第十六話-【第二幕:天才か馬鹿か?――発明の動機は「図書館の無料枠(フリープラン)」】
彼女の視線は、すべての混乱の源である、あの不格好な黒い装置へと向けられた。
「さて、私の『少し変わった』後輩君。この『ドラゴンの糞』を煮込んでいる鍋が一体何なのか、そろそろ説明してもらおうかしら?」
彼女はまず、微弱な魔法の炎で加熱されているその小鍋を嫌悪感たっぷりに指差した。
鍋の中では、不気味な色と泡を放つ汁が煮えたぎっている。
それから彼女は、傍らにある奇妙な構造をした黒い装置へと視線を移した。
「まずはこの鍋の『サプライズ』について話して。それから、隣にあるそのあまり美味しそうに見えない黒い箱が何なのか、教えてもらいましょうか」
自分の作品に対するリナの冒涜に激怒したアーガスは、顔を真っ赤にして、少し苛立ちを交えながら大声で反論した。
「ドラゴンの糞なんか煮込んでない! 俺は『感光薬』を調合しているんだ!」
彼は身の潔白を証明しようと、半ば苛立ちながらも、どこか宝物を披露するような誇らしげな口調で黒い装置を指差した。
「そしてあれは、薬液と組み合わせて使う『写真――』」
彼はふと我に返り、うっかり口を滑らせそうになったことに気づいて慌てて言い直した。
「いや、『記憶の鏡』だ! 画像を迅速かつ正確に複製するためのツールだ!」
彼は光学結像の原理、感光薬の調合プロセス、そして光と闇の回路の基礎設計について早口で語り始めた。
それらの冷たい技術用語が彼の口から次々と飛び出す。
専門性をもって、リナの低俗な冗談をかき消そうとしているかのようだった。
専門用語の羅列にリナの注意が逸れた隙を突き、アーガスは一歩前に踏み出した。
彼女の手から面白半分に弄ばれていた家族の手紙をひったくり、丁寧に折りたたんで懐にしまう。
私有財産を死守せんとするその必死な防備の姿勢に、リナの口角が微かに持ち上がった。
最初は、リナはアーガスの見慣れない用語で埋め尽くされた技術説明に対し、明らかな苛立ちと不信感を示していた。
彼女は鉄の机を指で軽く叩きながら視線をさまよわせ、まるでつまらない冗談を聞かされているかのようだった。
「光と影の固定? 感光薬?」
彼女は軽く笑った。
「ねえ、後輩君、ドラゴンの糞にやられて頭が少しおかしくなっちゃったの? それとも、そんな訳の分からない言葉で私を誤魔化そうとしているの?」
彼女がこの「変人」を適当にあしらおうとした時。
彼女の視線は小鍋のそばにある数枚の薄く半透明な薬板に引きつけられた。
それはアーガスが薬液の比率をテストするために作った一時的な試作品であり、その上には魔法によって短時間だけいくつかの映像が固定されていた。
リナは少しの好奇心を抱き、その中の一枚を手に取った。
そこには、極めて鮮明な、窓の外の木の幹の映像が写っていた。
彼女は無意識に窓辺へ歩き、その半透明な薬板を窓の外の実際の景色と見比べた。
――彼女の瞳孔が激しく収縮した。
薬板の上の映像は、窓の外の木の幹でやかましく鳴いている秋の蝉、その羽の模様、木の幹のしわ、光と影の分布まで……完全に一致していたのだ!
さらに横にある葉っぱの虫食いの穴まで、寸分の狂いもない!
