第十三話(下)-【第五幕:勝利の余熱】
しばらくして、矮人たちの声が戻った。
傷を確認する。
外れた鎧を直す。
落とした武器を拾う。
網に縛られたキメラ熊を囲む。
誰かが笑った。
「ははっ。これでバロックの野郎も黙るだろ!」
「生け捕りだぞ。しかもこんな化け物をだ!」
「公会に持ち込んだら大騒ぎだな」
「その前に、どうやって運ぶ?」
「ヴァンデル商会に考えさせろ!」
「そういや報酬もあるんだったな!」
別の男が腕を上げた。
「酒だろ!」
「そうだ! リナちゃん、酒は好きなだけ飲ませるって言ったぞ!」
「三日だ!」
「四日!」
「帰ったその日から一週間!」
「お前は死ぬまで飲んでろ!」
笑いが広がった。
若い矮人が祝杯の歌を鼻歌で歌い始める。
別の男は、報酬が入ったらどこの酒場へ行くかで隣と揉めている。
トールもズボンをきちんと上げ、腰帯を締め直していた。
「二度と森で小便しねえ」
ぼそりと言う。
ゲイルが横から鼻で笑った。
「次から漏らせ」
「そっちの方が嫌だ!」
また笑いが起きる。
穴の底から低い声がした。
「ゥ……ゥゥ……」
皆の視線が落ちる。
キメラ熊だった。
身体は三枚の網に縛られ、ほとんど動かせない。
それでも喉だけは動いている。
「ゥゥ……ゥゥ……」
細く長い声。
間を置く。
また同じ長さ。
「ゥゥ……ゥゥ……」
トールの眉間に皺が寄った。
「うるせえな」
足を引きずりながら近づく。
さっき殺されかけたばかりだ。
顔を見るだけで腹が立つ。
「てめえのせいで死にかけたんだぞ」
金属靴で熊の頭を蹴る。
ごん。
「黙れ!」
もう一度。
ごん。
「次に鳴いたら牙ぁ抜くぞ!」
キメラ熊の首が動いた。
静かになる。
トールが鼻を鳴らした。
「分かりゃいいんだよ」
直後。
「ウゥオオオオオオッ!」
熊が首を反らした。
さっきより遥かに大きい。
高い。
細く伸びる声が、鉄木の森を突き抜けていく。
「うるせえ!」
トールがまた足を上げる。
アーガスは動かなかった。
耳だけが、その声を追っていた。
長い。
切れる。
間。
もう一度。
同じ間隔。
同じ高さ。
同じ長さ。
笑い声が、少しずつ消えていった。




