第六話-【第一幕:まな板の上の鯉。四面楚歌の陣地と、エリート貴族の無知】(挿絵あり)
【第六話:まな板の上の鯉、「防呆設計」が覆す絶望の戦場】
秋の午後の陽光が斜めに教室へと差し込んでいたが、空気中に漂う火薬の匂いを振り払うことはできなかった。
昨日の担任の授業の余韻はまだ冷めやらず、貴族たちの眼差しは相変わらず鋭く、教室の隅々で標的を探し求めていた。
アーガスは隅に座り、机の上に広げられたノートをうつむき加減で見つめていた。
それは彼がクラス対抗戦について考察したメモであり、紙にはいくつかの幾何学図形と数式が走り書きされている。
彼は昨日、お茶の香りが漂う中でリナが語った理論を思い出した。
『人心は最も複雑な変数よ。それを掌握すれば、すべてを掌握したことになるわ』
しかし、彼は全く逆の結論を導き出していた。
人心こそが最大の制御不能な変数なのだ。
それを操作しようとするより、人心がいかようであろうとも、彼らに強制的に遵守させるシステムを構築すべきだ。
彼は、エンジニアリング(工学)における最も基本的な法則、重力、慣性、作用・反作用の法則を思い浮かべた。
これらの法則は、人間の感情によって変化することはなく、貴族の血統によって屈服することもなく、ましてや金銭の多寡によって妥協することもない。
さらに重要なことに、彼は前世における優れたエンジニアリング設計。
いわゆる「防呆設計」と呼ばれる巧妙な概念を思い出していた。
どれほど愚かな操作者であっても、完璧に設計されたシステムを破壊することはできない。
プラグは正しいコンセントにしか挿せないようにし、歯車は定められた方向にしか回転できないようにする。
安全装置は、人為的なミス(ヒューマンエラー)が起きる前に自動的に起動するように設定するのだ。
これこそが真の知恵だ。
使用者の資質に依存するのではなく、システム自体に正しい動作を保証させるのだ。
彼の口角が微かに上がった。
それは陰謀家の笑みではなく、エンジニアが解決策を見出した後の純粋な喜びだった。
彼は目の前の同級生たちを見て、もはや彼らを障害だとは思わなかった。
彼らは正しい位置で機能を発揮させるべき「部品」の山なのだ。
重要なのは部品の本質を変えることではなく、どの部品も軌道から逸脱できないような完璧なシステムを設計することだ。
彼がこの思考に浸っていた時、足音が響いた。
トーマス教授が書類の束を抱えてドアを押し開けて入ってきた。
「皆さん、今日はクラス対抗戦の戦術手配について話し合います」
クラス担任であるトーマス教授の声が教室に響き渡ったが、アーガスは鋭くも、予想されていた口論が起きていないことに気づいた。
カテリーナとヴァレリウスの間には、死のような静寂があった。
それは和解による平穏ではなく、嵐の前の息が詰まるような重圧だった。
カテリーナは席に端正に座り、銀色の瞳は冷たく、口元には気づかれにくい得意げな笑みを浮かべていた。
一方のヴァレリウスは拳を強く握りしめ、こめかみの青筋を微かに震わせていた。軍人世家の出身ゆえの格別に逞しいその顔には、押し殺した怒りが満ちている。
さらに重要なことに、アーガスは、ヴァレリウスの派閥に属する、同じく軍人世家出身の仲間たちが彼らのリーダーに向ける視線に気づいた。
同情、失望、そしてどうしようもない無力感が入り交じった複雑な眼差しだった。
彼らは何が起きたかを知っていた。政治的手腕が軍事的な才能に打ち勝ったことを知っていた。
しかし同時に、これが自分たちには変えられない現実であることも知っていたのだ。
この内部からの無言の圧力は、カテリーナのいかなる嘲笑よりもヴァレリウスを苦しめていた。
この不気味な静寂の中、カテリーナはゆっくりと立ち上がった。
その声は澄んでいながらも、有無を言わさぬ威厳を帯びていた。
「皆様、今回のクラス対抗戦が我がクラスの栄誉に関わることは、すでにご存知かと思います。フォン・シュタイン家の人間として、私自ら総指揮の重責を担わせていただきます」
彼女の視線はクラス全体を掃き、最後にヴァレリウスの上で止まった。
「防衛の任務につきましては、ヴァレリウス君と彼の仲間たちにお任せしましょう。何しろ……陣地を守ることこそ、軍人の重厚な品格にふさわしいですからね」
ヴァレリウスは勢いよく立ち上がった。
椅子が床と擦れて耳障りな音を立てる。彼の顔色は青ざめ、両手で机を叩いて大きな音を出した。
周囲からひそひそ話が漏れ、学生たちの視線が二人の間を行き来した。
「お前、一体何の権利があって……」
ヴァレリウスの声は低く沈んでいたが、言葉の途中で強引に口をつぐんだ。
アーガスは隅からこの権力闘争を観察し、内心で冷静に状況を分析していた。
周囲の学生たちの低い会話から、彼は徐々に真実をパズルのように組み立てていった。
カテリーナは家族のコネを利用し、ヴァレリウスの本家に直接圧力をかけたのだ。
たかが新入生のテストの指揮権を決めるために、場外の政治力を動員するとは。
アーガスは、怒りと無力感に満ちたヴァレリウスの顔を見て、心の中に一抹の惜惜の念さえ抱いた。
優秀な戦術の才能が、無意味な政治によってロックされてしまったのだ。なんて勿体ない。
この認識が、彼自身の道を進むという決意をさらに強固なものにした。




