り下ろす。

 それだけの一撃。されど、充分な体重が載せられて強い一撃だ。静馬は脇流しから剣を振り上げ、真っ向からその剣を受け止める。

 鋭い金属音と共に手が重く痺れる。強引にそのまま押し返すと、近衛騎士は跳び退きながら荒く吐息をついて再び構え直す。


(なかなか侮れないな)


 剣術の型はある意味、最適化された剣の動きだ。理想的な動きは剣に充分な威力を載せることができる。相手の近衛騎士は愚直にそれを学んだのだろう、一撃一撃が重たい。

 だが、型に嵌まっているからこその弱点はある。


「おおおおおおおお!」


 さらに近衛騎士は踏み込みと共に剣を振るう。振り上げからの振り下ろし。それを見ながら静馬は一歩退き、剣をわずかに傾けながらそれを受ける。

 剣の表面が擦れて火花を散らす。流れた身体を立て直し、近衛騎士は横薙ぎ一閃。

 それを上から抑え込むように静馬は剣を振り下ろす。近衛騎士は瞬時に一歩引きながら手元に剣を引き戻す。


(そこから諸手突き、かな?)


 静馬は目を細めながら読む。果たして近衛騎士はその読み通り、剣を両手で突き出した。それを狙って静馬は下から掬い上げるように振り上げる。

 突きを真上に弾き上げる。近衛騎士はその勢いに逆らわず、上に跳ねられた剣を上段に構えながら踏み込んだ。そして、振り下ろす。

 だが、静馬は後ろにすでに跳んで回避していた。全て読み通り。


 否、型通りなのだ。


 型を知っていれば、その先の予期は容易い。特に近衛騎士の剣の動きは愚直で分かりやすいのだ。型をそのまま自分のものとして取り込み、そのまま使っている。そこに一切の応用はない。だからこそ、静馬は一手先どころか、二手、三手先も読める。

 静馬は慢心せずに近衛騎士の動きを見据え、それに剣を合わせていく。剣をぶつけ合わせ、逸らし、弾き、時に避ける。時折攻め手も交え、剣戟は激しさを増させる。


 視界の端で外野を見れば、近衛騎士たちが誰もが驚いた様子で静馬を見ている。

 東方田舎の人間が近衛に食い下がっていることに驚いているのだろうか。

 相手を務める近衛騎士もそれを感じて焦っているのか、力をさらに剣に込める。だが、大振りの剣は隙だらけだ。静馬はそれを見切りながら判断する。

 この近衛騎士の剣の腕前も大体、見切った。


(決着をつけよう――次の横薙ぎを捌いて、終わりだ)


「おおおおおおおおお!」


 近衛騎士が雄叫びと共に剣で横薙ぎを放つ。それに合わせるように静馬は一歩踏み込み、脇流しから剣を真っ直ぐ逆袈裟に振り抜いた。

 狙い澄ました一撃は鋭く近衛騎士の刃を捉えていた。

 衝撃で近衛騎士の手から剣が吹き飛ぶ。その隙を逃さずに静馬はさらに踏み込みながら刃を真っ直ぐに突き出し。


 近衛騎士の喉元に刃を突き付けた。

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