この瞬間、リナの顔からすべてのからかいと気怠さが消え失せた。
彼女は勢いよく振り返った。
その青い瞳の中には、初めて、驚愕と狂熱が入り交じった、捕食者が究極の獲物を見つけた時のような光が燃え上がっていた。
彼女はまだペラペラと喋り続けていたアーガスの言葉を遮り、かつてないほど厳粛で、命令に近い語気で言った。
「……あなた、今言ったことを全部、一言一句違えずに、もう一度私に説明しなさい」
今回、リナは全く新しい、極度に集中した態度で、アーガスの説明を改めて聞き入った。
そして彼女の脳は、恐るべき「翻訳」を開始した。
しかしアーガスが技術的な詳細をとうとうと語っている時、彼女は突然それを遮った。
「待って」
リナは目を細め、商人特有の抜け目なさを見せた。
「あなたはこれを『迅速に画像を複製するため』に発明したと言ったわね。でも不思議なの――一年生の新入生であるあなたが、どうしてそんなに急いで物を複製する必要があるの?」
アーガスは言葉を区切り、少し気まずそうに頭を掻いた。
「それは……図書館のためです」
リナの怪訝な顔を見て、彼はため息をつき、説明を始めた。
「学院図書館の無料エリア(フリープラン)には、基礎的で時代遅れの資料しかありません。本当に役立つ知識はすべて上級エリアにありますが、そこに入るには学内ポイント(クレジット)を消費しなければなりません」
「そして俺は……」彼は苦笑した。「平民の新入生として、持っているポイントはほんのわずかです。今入ったとしても、せいぜい一、二時間しかいられません。あの重要な魔法理論、複雑な陣形図、貴重な研究ノート……すべてを書き写す時間なんて到底ありません」
リナは何かを考えるように頷き、彼に続けるよう促した。
「だから俺は考えたんです。もし、極めて短い時間で、ページ全体のコンテンツを完全に『記録』できる方法があれば……」
アーガスの目は熱を帯びた。
「そうすれば、限られた時間の中で、より多くの知識を保存できる!」
「なるほどね」
リナの口角に、意味深な笑みが浮かんだ。
彼女から見れば、この理由はリアルでありながら天真爛漫だった。
学習のために発明するなんて、なんて純粋な動機だろう。しかし、彼女の商業的頭脳はすでに高速回転を始めていた。
「これなら一瞬の光と影を、薬板の上に固定できるんです」
アーガスは説明を続けた。
リナの瞳孔が収縮した。
肖像画市場の終焉、軍事偵察の革命、情報戦の究極兵器、そして全く新しい「芸術」の流派の誕生!
「でもこれは……」
リナは手にある試作品を持ち上げ、そこにある木の幹の映像を吟味した。
「木や虫、本のような静物しか複製できないの?」
「まさか!」
アーガスは少し興奮して反論した。
「理論上、いかなる対象でも可能です――人間も含めて。ただ、俺はこのスライムのゲルを手に入れたばかりで、まだ最適な薬液の比率をテストしている最中なんです」
「この映像を見てください」
彼は薬板を指差した。
「この数枚の『写真』は、色の濃淡の階調がまだ不十分で、現像効果をさらに調整する必要があるんです」
ちょうどその時、リナの手にあった半透明の薬板の映像がぼやけ始めた。
それと同時に、机の上の他のテスト品も点滅し始め、葉っぱや虫の羽の映像が次々と薄れていき、最終的に完全に消え去った。
これらはすべてアーガスが疑似魔法を使って一時的に固定した映像であり、時間が来れば煙のように消散してしまうのだ。
「疑似魔法の制限時間が切れました」アーガスは説明した。「これらは一時的なテスト品に過ぎません。本物の永久的な映像を作るには、完全な薬液処理のプロセス(パイプライン)が必要なんです」
リナの口角が上がった。
素晴らしい。調合が複雑だということは、技術的な障壁が存在し、「独占」できる可能性を意味している!
この瞬間、リナがアーガスを見る目が変わった。
彼女にからかわれて顔を真っ赤にしていたこの田舎の少年は、本当にどうやら途方もないものを発明してしまったらしい。
さらに面白いことに、彼はこの技術の商業的価値に全く気づいていないようだ。いまだに図書館での学習問題で頭を悩ませているのだから。
天才か、それとも馬鹿か。案外、その両方かもしれない。
リナは心の中でそう思い、口元に面白がるような笑みを浮かべた。
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