第三話:【第一幕:希望のノック】(挿絵あり)
第三話:古傷と新たな痕跡
アイアンソーン工房は静まり返り、炉の火さえ小さく爆ぜるだけだった。
ブレイクは壊れた車椅子の前にしゃがみ込み、曲がった鉄管を両手で握っていた。節くれ立った指に力が入り、関節が白く浮き上がっている。ときおり槌の先で断裂した接合部を軽く叩くたび、歪んだ金属がぎしりと低い音を返した。
低い金属音が鳴るたび、長年積み上げてきた自分の手仕事への疑いが深くなった。
トールは傍らで裂けた革張りを広げていた。椅子の荷重を受ける箇所に亀裂が走り、乾いた土のように表面が割れている。彼は何度も指で傷をなぞったが、原因らしいものは見つからなかった。
昨日、竜税官バロックが視察を口実に突きつけた恫喝が、まだ工房の隅々に残っていた。誰も口を開かない。炉の薪が時折はぜ、ブレイクの吐息が重く落ちる。
その静けさを、控えめなノックが破った。
一度目は、聞き違いかと思うほど弱かった。
ブレイクが手を止める。トールも顔を上げ、父と息子は短く視線を交わした。
こんな時に、誰が来る。
再び扉が鳴った。今度は少しだけ強い。
ブレイクはゆっくり立ち上がり、入口へ向かった。かんぬきを外し、厚い扉を引く。
門前に立つ男を見た瞬間、彼の手が止まった。
「ゲイル……?」
かつて山野を駆け回っていた猟師は、三ヶ月前の面影が薄れるほどやつれていた。頬は落ち、目の下には濃い影がある。右腕は身体の脇に垂れたまま動かず、肩から先の筋肉も目に見えて細くなっていた。
ゲイルは左手で右腕を支え、かろうじて姿勢を保っていた。
「ブレイク大師」
嗄れた声だった。
「突然すみません。俺の右腕……もう三ヶ月以上、何も感じないんです」
ブレイクの眉間に深い皺が刻まれた。
「何があった」
「鉄木林で、妙な怪物に襲われました。冒険者ギルドの治療師も、神殿の牧師も、魔法医師も試した。だが、誰にも治せなかった。麻痺を残す呪いらしいです」
トールが工房の奥から出てきた。ゲイルの腕を見た時、目に同情が浮かんだが、すぐに唇を噛んだ。
「ゲイル。俺たちも今は――」
「分かっている」
ゲイルは力なく頷いた。
「工房が大変なことも知っている。それでも、アーガスが帰ってきたと聞いて……来るしかなかった」
彼は一度言葉を止め、工房の奥へ目を向けた。
「俺がアイリーンを連れ帰った時、誰も助かるとは思っていなかった。だが、彼女は生きている。何があったのかは知らない。ただ、アーガスが関わっている気がしたんだ」
左手が、動かない右腕を強く握った。
「もう、他に頼れる者がいない。あいつなら、もしかすると……」
ブレイクは答えず、痩せた腕を見つめた。
「お父さん。入ってもらって」
客間からアイリーンの声が届いた。
彼女は車椅子を進め、入口へ姿を現した。身体にはまだ療養の名残があったが、翠緑の瞳はまっすぐゲイルを見ていた。
「アイリーン、しかし――」
「あの日、ゲイルが私を連れ帰ってくれなかったら、私はギルドの寝台で死んでいたわ」
柔らかな声だった。言葉は一つずつ、はっきりと落ちた。
「私たちは、彼に命を借りているの」
ブレイクの肩から力が抜けた。
目の前にいる猟師は、血まみれの娘を背負い、家族のもとへ届けてくれた男だった。娘の命が途切れる前に、家族へ別れを告げる時間まで運んでくれた。
ブレイクは身体を横へずらし、道を開けた。
「入れ、ゲイル」
低い声に、拒絶は残っていなかった。
「できることを探そう」
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物語の続きを待つあいだ、よかったら作者のXにも遊びに来てください。
案内役のOC「考古エルフ」は、実はアーガスたちと同じ世界の住人です。
本編を読んだ方なら、思わぬ繋がりや小さな仕掛けに気づくかもしれません。
▼考古エルフの記録
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作者X:
Isekai Tour 異世界の旅
@LowAngleMuse
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