第十話:【第二幕:鋼の陽動と影の刃】(挿絵あり)
霧の奥で、爆発が轟いた。
マシューの小隊は、扇形に広がって進んでいた。七人の風使いが風刃と気爆を使い、外周に埋められた爆発の罠を計画的に起こしていく。
罠が弾けるたび、土と石が跳ね上がった。
火光が霧の中で一瞬だけ赤く滲み、続いて衝撃音と叫び声が重なる。正面から大部隊が押し寄せているように見せるには、それで十分だった。
最も激しい攻撃を受けていたのは、ヴァレリウス・アウグストゥスの守る東側だった。
彼は六人の守り手を率い、崩れかけた塹壕の中で指揮を執っていた。若い顔に焦りはない。あるのは、火光を受けても揺らがない集中だけだった。
「第一列、しゃがんで詠唱! 第二列、立って撃て! 見えないものに魔力を捨てるな! 狙える影だけを撃て!」
その声は乾き、少し嗄れていた。
それでも、軍人の家に生まれた者の響きがあった。守り手たちはその声を支柱に、しゃがみ、唱え、立ち、撃ち、また装置へ魔力を注ぐ。
だが、消耗は速かった。
充填装置の青い光が灯る間隔は、十秒から七秒へ、七秒から五秒へ縮まっていく。押すたびに、守り手たちの顔から色が抜けた。
ヴァレリウスは、それでも前に立った。
霧の中に敵影が揺れるたび、彼は剣を振り、詠唱を叩きつける。
「我が魔力を炭とし、胸の炉に火を入れよ! 我が意志を槌とし、破敵の槍を鍛えよ!」
深紅の火槍が霧を裂き、近づこうとした影を撃ち抜いた。
青い結界光が弾ける。だが、そのたびにヴァレリウスの呼吸もまた荒くなった。
正面の喧騒とは対照的に、戦場の別の側は異様なほど静かだった。
リナとクリシーは、低く張った風の膜に身を預け、奪った盾を板のように使って草地の上を滑っていた。盾の表面には薄い風の障壁が重ねられ、二人の動きは氷の上をすべる刃のように静かだった。
罠の目印を避け、魔力の揺らぎを避け、草の折れ方さえ踏まない。
西側塹壕の死角へ降り立った時、二人の気配はほとんど影に溶けていた。
リナが視線だけで合図する。
クリシーは頷き、先に闇へ入った。
その小さな背を見送りながら、リナの目に絶対の信頼が宿る。
クリシーは、かわいらしい同級生の顔をしている。だが、その内側に眠るものが、ただの少女ではないことを、リナは誰よりも知っていた。
最初の陣地。
守り手は霧の正面を見つめていた。
クリシーは背後から近づき、首筋の一点を手刀で打つ。身体が崩れる前に受け止め、音を立てずに地面へ横たえた。
青い退場光は出ない。
魔法攻撃でも致命傷でもない。相手は静かに眠っただけだ。
彼女は黒鉄の充填装置の前にしゃがみ、短剣の先で構造を探った。
銅線が罠へ伸びている。接合の薄いところを見つけ、刃を差し込む。
かちり。
銅線が断たれた。
魔力のつながりは途切れたが、警報は鳴らない。切られたのは、術式ではなく、仕掛けそのものの神経だった。
二つ目の陣地へ。
クリシーはすぐには走らない。壕溝の曲がり角に身を沈め、小石を拾う。ごく弱い風でそれを浮かせ、別の角へ落とした。
こつん。
小さな音に、守り手が振り向く。
その二秒で十分だった。影が滑り込み、首筋を打ち、身体を受け止め、銅線を断つ。
三つ目も、同じだった。
曲がる壕溝、石の音、風の囁き。ほんの少しだけ相手の目をずらし、その隙に急所へ入る。
西側、南側、北側。
ヴァレリウスが激戦を支える東側を除き、三つの側面の充填網は、内側から沈黙した。
すべては三分もかからなかった。




