第十三話 END:【第五幕:帰郷の車輪と、不吉な異常報告】
東門の外には、ヴァンデル商会の貨物車が静かに停まっていた。
アーガスが近づくと、御者が恭しく扉を開ける。
彼はそこで、呆気に取られた。
確かに貨物車だった。
車体の側面にはヴァンデル商会の紋章があり、後部には破損した車椅子の入った木箱が積まれている。
だが、車室の前半分は、客を乗せるための快適な空間へ改装されていた。
柔らかな座布団。
小さなカーテン。
小さな茶卓。
その上には、保温された茶壺と、アーガスが好む木の実の菓子が置かれている。
内壁には防音用の柔らかな布が張られ、天井には温かな魔法灯が浮かんでいた。
普通の貨物車が持つ設備ではない。
アーガスは扉の前で、その丁寧に整えられた空間を見つめた。
胸の中に、複雑なものが湧き上がる。
これは、許されたという意味なのか。
彼は、あの額縁を思い出した。
大切に飾られた写真を思い出した。
リナがずっと彼を守ろうとしていたことを思い出した。
無言の和解。
これが、彼女のやり方なのだろう。
アーガスは深呼吸し、車室へ乗り込んだ。
貨物車は、ゆっくりと学院を離れていく。
車輪が石畳の上で規則正しい音を立てた。
だが車室の中は、驚くほど静かだった。揺れもほとんど感じない。
アーガスは柔らかな座席に腰を下ろし、まず故郷から届いた書類を開いた。
鉄木の腐食。
枠組みの断裂。
負傷事故。
不気味な報告の数々が、彼の眉を深くさせる。
いったい、何が起きている。
考え込んでいた彼の視線が、傍らの素描へ落ちた。
アーガスは報告書を脇へ置いた。
そして、両手でその絵を大切に持ち上げる。
絵の中のアイリーンは、変わらず微笑んでいた。
翠緑の瞳が、こう語りかけているようだった。
早く帰ってきて、弟よ。
常に理性の火を灯していたアーガスの瞳に、その時だけ、別の光が宿った。
もっと深く、もっと温かい光だった。
貨物車は前へ進み続ける。
鉄峰山城へ。
未知の異常が待つ、故郷へ。
(END)
【あとがき】
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