第四話-【第四幕:五分で終わる完璧な報告】
三十分。
ヴァンデル商会の実務チームにとっては、工房全体の状況を把握するには十分な時間だった。アーガスにとっても、散らばった手がかりを一つの論理へ編み上げるには十分だった。
臨時に片づけられた作業台の前に、アーガスは立っていた。背後にはアイリーンが整理した在庫分布図。横には赤く変色したリトマス草と、まだ送られていない討伐依頼書が置かれている。
彼は煤のついた襟元を整え、振り返った。
ブレイクはまだ隅にいた。顔は赤黒く、先ほどの屈辱を飲み込みきれていない。サラはその手を握り、夫が再び衝動に駆られないよう祈るように寄り添っている。
アーガスは歩み寄り、父の強張った肩を軽く叩いた。
「父さん、怒らないでください。彼女は俺たちを潰しに来たんじゃない。問題を解きに来たんです」
ブレイクは息子の黒い瞳を見た。しばらくして、長く息を吐く。張り詰めた肩から、わずかに力が抜けた。
アーガスは顔を上げ、広場の中央にいるリナを見た。
リナはウォーレンの低声の報告を聞いていた。だが彼の視線に気づいたのか、ほんのわずかに顔を横へ向ける。
二人の目が合った。
リナの表情は冷淡なままだった。だが、その青い瞳の奥に、アーガスは小さな承認を見た。彼女は、本当にわずかに頷いた。
よくやった。怯えなかったわね。次はあなたの番よ。
そう言われた気がした。
アーガスは小さく息を吸った。
「トール兄さん」
彼は振り返らずに、背後の兄へ手を伸ばした。
「兄さんが持っている昨夜の測定記録を、執行官に渡してください」
「お、俺が……行くのか?」
トールの声は震えていた。目の前のリナは、彼が知っている銀鈴の少女ではない。氷山のような女王だ。
「行ってください。その記録は兄さんが自分で取ったものです。兄さん以上に説明できる人はいません」
その一言が、トールの背中を押した。
彼はまるで処刑場へ向かうように、ぎこちない足取りでリナへ近づいた。
「あの……執行官のお嬢様……これが、昨晩のデータです」
煤と油で汚れた手が、くしゃくしゃになった羊皮紙を差し出す。
トールはすぐに後悔した。汚い。こんな手で貴族の令嬢に紙を渡すなど、ひどい無礼ではないか。
だがリナは避けなかった。
白いレースの手袋をはめた手で、彼女はその汚れた羊皮紙を迷いなく受け取った。煤が白い布に移る。それでも彼女の視線は、汚れではなく数値だけを追っていた。
「ありがとう」
声は冷たい。だが、嫌悪はなかった。
トールの肩から、巨大な力が抜けた。彼は長く息を吐き、逃げるように下がった。
アーガスはその様子を見て、気づかれないほど口角を上げた。
これがリナだ。
本当の問題を前にした時、彼女は誰よりも純粋になる。
彼は鉄の棒を取り、指示棒の代わりにした。
「報告準備が完了しました」
すべての視線が彼へ集まる。リナは軽く手を振り、周囲の技師たちを停止させた。
「始めて」
アーガスは背後の手書き図表を指した。声は澄んでいた。
「鉄木断裂事故について、現象の整理、原因分析、解決策。この三点から報告します」
その構造化された前置きだけで、商会の技術者たちの目が変わった。
目の前にいるのは、くどい弁明をする職人ではない。標準以上の技術報告を行う者だった。
「第一に、現象の整理です。ここ数日間の初期検査によれば、断裂および内部腐食が確認された製品は、すべて秋収月に仕入れた第百三ロットに集中しています。他のロットの不良率はゼロです」
彼は一拍置き、数値に語らせた。
「第二に、原因分析です」
アーガスは赤く変色したリトマス草を持ち上げた。
「これは該当ロットの木材の芯に対する反応です。強酸性。木質繊維が、生物由来の酵素によって内側から壊されている可能性が高い。これは工芸上の失敗ではありません。構造設計の問題でもありません。原料汚染です」
ブレイクとトールは、堂々と語るアーガスを見つめていた。
彼らが知っていた、体力がなく、変な本ばかり読んでいた少年は、いつの間にこんな姿になったのか。
リナもまた、表情には出さずに驚いていた。
この田舎の少年は、ボロボロの帳簿と数束のリトマス草だけで、彼女の商会が半日かけて得た結論へ届いていたのだ。
「悪くないわ」
リナは冷たく言った。
「私のチームも、昨日には同じ結論を出している。あなたの整理は、私たちの検証時間をかなり省いてくれた」
それは褒め言葉だった。だが、ブレイクには冷水のように聞こえた。
「でも、顧問さん」
リナは一歩前へ出た。
「それは現象にすぎない。原料汚染だと分かっているなら、汚染源は何? 源を潰せないなら、次のロットはどうなるの? ヴァンデル商会は、いつ供給が止まるか分からない工房へ、なぜ資金を入れ続けなければならないのかしら?」
これが最後の問いだった。




