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第十四話:【第四幕:鉄木の闘技場】

 母獣はすぐには追ってこなかった。


 十二本の金属脚が広がる。


 脚の先端が地面へ深く刺さった。


 轟音。


 土が盛り上がる。


 一本の鉄木が根ごと持ち上がった。


「なっ……」


 誰かが声を失う。


 五人がかりで抱えるほどの巨木。


 母獣はそれを雑草のように引き抜いた。


 根に絡んだ岩が落ちる。


 土塊が砕ける。


 そして投げた。


 巨大な鉄木が空を横切る。


 どん、と地面へ落ちる。


 もう一本。


 また一本。


 母獣は周囲の鉄木を次々と抜き、四方へ放っていった。


 煙。


 土。


 折れた枝。


 視界が埋まる。


「暴れてるだけか?」


 若い矮人が言った。


 アーガスは答えなかった。


 投げる方向は散っている。


 一本ごとに角度も違う。


 それでも、落ちる場所には規則があった。


 煙が薄くなる。


 アーガスの顔から血の気が引いた。


「囲まれてる……」


 巨大な鉄木が、円を描いて積まれていた。


 十メートルを越える壁。


 根と枝が互いに噛み合い、簡単には抜けられない。


 外周が、ぐるりと閉じている。


 獲物を逃がさない円だった。


 鉄木で作られた巨大な檻。


 全員が、その中に入れられている。


「チッ」


 黒曜が舌打ちした。


「遅かったですね」


 振り返る。


 異色の瞳が、アーガスたちを見る。


「脱出口は自分たちで作ってください」


 黒曜は母獣へ身体を向けた。


「ここからは、私が止めます」


 トールが何か言おうとする。


 黒曜が先に口を開いた。


「もし外へ出られたら」


 声が僅かに柔らかくなった。


「お嬢様に、お伝えください」


 風に黒髪が流れる。


 口元が、ほんの一瞬だけ柔らいだ。


「黒曜は、もう髪を梳いて差し上げられません、と」


 アーガスの胸が詰まった。


「待って」


 黒曜はもう聞いていない。


 身体を低くする。


 片足を引く。


 黒曜石の刃を低く構える。


 退路を残さず、重心を前へ落とす。


 次の瞬間。


 地面を蹴った。


 黒い影が一直線に走る。


 母獣へ。


 十二本の金属脚が待つ中心へ。


「黒曜さん!」


 声は届かない。


 黒い姿が巨大な赤い眼へ向かっていった。

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