第五話-【第六幕:命を懸けた奇跡】
驚きと恐怖を抱えたまま、リナは部屋の中央へ目を向けた。
そこには、ぼろ布で覆われた正体不明の物体があった。
リナは手袋をはめたまま、煤の残る指で、その布をそっとめくる。
土埃が舞う。
その下から、V2・5・1と記された怪物が姿を現した。
醜かった。
本当に、醜かった。
図面にあった滑稽な赤と白の配色が残っている。
出来の悪いドワーフの玩具のようでありながら、重要な関節と中枢部分には、獰猛な修復の溶接跡がびっしりと走っていた。
太さの異なる銅線が、十数本も血管のようにむき出しになっている。
いくつかは錆びて断裂し、いくつかは針金と布で無理やり束ねられていた。
末端には、乾いた血に見える黒い染みさえ残っている。
それは魔導具というより、無理やり縫い合わされた鋼鉄の死体だった。
その下に、一枚の羊皮紙が敷かれていた。
そこには、帳簿のように細かく詠唱文が書き込まれている。
リナは顔を近づけ、光を頼りに、ドワーフ文字を小声で読み上げた。
「統合治癒式……第一系統、駆散式……対象、活性暗黒呪い……手動終了まで」
声が途切れた。
リナは口元を覆い、瞳孔を小さくした。
活性暗黒呪い。
記憶が、潮のように押し寄せる。
半年前、学院で開かれた特別な入学面接。
あの時、質素な服を着たハーフドワーフの少年は、高位の呪いに対抗した経験があると語ろうとしていた。
その場にいた多くの導師たちは、少年の誇張か、注目を集めるための大言壮語だと思っていた。
リナ自身も、完全には信じていなかった。
だが今、証拠が目の前にある。
過程を示す品だけなら、まだ疑いようはあった。
目の前には、結果まで揃っていた。
帳簿のように精密な詠唱。
醜く、しかし動いた機械。
壁に残された失敗の跡。
それらはすべて、血と涙で舗装された道だった。
そして本当の結果は、彼の姉アイリーンが生きていることだ。
車椅子に座り、歩く力を失っても、笑うことができ、話すことができ、アーガスの帰りを迎えることができる。
その姉こそが、この死神との綱引きで奪い返した、最終的な戦利品だった。
アーガスは勝ったのだ。
こんな粗末な部屋で、たった一人で。
高位の牧師でさえ手を出せなかった呪いから、無理やり一つの命を奪い返したのだ。
「彼……嘘つきなんかじゃない」
リナの声は、少し震えていた。
「狂人だわ。死神でさえ恐れるほどの狂人よ」
彼女は機械のそばにある、最新の記録へ目を落とした。
V2・5。
魔力伝導性の高い銅線を直接傷口へ挿入。
新組織が呪いの反発を助長。
姉さんが悲鳴を上げ、血を吐いた。
俺は危うく彼女を殺すところだった。
さらに、その下。
V2・5・1。
家族の魔法と統合治癒の詠唱を導入。
アイリーンの命を救うことには成功。
ただし、足の感覚は失われた。
工学的な均衡は取れた。
だが、人としては惨敗だ。
ごめんなさい、姉さん。
俺は、屑だ。
リナは動けなかった。
この部屋には、成功の歓喜などなかった。
あったのは、勝利の形をした後悔だけだった。




