第九話-【第三幕:自殺設計】
そこで、トールの目が図面の中央へ止まった。
顔がまた険しくなる。
「待て」
太い指が、発射筒の後部へ置かれる。
「網は分かった」
指先が空気室の構造を叩く。
「問題はこっちだ」
どん、と卓が鳴った。
「お前、火魔法を推進力に使う気だろ」
アーガスが黙る。
トールの目が吊り上がった。
「筒の中で火球を炸裂させるようなもんじゃねえか!」
部屋の空気が再び重くなった。
「黒鉄の管は内側から裂ける。厚くすりゃ耐えるが、誰も持てねえ。持ち運べる重さまで削れば、今度は撃った瞬間に破裂する」
図面を指で追う。
「その上、網を均等に開く散布角まで要る?」
トールは図面から顔を上げた。
怒りの奥に、露骨な恐怖があった。
「薄くして、軽くして、爆発に耐えさせる。そんなの豆腐を削って盾を作るようなもんだ!」
拳が卓へ落ちた。
「俺は作らねえ」
「トール兄」
「作らねえって言った」
低い声だった。
「弟の腕を吹き飛ばす道具を、俺の槌で仕上げろって?」
トールはアーガスを睨んだ。
「冗談じゃねえ」
試験室の空気が、重い鉄塊のように沈んだ。
網は成立する。
捕獲という戦術も成立する。
最後に残った発射機構だけが、材料の限界へ突き当たっていた。
「材料だけで受ける必要はない」
アーガスが口を開いた。
図面の内壁を指す。
「ここに逆向きの緩衝陣を入れる。発射と同時に起動させて、魔力の反力をぶつけるんだ。計算上は物理的な反動を三割前後まで逃がせる」
「計算上?」
「実際には管壁の弾性と圧力損失を」
白い手が図面へ置かれた。
アーガスの指先を覆うように、複雑な紋様の上へ掌が落ちる。
リナだった。
彼女はアーガスを見る。
小さく首を振った。
そこで話すな。
目がそう言っている。
アーガスは口を閉じた。
トールの頭には、式より先に弟の腕が吹き飛ぶ光景がこびりついていた。
安全率を何桁説明しても、その光景を消せなければ意味がない。
リナは図面へ目を落とした。
細い指が発射管の輪郭をなぞる。
長く息を吐く。
「そうね」
声には珍しく諦めが混じっていた。
「トールさんの言う通りだわ」
トールの耳が動いた。
アーガスも横を見る。
リナ・ヴァンデルが、こんなに簡単に引く。
その時点で嫌な予感しかしない。
「こちらが無理を言いすぎた」




