第五話-【第五幕:絶望の痕跡】(挿絵あり)
リナは空中に小さな魔法陣を描き、淡い光球を呼び出した。
青白い光が、閉ざされた部屋の中へ細長い影を落とす。
そこは、工匠の研究室より、魂を閉じ込める禁閉室に近かった。
冷たく、硬く、余計な飾りは一切ない。
空気には、古く刺すような匂いが満ちていた。
硫黄。焦げた金属。長く放置された錬金薬液の揮発臭。
リナはかすかに眉をひそめ、光球を壁へ向けた。
壁には、焦げ跡がびっしり残っていた。
普通の煙による黒ずみではない。
高い力が一瞬で爆ぜた後に残る、炭化した軌跡だった。
放射状に広がる跡もあれば、石壁に深く食い込んだものもある。
爪痕のように壁紙を裂いているものさえあった。
リナは指を伸ばし、放射状の跡の中心をそっと撫でた。
冷たい石壁が、わずかに内側へへこんでいる。
表面が焼けただけではない。
当時の衝撃が、硬い岩そのものを歪ませたのだ。
「これは、試験なの? それとも命を賭けた賭博なの?」
リナは低く呟き、別の壁へ視線を移した。
そこには羊皮紙や草稿がびっしりと打ち付けられていた。
紙が何層にも重なり、釘の周囲は破れ、端は煤で黒ずんでいる。
リナは近づき、光を頼りに読み取る。
そこにあるのはアーガスの筆跡だった。
だが今より幼く、乱雑で、崩れかけた精神を押し込めた粗さがある。
失敗の記録だった。
最も古い黄ばんだ紙には、赤ん坊の揺りかごの粗い図が描かれていた。
床板には奇妙な溝が刻まれ、その横に小さな注釈がある。
物理的な誘導は成功。
ただし赤子の脈絡幅が不足。
流量過多。
生理的な壁が、俺の意志を阻んでいる。
リナの指が、その行の上で止まった。
赤子。
彼は、そんな頃からこれを考えていたのか。
上へ目を移すと、半分焼けた紙があった。
端は黒く焦げ、文字は震え、ほとんど読めない。
さらに上には、息が詰まるほどの空白が広がっていた。
何度も丸められ、また伸ばされた草稿。
図形のない紙。
意味の分からない記号だけが書かれた紙。
リナには、その記号を読むことはできなかった。
だが、そこから滲み出る絶望は分かった。
見知らぬ世界の崖際を、目隠しのまま手探りで進む者の記録だった。
次に現れたのは、奇妙な図面だった。
V2・5。
紅白の機械。
そこには、四角く不格好な装置が描かれていた。
鮮やかな赤と白。
極端に単純で、いっそ粗末に見える形。
美しくはない。
むしろ醜い。
だがその醜さには、異質な孤独があった。
リナは数多の種族の商品を見てきたが、これほど場違いな設計は見たことがない。
厳粛な葬儀の中に、滑稽な道化服が紛れ込んだような違和感。
その奥に、狂気と悲しみが同じ場所へ沈んでいた。
注記にはこうあった。
魔法を掌握できないなら、物理構造で押し切る。
外観はどうでもいい。
醜くても構わない。
動けばいい。
リナには、その紅白の機械が何を意味するのか分からない。
けれど、その継ぎ接ぎだらけの切実さは理解できた。
これは、追い詰められた人間が、手元にあるすべてのがらくたを使って組み上げた希望なのだ。
彼女の視線は、部屋の最も暗い隅へ落ちた。
そこには一つのガラスケースが置かれている。
中には、黒焦げになり、ねじ曲がり、ほとんど形を失った鉄片の残骸が納められていた。
傍らには、びっしりと文字の書かれた手記がある。
だがそれは共通語でも、エルフ語でも、ドワーフのルーンでもなかった。
四角く、構造の厳密な、見たことのない記号。
リナには一文字も読めない。
アーガスが自分を守るために作った、独自の暗号なのだろう。
しかし、横に描かれた粗い絵の意味は分かった。
山がある。
鉄峰山城だ。
その山頂から、巨大で身の毛がよだつキノコ型の雲が立ち昇っている。
雲の下には、赤いインクで大きな髑髏と三つの感嘆符が描かれていた。
周囲の計算は赤で何度も修正され、取り消され、紙が破れそうなほど強く刻まれている。
その終点は、すべて絶望的なゼロか、壊滅を意味する記号へ収束していた。
リナは息を呑んだ。
彼女は一瞬、それを芸術的な誇張だと思おうとした。
山に沿って築かれた鋼鉄の要塞全体を一瞬で消すなど、伝説の禁呪でさえ難しい。
それでも、赤い文字から滲み出る恐怖と決意だけは本物だった。
この狂人は、一体何と命懸けの勝負をしているのか。




