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あとがき:この巻で描きたかったこと (挿絵あり)

みなさん、こんにちは。鳳梨酥です。


挿絵(By みてみん)


この話の最後の一文字を書き終えたあと、私は椅子の背にもたれて、長く息を吐きました。


『煤手矮人の観景窓』。

これが、中国語版でのもともとの副題でした。


このタイトルには、実はこの巻で一番書きたかった核心が込められています。


「観景窓」。


表向きには、アーガスが発明した「記憶の鏡」の部品のひとつです。

けれど同時に、それは彼自身の内面を象徴する言葉でもあります。


それは、彼がこの世界を覗き込むための窓であり、

階級の壁を越えてでも知識を手に入れたいと願う、その執念のかたちでもあるのです。


私はずっと考えていました。

もし、ある人間のすべての行動原理が「家族のため」だったとしたら、その力はどれほど強いのだろう、と。


それこそが、アーガスという人物の核です。


彼がリナからの、あまりにも破格で現実味のない高給の申し出を断ったとき、

「俺がやっていることは全部、家族のためです」と口にしました。


あの言葉が、ただの綺麗事ではなく、

『前日譚』で経験した家族の崩壊や、姉の犠牲を経た末に残った、

彼にとって唯一にして最も深い原動力なのだと、少しでも伝わっていたら嬉しいです。


キャラクターについて

アーガスの成長軌跡


この巻で、アーガスは初めて本格的に自分の才能を表に出しました。


でも面白いのは、彼自身はいまだに自分の発明の価値を、完全には理解していないところです。


彼が考えているのは、あくまで

「どうやって図書館の本を複製するか」。


けれどリナは、その先にある

「これは世界そのものを変える技術だ」

というところまで見ている。


この認識の差は、言い換えれば

平民と貴族、学生と商人の視野の差でもあります。


技術オタクで、家族第一主義。

アーガスは純粋ですが、決して愚かではありません。

ただまだ、この世界の論理で物事を考える方法を学びきっていないだけなのです。


ミリー・アドラー――共鳴する魂


ミリーというキャラクターを書くとき、私はかなり慎重でした。


彼女は単なる「背景の便利キャラ」ではありません。

アーガスと学術的に本当の意味で共鳴できる、数少ない相手です。


挿絵(By みてみん)


アーガスが「魔粒仮説」を語ったとき、

ミリーの中で起きた

「やっと、私の話が通じる相手がいた」

という感情。


その、孤独が破られる瞬間の喜びを、読者のみなさんにも感じてもらえたらと思って書きました。


彼女が背負う独角獣学派は、時代に置き去りにされた「精密魔法」の系譜です。


数百年にわたって家族が守ってきた理論は、主流の学術界から見れば異端です。

それでも彼女は、それを手放さなかった。


そんな彼女がアーガスと出会い、

同じように周縁へ追いやられてきた二つの魂が、ようやく互いを見つけた。


この関係は恋愛というより、

「真理を追う者同士」の友情であり、連帯だと思っています。


ミリーはこれから先、学院におけるアーガスの最も重要な盟友になっていきます。

それは恋をする相手だからではなく、

同じ道を歩ける、数少ない“本物の同伴者”だからです。


トールの温度


もしアーガスがこの物語の「頭脳」だとするなら、

トールは間違いなく「心臓」です。


挿絵(By みてみん)


彼の家族への愛は、どこまでもまっすぐで、惜しみがありません。

あの楽観性と率直さこそが、この家族がどんな困難の中でも希望を失わずにいられる理由なのだと思います。


お酒を飲みながら語り合うあの場面では、

兄弟のあいだにある、飾らない絆を感じてもらえたらと思っていました。


華やかな台詞なんていらない。

ただ隣にいて、気にかけて、同じ時間を過ごすだけで、人は十分に救われる。


あの場面には、そういう温度を込めています。


リナについて――この物語で最も魅力的な「灰色の人」


挿絵(By みてみん)


