第十四話:【第五幕:火力不足】(挿絵あり)
「嫌だあああっ!」
アーガスの叫びが背後へ流れた。
両腕を矮人に掴まれ、強引に引きずられている。
ゲイルたちは鉄木の壁の一角へ集まっていた。
斧。
槌。
残った武器を一斉に叩き込む。
枝を切る。
根を割る。
人一人が這って通れる穴を作る。
「急げ!」
ゲイルが叫ぶ。
「一人ずつ抜けろ!」
トールも二人に押さえられていた。
目が赤い。
身体を捩り、何度も黒曜の方へ戻ろうとする。
「放せ! くそったれ、ゲイル! 放せ!」
そして、アーガスを見た。
「くそったれ、アーガス! 俺の命の恩人を見殺しにする気か!」
アーガスの肩が止まる。
「お前、いつも変なもん爆発させてるだろ! 何でも作るんだろ! 何か考えろ! このまま逃げる気か!」
トールの声が森へ響く。
「俺は一生許さねえぞ!」
言葉が胸へ刺さる。
アーガスは何も返せなかった。
返したい。
助けたい。
頭の中では、とっくに何百通りも試している。
曙光。
滑腔銃。
網。
火魔法。
鉄木。
残った材料。
全部足りない。
指が掌へ食い込む。
血が滲んだ。
足りない。
理論があっても。
構造が分かっても。
撃ち込む力が足りない。
あの巨体へ届く出力がない。
火力不足。
その四文字だけが残った。
トールの怒鳴り声が、もう一度頭の中で響く。
爆発。
火力。
足りない。
なら。
アーガスの呼吸が止まった。
必要なのは、もっと大きい出力。
あの甲殻ごと吹き飛ばせるだけの。
森の一角すら消し飛ばすほどの。
常識の外側にある火力。
目が上がる。
さっきまで絶望で沈んでいた瞳の奥に、別の光が灯った。
怖さは消えていない。
答えもまだない。
それでも、考えるべきものは一つに絞られた。
もっと大きな爆発。
それが要る。
「……火力だ」
アーガスが呟いた。
「何?」
横の矮人が聞き返す。
アーガスは答えなかった。
身体が穴へ押し込まれる。
その直前。
必死に振り返った。
遠く。
鉄木の闘技場の中央。
黒い小さな影が、二つの巨大な赤い眼へ向かって走っていた。




