第一話-【第一幕:詠唱学の対立。祈りと戦歌の中で『データ』を語る異端者】(挿絵あり)
「詠唱学基礎」の教室では、秋の斜陽がステンドグラス越しに差し込み、石畳の床にまだらな光と影を落としていた。
空気中には古い羊皮紙の匂いと、学院特有の厳粛な気配が漂っている。
イノセン教授――ふくよかな体つきで白髪の老人が、精巧な彫刻が施されたオーク材の杖を手に、教壇の前に立っていた。
その深淵のような灰色の瞳は隼のように鋭く、眼下の若き顔ぶれを一人一人見渡し、まるで声なき審判を下しているかのようだった。
今日の雰囲気は格別微妙だった。
イノセン教授は学生たちを見渡した。
彼らが心の中で葛藤していることを、教授は知っていたのだ。この学期が終われば、彼らは「詠唱学」と「魔法陣学」のどちらかを専攻として選ばなければならない。
そして今、二大派閥は優秀な学生を奪い合うべく、暗闘を繰り広げている真っ最中だった。
「諸君」
彼の声は低く威厳に満ち、その一音一音が聖白学院の古典的な威儀を帯びていた。
「今学期の課題は、三人一組のグループとなり、安定した魔法効果を引き起こせる『詠唱文』を共同で創作することだ。正統なる詠唱学とは、韻律と意境の完璧な融合を重んじる」
彼は教卓をコンと軽く叩いて澄んだ音を立てると、少し挑発的な語気で付け加えた。
「魔法陣学の教師たちは、図を描く方が詩を読むよりも『正確』だと君たちに教えるだろう。だが、真の魔法使いなら誰もが知っている。魂のない記号は、生命の宿る言語には永遠に敵わないということをな」
教授は学生たちを見据えた。
「中間試験の答案に書かれた『魔力の本質』に関する諸君の論述に基づき、グループ分けを行う」
イノセン教授は手元の分厚い名簿を開き、皺だらけの指で羊皮紙に書かれた整然とした文字の列をなぞった。
「『力は意志の延長である』という理念に賛同する戦吼派は、ヴァレリウス君を代表とし、右側へ移動したまえ。君たちは力を崇拝しているが、それでも古典的な戦歌の韻律と拍子には従わなければならない」
ヴァレリウスが立ち上がった。
胸の雄獅子の紋章が、陽光の下で冷たく硬い金属の光沢を放っている。
彼は胸を張り、教室の右側へと歩き出した。その後ろには、同じく軍人世家出身の同級生たちが数名従っている。
彼らの足音は石畳の上で一糸乱れぬリズムを刻み、まるで行軍の太鼓のようだった。
「『力は神聖なる恩寵である』という理念に賛同する祈祷文派は、カテリーナさんを代表とし、左側へ。君たちは神聖さを追求しているが、同じく古の聖詩の韻と音律に従う必要がある」
一人の背の高い女子学生が立ち上がった。
彼女は月光のように清らかな銀色の長い髪を端正なシニヨンにまとめ、冬の凍りついた湖面のような銀灰色の瞳を持っている。上質な深藍色のショールを羽織っていた。
最も目を引くのは、彼女の胸にある白銀で打たれた聖盾の紋章。
フォン・シュタイン家の象徴である、盾の上に神聖な十字の光芒が咲き誇る意匠だった。
カテリーナ・フォン・シュタインの眼差しには、北方の貴族特有の冷ややかな誇りと揺るぎなさがあった。
彼女は教授に軽く頷くと、同じように神聖な気配をまとう数名の学生を率いて左側へと歩いていった。
イノセン教授の視線は名簿の上で長く止まり、ひそめた眉に一抹の困惑を浮かべた。
彼が顔を上げると、その灰色の瞳は最終的に、教室の隅にいる一つの孤独な人影に落ちた。
「……ん? アーガス・アイアンソーン君……」教授の声には明らかな躊躇が混じっていた。「君の答えは……『力とは、数値化できるデータである』?」
教室全体が異様な静寂に包まれた。
すべての学生の視線が一斉に、最後列の隅に座っているハーフドワーフの少年に向けられた。
アーガスは相変わらず黙ってそこに座り、無表情で、周囲の視線に全く気づいていないかのようだった。
「……君は、とりあえず一人で一組になりたまえ」
イノセン教授の声には、隠しきれない嫌悪感が滲んでいた。
ヴァレリウスは低く鼻で笑った。
「データ(数値)だと? 魔法を帳簿付けか何かと勘違いしているのか?」
彼の語気には、商人に対する貴族の生来の軽蔑が満ちていた。
「これだから下等な商人の浅薄な見解は。真の力とは、戦歌のように激昂した意志から、そして鋼のように不屈の闘争心から生まれるのだ! どの一句の戦吼も韻を踏み、どの一音節も太鼓のように力強くなければならない!」
カテリーナの声も氷雪のように冷ややかだった。
「神聖なる力を冷たい数字に貶めるなど、天の恩寵に対する最も冒涜的な侮辱です。真の祈りは古の聖詩のように優美であり、どの一行にも完璧な韻があり、どの一句にも敬虔な意境が満ちていなければなりません。凡人の傲慢さも極まれり、ですね」
二人のリーダーの言葉は双剣のように、異なる角度からあの孤立無援の人影を突き刺した。
アーガスは依然として反応を示さず、反論もせず、ただ静かにそこに座っているだけだった。
その黒い瞳は、底知れず深かった。
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【あとがき】
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