第十三話(下)-【第三幕:狩りの終幕】(挿絵あり)
轟音が森を揺らした。
キメラ熊が地面へ落ちた。
泥が爆ぜる。
岩が砕ける。
腐葉が壁のように舞い上がった。
衝撃波が低木を薙ぎ、近くにいた矮人たちの外套を大きくはためかせる。
地面には巨大な窪みができていた。
その中央。
キメラ熊が横倒しになっている。
数トンの自重と落下の勢いをまともに受け、口と鼻から血を流していた。
それでも息はある。
「グ……オ……」
頭を振る。
起き上がろうとする。
背中の六本の金属脚が泥を突き、身体を支えようと暴れた。
「今だ!!」
アーガスの声が煙塵を切った。
どん!
どん!
二つの重い音がほとんど同時に鳴る。
トール。
ゲイル。
二丁の網銃から、重り石を付けた鬼面蜘蛛の網が飛び出した。
左右から広がる。
一枚目が熊の肩から胴へ覆い被さる。
二枚目が後脚から腹へ巻きつく。
重り石が勢いのまま回った。
糸が巨体を抱え込む。
「グオッ!」
熊が暴れた。
前脚を振る。
金属脚を開く。
網を裂こうとする。
裂けない。
三股に撚った鬼面蜘蛛の糸が、一本ずつ荷重を受け止める。
動くほど重り石が回り、網目が締まる。
黒い毛皮へ銀白色の線が食い込んだ。
「まだ!」
アーガスは左手を下げた。
曙光へ送っていた魔力を止める。
手甲の上に残っていた双管滑腔散弾モジュールが、青白い粒へほどけた。
二本の管。
撃発部。
輪郭。
すべてが光になり、空気へ消える。
アーガスは足元の網銃を掴んだ。
充填は終わっている。
低い唸りが掌へ伝わった。
走る。
「アーガス!」
トールが叫ぶ。
止まらない。
巨大な窪みの縁まで駆ける。
熊の背では、六本の金属脚がまだ動いていた。
一本が網を押す。
一本が泥を掻く。
残りも拘束を抜けようと、ばらばらに暴れている。
最後まで危険なのは、あれだ。
アーガスは網銃を構えた。
狙う。
六本の金属脚。
その関節が集まる位置。
「いい加減に……寝てろ!」
引き金を引く。
どん!
三枚目の網が開いた。
銀白色の糸が金属脚へ絡む。
重り石が節足の間を潜り、回転する。
一本。
二本。
三本。
六本すべてが互いに引き寄せられた。
関節同士が重なる。
さらに網が締まる。
金属脚が一つの束になった。
キメラ熊が最後に大きく身体を捩った。
網が軋む。
泥が削れる。
切れない。
もう一度。
身体を振る。
さらに締まる。
「グ……ゥ……」
低い呻き。
熊の力が抜けた。
大きな頭が泥へ落ちる。
胸だけが激しく上下している。
動けない。
噛みつけない。
金属脚も開けない。
巨大な黒褐色の身体が、三重の銀白色に縛り上げられていた。
アーガスは網銃を下ろした。
息を吐く。
手が震えている。
「……捕まえた」
誰かが呟いた。
ゲイルだった。
次の瞬間。
「捕まえたぞ!」
トールの怒鳴り声が森に響いた。
今度こそ。
狩りは終わった。




