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第二十話-【第二幕:芸術と工業の衝突――そして現れた「ドワーフ」】(挿絵あり)

「皆様、皆様」


 リナの執事であるウォーレン――常に完璧な礼儀作法を崩さない中年の男が、絶妙なタイミングで現れた。

 その声は穏やかだが、芯の通った断固たるものだった。


「当方の製品にご注目いただき感謝いたします。しかし恐れ入りますが、今は技術的な詳細について議論する場ではございません」


 ミリーは鋭く、ある違和感に気づいた。


 あの紫衣の貴族とウォーレンが、ほんの一瞬だけ目を合わせたのだ。

 それはまるで、『任務完了』とでも告げるような確認の眼差しだった。


 直後、ウォーレンは礼儀正しく、しかし一切の揺らぎもない態度で現場の『整理』を始めた。


 真に危うい気配を放っていた者たち――鼠のような目つきで、下を向きながら小さな手帳に何かを書き留めていた連中は、穏やかに、しかし拒絶を許さぬ手際で会場の外へと誘導されていった。


 あの紫衣の貴族でさえ、文句を言いながら外へと案内された。


 しかし、あの画家だけは残されたのだ。


 さらに奇妙なことに、その画家は懐から自作の絵を取り出した。

 色彩豊かで筆致も細やかな、精巧な肖像画だった。


 彼はその絵を、先ほど現像されたばかりのぼやけた写真の隣に掲げ、鮮烈な対比を作り出した。


「皆様、ご覧ください!」


 画家の声はさらに大きくなった。


「これが違いです! 左側が芸術で、右側が工業廃棄物です! 機械で複製した映像のどこに、芸術家が自らの手で創り出した魂があるというのですか? これはただの冷たい道具が作り出した、無機質な死物に過ぎません!」


 見物していた群衆から、同意のさざめきが漏れた。


 ミリーは、この一連の流れのどこかに何かおかしなものがあると薄々感じていた。

 だが、それが何なのかを言葉にすることはできなかった。


 そんな混乱した批判の渦の中で、ミリーはひとつ場違いな人影に気づいた。


 質素な茶色の革服をまとい、籐編みのバスケットを手にした一人のドワーフだった。


 シルクやベルベットで溢れるこの場において、彼の身なりはあまりにも異質だった。

 だがその表情は、異常なほど集中していた。


 彼は機械の片隅にしゃがみ込み、ある歯車の噛み合わせを注意深く観察している。

 時おり小さく頷く様子は、まるで頭の中で何かを計算しているかのようだった。


挿絵(By みてみん)


 ミリーは、思わず何度もその姿を見てしまった。


 このドワーフの集中ぶりは、アーガスを思い出させた。

 技術の細部に向けられる純粋な情熱。

 工芸の世界へ完全に没頭している、あの神情を。


「ミリーお嬢様?」


 ウォーレンの声が、彼女の観察を遮った。


 振り返ると、あの中年執事が職業的な微笑みを浮かべて背後に立っていた。


「リナお嬢様が、上の階の貴賓室へお招きです」


 ウォーレンは恭しく、しかし有無を言わせぬ口調で言った。


「そこでアーガス様をお待ちいただきたいとのことです」


 ミリーの心拍数が再び跳ね上がる。


「待つ? 彼は……彼は大丈夫なんですか?」


「ご安心ください、アーガス様はご無事です」


 ウォーレンはなだめるように言った。


「ただ、いくつか商業的な詳細について話し合う必要があるのです。お分かりでしょうが、このような場では技術者の方の感情は……少々高ぶりやすいものですから」


 一瞬にして、怒りで湯気でも立てそうだったアーガスの姿が、ミリーの脳裏をよぎった。


 あれは単に『高ぶっている』というほど単純なものではない。

 彼女は当時のアーガスの顔色をはっきり覚えていた。

 あれは、尊厳を踏みにじられた後の激しい怒りだった。


 ウォーレンの言葉選びは慎重だった。

 だがミリーは、その裏にある意味を聞き取った。


 ちょうどその時、ミリーはウォーレンが、機械の傍らにしゃがみ込んでいたあのドワーフのもとへ歩いていくのを見た。

 二人の会話は聞き取れなかったが、やがてそのドワーフが立ち上がって頷き、別の従者に付き添われて階段の方へ向かうのが見えた。


「彼も……貴賓室へ行くんですか?」


 ミリーは思わず尋ねた。


「はい」


 ウォーレンの笑顔は、いっそう神秘的になった。


「リナお嬢様の手配は、常に抜かりがございませんので」


 貴賓室へ向かう途中、ミリーは自分があのドワーフと同じ廊下を歩いていることに気づいた。

 二人は礼儀正しい距離を保っていたが、その静けさがかえってミリーを落ち着かなくさせた。


 彼女はこの気まずさを打ち破ろうと、勇気を振り絞って口を開いた。


「あの……」


 声はわずかに震えていた。


「あなたもアーガスの友達ですか?」


 ドワーフは振り返り、彼女を一瞥した。

 少し困惑したような表情を浮かべている。


 輪郭のはっきりした顔立ちに、素朴で実直な眼差しが宿っていた。


「違う」


 彼は短く答えた。


 空気が瞬時に凍りつく。


 ミリーの頬が赤くなり、彼女はしどろもどろになった。


「あ……そうですか、ごめんなさい……」


 前方で、ウォーレンが貴賓室の扉を開けた。

 そこは内装の美しい部屋で、壁には風景画が何枚か掛けられ、テーブルには精巧な茶器が並べられていた。


「お二人はこちらでお待ちください」


 ウォーレンはそう言って部屋から退出し、静かに扉を閉めた。

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