第二話-【第四幕:税務官の名、破産への足音】
深夜。
工房の炉は再び消えていた。暗闇の中で、数個の油灯だけが頼りない光を落としている。煤を逃がすため、扉と窓は開け放たれたままだった。昼には希望と繁栄の証に見えていた半完成品たちも、今はただ皮肉な残骸のように見える。
アイアンソーン家の五人は、工房の中央に集まっていた。
彼らの前には、四台の壊れた車椅子が並べられている。パラディアから戻ってきた三台。そして今日、この町で事故を起こした一台。
四台目は、もっとも致命的だった。
それは遠くの事故を、目の前の災厄へ変えてしまったからだ。
誰も口を開かなかった。
聞こえるのは、押し殺した呼吸と、油灯の芯が時折立てる小さな音だけだった。
やがて、ブレイクが沈黙を破った。
「今日のことは、明日の朝には山城中に広まる」
その声は低く、ひどく疲れていた。
彼は顔を上げ、家族一人ひとりを見た。その目には、絶望に近いほど冷めた覚悟があった。
「そして?」
アーガスが尋ねた。声は静かだった。
「何が起きますか」
ブレイクはしばらく黙った。それから、一つの名前を吐き出した。
「バロックだ。竜の税の税務官、バロック」
「誰です?」
アーガスは眉をひそめた。
「お前は外の学校にいたからな。知らなくても無理はない」
ブレイクの声には苦味があった。
「あの古狸は、うちの商売が大きくなり始めてから、ずっとアイアンソーン工房を狙っていた。儲かれば儲かるほど、奴は鼻を利かせる。税だ、許可だ、規則だと、いくらでも言いがかりをつけてくる男だ」
「ただ、今までは噛みつく口実がなかっただけだ」
トールが歯を食いしばって言った。
「帳簿はきれいだった。税も欠かしてない。品物にも文句のつけようがなかった。だから、あの毒蛇は動けなかった」
「だが今は違う」
ブレイクは、並べられた残骸を指差した。
「公共の安全を損なった。品質に問題がある。人を傷つけた。これだけ揃えば、工房を封鎖する理由としては十分すぎる」
その先に続く言葉は、誰もが理解していた。
工房を奪われる。
技術を奪われる。
あるいは、家そのものを飲み込まれる。
「じゃあ、どうするの?」
サラの声が震えた。
「その人が来て工房を封鎖するのを、ただ待っているしかないの?」
「いや」
ブレイクは立ち上がった。油灯の光の下で、その背は大きく見えた。だが同時に、ひどく老いて見えた。
「奴が来る前に、答えを見つける」
「どんな答えを」
トールは残骸を見つめたまま言った。声には、自分でも隠せない虚脱があった。
「俺はもう何度も見た。俺の手仕事に問題はない。問題は木だ。この忌々しい鉄木にある」
「なら、その木に何が起きたのかを探るんだ」
ブレイクは残骸のそばへ歩き、しゃがみ込んだ。灰色に変わった断面を、指でなぞる。
「見ろ。外から引きちぎられたようには見えない。内側から先に死んで、それから脆くなったように見える」
アーガスも立ち上がった。ゆっくりと残骸の周囲を回る。その目は冷たく、鋭い。
「破損の形はほぼ同じです。断裂点は、すべて荷重の集中する箇所にあります」
彼はしゃがみ込み、一つの断面を軽く叩いた。
「それに、木の繊維が変です。裂けたというより、崩れた。粉になったように」
「つまり、材料そのものに原因がある可能性が高いのね」
アイリーンが言葉を継いだ。彼女はどうにか冷静さを保っていた。
「虫食い? 菌類? それとも別の何か?」
「虫ではない」
トールは即座に首を横に振った。
「鉄木の密度なら、ほとんどの虫は食えない。鉄線虫の食害なら、跡はこんな形にはならない」
「腐りでもない」
ブレイクも言った。
「うちの保管場所は乾いている。風も通る。菌が広がるような環境じゃない」
「腐食でもありません」
アーガスの声は、静かすぎるほど静かだった。
「鉄木は、もともと腐食に強い。だから主材料に選んだんです」
「じゃあ、何が残っているの?」
サラの声は絶望的だった。
「何が原因かも分からないのに、どうやって直すの?」
また沈黙が降りた。
その無力感は、どんな罵声よりも重かった。




