第十一話:【第四幕:最後の切り札と、C4の論理】(挿絵あり)
「問題が起きたら、C4ですべて片づけられる」
その言葉は軽かった。
だが、リナの胸には重く落ちた。
「C4?」
リナは聞き慣れない響きを繰り返す。
「それは誰? 今さら誰が来ても無駄よ。あなたの敗北はもう決まっている。後ろの旗は、私たちのクラスが一位へ上がるための踏み台になるの」
アーガスは恐れなかった。
むしろ、青白い顔に小さな笑みを浮かべた。
「C4は人じゃない。説明しても、たぶん分かりません」
リナの困惑は、一瞬で消えた。
代わりに、体の奥から冷たいものがせり上がってくる。理由は分からない。だが、神経が一斉に警鐘を鳴らしていた。
危険だ。
「あなた、何をしたの?」
リナの声が震える。手の中の氷の錐が、さらに冷気を帯びた。
「言いなさい。今すぐに」
アーガスは答えなかった。
彼はただ片手を広げ、視線だけで地下を示した。
リナの顔から血の気が引いた。
魔力感知を沈めた瞬間、彼女は見てしまった。
中央砦の地下に、巨大な魔力回路が編み上げられている。血管のように枝分かれし、幾重にも重なり、砦を中心に周囲へ広がっていた。
その先端の一つ一つに、爆発の魔法陣が接続されている。
小さな建物なら一つ吹き飛ばせるほどの火力。それが、数えきれないほど地下に眠っていた。
しかも、それらは眠っているだけではなかった。
今もなお、安定した拍動で魔力を送り込まれている。誰かが、ずっと維持している。
誰が、などと考える必要はなかった。
リナはようやく理解した。アーガスがなぜ冷や汗を流していたのか。
彼は戦っていたのではない。
彼は、この地下に眠る爆弾を、たった一人で押さえ続けていた。
「あなたという人は……」
リナの声が掠れた。
「狂っているわ」
アーガスは答えない。
ただ、掌を開いた。
そこには小さな魔法の押し金があった。黒鉄の薄い板に、彼自身の文字でC4と刻まれている。微かな光が、呼吸するように点滅していた。
アーガスの親指が、その上に置かれる。
「やめて!」
リナの声が空気を裂いた。
だが、すべてが遅かった。
アーガスは口元を歪めた。
その笑みは、勝利の笑みではない。逃げ道を断たれた者が、最後の扉を自分で開く時の笑みだった。
彼は、地球の人間しか知らない言葉を口にした。
「バルス」




