第十五話:【第二幕:赤い帝国の亡霊】(挿絵あり)
「……戦車?」
自分の思考に、自分で引っ掛かった。
戦車。
細い棒で重戦車を殴る。
だから通らない。
アーガスの呼吸が止まった。
なぜ通らない。
口径が足りない。
質量が足りない。
速度が足りない。
つまり。
火力が足りない。
前世で何度も目にした、くだらない言葉が脳裏をよぎった。
恐怖は、火力不足から生まれる。
笑い話だった。
今だけは違う。
散弾が通らないなら、もっと大きな弾を撃つ。
それでも通らないなら、さらに大きくする。
銃で足りないなら。
「……砲」
アーガスの目が止まった。
そこから先だけ、思考が急に澄んだ。
白い荒野。
シベリアの凍土。
刺すような寒風。
黒煙を吐きながら雪原を進む、鋼鉄の車体。
前世の記憶が蘇る。
粗い鋳肌。
厚い装甲。
無骨な溶接痕。
巨大な砲塔。
そして、前方へ伸びる太い砲身。
IS-2重戦車。
122mm D-25T。
優雅さなど要らない。
乗り心地も要らない。
必要なのは、敵の装甲を砕き、陣地へ高爆弾を叩き込む力。
七五ミリで足りないなら、一二二ミリ。
火力こそ正義。
口径こそ真理。
前世なら笑って流した言葉が、今は一つの設計思想として立ち上がる。
その単純さが、今は美しかった。
アーガスの口元が僅かに上がる。
銃も砲も、やることは同じだ。
管の中でエネルギーを膨張させる。
弾体へ運動量を与える。
前へ飛ばす。
それだけ。
魔法世界の常識も、詠唱の格式も関係ない。
必要なのは、母獣の甲殻を抜けるだけの質量と速度。
なら作る。
砲を。
頭の中で、曙光V2.0の構成図が開いた。
【モジュール再構築:曙光V2.0 双管滑腔散弾モジュール → 擬似重砲】
赤い警告が一斉に点く。
出力上限超過。
魔力回路耐圧超過。
擬似物質維持量超過。
演算負荷超過。
どれも正しい。
今の曙光に、重砲を丸ごと載せる余裕はない。
「だったら……削る」
アーガスの瞳が細くなった。
作るものを増やす必要はない。
捨てればいい。
安全。
携行性。
連続使用。
自動化。
今この一発に要らないものを、全部切る。
恐怖の底で、技師の思考がようやく回り始めた。