正直に言うと、リナは書いていて一番楽しいキャラクターの一人です。


彼女を「腹黒い」と感じる読者の方も多いと思います。

でも私は、リナはこの物語の中で最も“視野が広い”人物だと思っています。


彼女は、いわゆる「優しい先輩」でもなければ、

「純情なヒロイン」でもありません。


彼女の善意の背後には、常に商人としての計算があります。

でも、それは善意が偽物だという意味ではない。


挿絵(By みてみん)


彼女の魅力は、その複雑さにあります。


初めてアーガスの「記憶の鏡」を見たとき、

彼女はすぐにこの技術の本当の価値を見抜きました。


それは単なる

「図書館の本を複製するための便利道具」

ではなく、


肖像画市場を揺るがし、軍事情報のあり方を変え、

ひいては社会の階級構造そのものに揺さぶりをかける「武器」だと。


それでも彼女は、奪いも搾取もしなかった。

むしろ保護を選んだのです。


私がこの巻で一番好きな設定――「鞘理論」


「鞘のない神剣は、敬意ではなく恐怖を呼ぶ。

人々が剣の握り方を学ぶより先に、

血を恐れて、その剣を折ろうとするだろう」


この考え方に、私はリナという人間の知性が詰まっていると思っています。


彼女は革命的な“携帯型カメラ”を、

あえて巨大で、蒸気まみれで、三人がかりで操作するような機械に包み直しました。


誰の目にも「制御可能」に見えるように。

守旧派が「この程度のものか」と思うように。


そして少しずつ、少しずつ、

世界の側を「受け入れられる状態」に整えていく。


それはとても現実的な商業戦略であり、

同時に、人間が未知を恐れる生き物であることをよく理解したやり方でもあります。


彼女は欺いているのではなく、

“翻訳している”のです。


時代に対して、

この世界が受け止められる形へと、技術を翻訳している。


リナの魅力は、知性だけではありません


あの撮影のシーンは、かなり時間をかけて書きました。


秋の光が窓辺に差し込み、

そこに立つ金髪の少女。

精霊めいた耳。風にさらわれる髪。


そこには、生まれながらの高貴さと、

どこか触れがたい空気が同居していました。


近づきたくなるのに、軽々しく触れてはいけない気がする。

そういう、美しさと距離感。


挿絵(By みてみん)


