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第二話-【第五幕:炎でも救えないもの】(挿絵あり)

 息の詰まるような沈黙の中で、ブレイクが突然立ち上がった。


 その目には、追い詰められた者だけが宿す、危うい光があった。


「火にかける」


 全員の視線が彼へ向いた。


「火?」


 トールが眉をひそめた。だがその目の奥には、かすかな希望も浮かんでいた。


「高温で、木を駄目にしている何かを焼き殺すってことか?」


「そうだ」


 ブレイクは消えた炉の前へ向かい、再び火を入れ始めた。


「鉄木は熱に強い。もし何かが中に入り込んでいるのなら、炎で焼き払えるかもしれん」


 彼は少し間を置き、声を強めた。


「ドワーフには古い言葉がある。火で解けない問題はない。解けないなら、火力が足りないだけだ」


「父さん、それは危険です」


 アーガスが前に出た。声には珍しく焦りが混じっていた。


「まだ原因が分かっていません。むやみに熱を加えれば、内部構造が壊れるかもしれない。劣化を早める可能性もあります」


「それでも試すんだ!」


 ブレイクの声は、炉の火よりも激しかった。


「このまま座って死を待てと言うのか? 明日、バロックが来て工房を封鎖し、俺たち一家の心血を奪っていくのを待つのか!」


 彼は振り返り、家族を見た。


「俺は五十年、鉄を打ってきた。炎は、俺たちドワーフの言葉だ。もしこの問題に答えがあるなら、必ず炎の中にある」


 アーガスは口を開きかけた。


 だが、何も言わなかった。


 父の目を見れば分かった。今のブレイクに、どんな理屈も届かない。彼は技術者ではなく、失いかけた家を守ろうとする父親だった。


 深夜、炉の火が再び燃え上がった。


 赤い炎が、緊張と絶望に固まった家族の顔を照らす。


 ブレイクは自ら火箸を取り、断裂した鉄木の一片を炉へ入れた。炎はうなり声を上げるように燃え、木片を飲み込んでいく。


 トールは炉口を睨みつけ、拳を固く握っていた。


 アイリーンは目を閉じ、両手を重ねていた。


 サラは隅で声を殺して泣いている。


 アーガスだけが、少し離れた場所に立って、すべてを見ていた。


 彼は結果を予想していた。けれど口にはしなかった。今この家族に残されているのは、理屈ではなく、最後の小さな希望だったからだ。


 たとえ、その希望が砕けると分かっていても。


 十分後、ブレイクは鉄木を炉から取り出した。水桶へ入れる。


 じゅう、と鋭い音が鳴った。


 白い蒸気が立ち上り、全員の視界を覆った。


 蒸気が薄れ、木片が水から引き上げられた時、誰もが息を呑んだ。


 鉄木は、黒く焦げていた。


 灰色だった断面は、炭のような黒へ変わっている。表面を指で触れるだけで、粉がぽろぽろと剥がれ落ちた。


 ブレイクは震える手で、その木片に少し力を加えた。


 乾いた音がした。


 木片は、まるで焼き菓子のように砕け散った。


 破片が床に落ちる。


 誰も、それを拾おうとしなかった。


 砕けたのは木だけではなかった。


 この家族に残っていた最後の希望も、そこで砕けていた。


挿絵(By みてみん)


 ブレイクは膝から崩れ落ちた。


 彼は木屑を両手で包み込み、体を震わせた。何かを言おうとしたが、喉から出たのは、言葉にならない掠れた音だけだった。


 トールは作業台を拳で殴った。重い音が工房に響く。そのまま床に座り込み、両手で頭を抱えた。


 サラは壁にもたれ、声もなく涙を流していた。


 アイリーンは車椅子に座ったまま、虚ろな目で前を見ていた。指は肘掛けを強く握り、関節が白くなっている。


 その車椅子が、彼女に自由を与えたはずだった。


 けれど今、それは家族を責める証にもなっていた。


 彼らは答えを見つけられなかった。


 それどころか、自分たちには答えを見つける力がないのだと、火の前で証明してしまった。


 工房は再び、死んだように静まり返った。


 炉はまだ燃えている。


 だがその火が照らしていたのは、床に散った破片と、失敗と、完全に折れかけた家族だけだった。


 アーガスは隅に立ち、黙ってそれを見ていた。


 やがて彼はしゃがみ込み、炭化した木屑を指で撫でた。それから、まだ火にかけていない残骸へ目を向ける。


 一つの仮説が、頭の中で形を取り始めていた。


 だが、まだ足りない。


 証拠が足りない。


 もっと多くの、確かな手がかりが必要だった。


 その時だった。


 どん、どん、どん。


 整った靴音が、工房の外から響いた。


 夜明け前の最も暗い時間だった。その音は大きくない。けれど、死んだような静けさの中では、ひどくはっきりと聞こえた。


 一歩ごとに同じ間隔。同じ重さ。同じ威圧。


 ブレイクの顔が凍りついた。


 来た。

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