第十五話:【第三幕:引き算の設計】(挿絵あり)
アーガスの思考が加速する。
必要なのは、たった一発。
なら、一発のために全部を捨てる。
弾薬生成。
削除。
現場には鉄木も岩もある。
弾体は外から入れればいい。
自動装填。
削除。
手で詰める。
連射。
削除。
二発目を考える必要はない。
推進魔法の自己供給。
削除。
周囲には火属性の矮人がいる。
曙光だけで出力を賄う必要はない。
外部から魔力を入れる。
底火に相当する起動部へ、複数人の火属性魔力をまとめて流し込む。
残すもの。
コア・スレッド。
物質成形:砲身構築。
それだけ。
極端に厚い管壁。
滑腔。
装飾なし。
複雑な付加術式なし。
照準補助なし。
ただ、圧力に耐える。
弾体を前へ通す。
その二つだけを満たす、巨大な管。
醜くていい。
粗くていい。
壊れなければいい。
アーガスの頭の中で、形が固まり始める。
問題は一つ。
曙光の演算能力が足りない。
普段の擬似魔法は、事前に作ったモジュールを読み込み、構築する。
今回は違う。
設計図そのものが、まだ存在しない。
戦場で設計し。
戦場で演算し。
戦場で構築する。
時間はない。
実体の魔陣図を描く余裕もない。
「なら……僕がやる」
自分の脳を、曙光の外付けGPUにする。
発想した瞬間、自分でも馬鹿だと思った。
それでも他にない。
アーガスは目を閉じた。
頭の中へ、曙光の回路図を呼び出す。
魔力導線。
接続点。
分岐。
制御節点。
一本ずつ置く。
次に、その上へ擬似砲身の構成を重ねる。
ただの絵では駄目だ。
魔力は動く。
入力される。
分岐する。
流量が変わる。
構築位置ごとに必要量も違う。
頭の中で、魔力を実際に流し続けなければならない。
一本の導線を間違えれば、構成が崩れる。
一つの接点がずれれば、砲身の厚みが狂う。
一瞬でも像が途切れれば、擬似物質は現実から消える。
〇・一秒。
それだけ意識が逸れても危ない。
戦場の音を切る。
母獣の咆哮を切る。
仲間の声を切る。
痛みを切る。
頭の中へ残すのは、回路と砲身だけ。
アーガスはその細い一本の上へ、意識の全重量を乗せた。
落ちれば終わる。
渡り切っても、その先に成功がある保証はない。
それでも進む。
今は、それしかなかった。