純粋な技術オタクであるアーガスは、その瞬間、確かに心を揺らされました。

本人はまだ自覚していないかもしれませんが、

彼の中ではもう、何かが少しずつ変わり始めているのだと思います。


そしてリナのほうは、きっとその変化に気づいている。


彼女があの写真を大切に額装して、本棚の真ん中に飾るのも、

ただの気まぐれではありません。


あの一枚は、後々の物語の中で、とても大切な“赤”になっていきます。


リナの二重性


彼女はアーガスをからかい、頬を染めさせる。

でも同時に、肝心な場面では必ず守る。


一銭単位で利益を計算する商人でありながら、

目先の得だけでなく、もっと大きな“構図”のために動ける人でもある。


商人であり、

掌を握る者であり、

しかも温度を持っている。


今の彼女にとってアーガスが何なのか。

それはまだはっきり言えません。


欣賞なのか。

好奇心なのか。

独占欲なのか。

あるいは――。


たぶん、彼女自身もまだ言葉にできていないと思います。


でも、その曖昧さこそがリナの魅力でもあります。


彼女は、ありがちなヒロインのように、

まっすぐ感情を口にしたり、主人公に依存したりはしません。


彼女には彼女の事業があり、野心があり、世界がある。


アーガスは、その世界の一部に過ぎない。

……ただし、少しずつ、確実に、特別な一部になりつつあるのですが。


設定とテンポについて


この作品を書いていて一番楽しいのは、やはり自分の「技術オタク」魂を、堂々と物語に注ぎ込めることです。


「記憶の鏡」の設定は、実は現実世界の初期写真術の発展史から着想を得ています。


この世界の魔法体系である光闇回路と、

化学現像にあたる原理としてのスライム膠質。


アーガスがぶつぶつ考えている細かい技術話には、

初期写真術の理屈をかなり参考にしている部分もあります。

あまり退屈に感じられていなければいいな、と思いながら書いていました(笑)。


そしてこの巻では、もう一つ大切にしたいテーマがありました。


それは、「価値には複数の見え方がある」ということです。


同じ「記憶の鏡」でも、


アーガスにとっては、知識を得るため、そして姉を救うための「道具」。

リナにとっては、肖像画市場や軍事情報のあり方さえ変えかねない「武器」。

守旧派にとっては、秩序を脅かす「脅威」。


技術そのものに善悪はありません。

それをどう使うのか。

そして、どんな「観景窓」を通して見るのか。


そこにこそ意味があるのだと思います。


それらの設定や、キャラクターたちの変化をしっかり描くために、

この巻ではあえてテンポを少し落とし、会話や心理の描写に多めの比重を置きました。


ファンタジーは、ただ敵を倒して強くなるだけの物語ではない。

人と人との絆こそが、もっと大事だと思っています。


アーガスとミリーが「魔粒仮説」を通じて出会ったときの、

“やっと同類に出会えた”という喜び。


挿絵(By みてみん)


あるいは、アーガスとトールがリナのオフィスで交わした、

家族や未来についての、温かい会話。


そういうものこそが、

彼らが――そして私たちが――冷たい世界の中でも前に進んでいくための熱になるのだと思います。


「家」というテーマと、前日譚について


この巻では、繰り返し「家族の温度」を描こうとしました。


アイリーンの強さ。

母の気遣い。

父の誇り。

トールの不器用な優しさ。


それらすべてが、アーガスの力の源です。


彼が高給を断ったあの場面は、

結局のところ、彼にとって家族が何よりも重いのだということを示す場面でもありました。


そして、もし『転生半ドワーフ』シリーズの人物たち、特にアーガスという人間をもっと深く知りたいと思ってくださったなら、まだ前日譚を読んでいない方は、ぜひそちらも読んでいただけたら嬉しいです。


前日譚では、アーガスが転生し、生まれ、この世界を知り始めるまでの物語が描かれます。

主な舞台となるのは、ドワーフの山城にある「アイアンソーン工房」――彼を育て、形作った“家”そのものです。


そこでは、曙光の手袋の由来や、彼がなぜあれほどまでに姉を救うことへ執着しているのか、そしてトールが「こいつの汚い字のせいで何年も俺が濡れ衣を着せられた」と言う理由も見えてきます。


そして何より、アーガスがこの世界の魔法観そのものに違和感を抱き、やがて「魔力流体説」や「魔力粒子」という考え方へ辿り着いていく、その最初の発見と疑問も前日譚の中にあります。


もし興味を持っていただけたなら、ぜひ前日譚にも触れてみてください。

今、学院に立っているアーガスが、何を背負ってここまで来たのかを、より深く感じていただけると思います。


前日譚はこちらです:

https://ncode.syosetu.com/n9922lr/


作品名:

半ドワーフに転生〜揺り籠の中で壊れた戦斧の声を聴いた俺は、家族を壊した罪を背負い、姉を救うため工匠になる〜


ここまで読んでくださったみなさん、本当にありがとうございます。


みなさんの一つ一つの感想や応援が、

この「工匠」と「家族」の物語を、きちんと最後まで語り切りたいと思う力になっています。


そして、もしよければ――

ぜひ感想やコメントも気軽に残していただけたら嬉しいです。


この話のどの場面が印象に残ったか。

どのキャラクターが好きだったか。

この先どうなると思ったか。

ちょっとした一言でも、すごく励みになります。


読んでくださった方の声を聞けるのは、書き手として本当に幸せなことですし、

「この物語を一緒に歩いてもらえているんだ」と感じられて、とても嬉しいです。


挿絵(By みてみん)


次の話では、またテンポが上がっていきます。

より大きな衝突と選択が、彼らを待っています。


そしてリナの「鞘」も、いよいよ本当の意味で刃を見せ始めます。


準備はいいですか?


挿絵(By みてみん)

もし皆さんが執筆中に音楽を聴く習慣がありましたら、

ぜひ私のYouTubeチャンネルにも宝探しに来てください


チャンネル名は

幻想音坊|和風ファンタジーBGM

です。

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Gensō Onbō|幻想音坊【和風ファンタジーBGM】

https://www.youtube.com/@EPIC-3.1415

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