第五話-【第四幕:女王の戦術。命令ではなく『誇り』を誘導する蜘蛛の罠】(挿絵あり)
アーガスの顔は瞬時にさらに赤くなり、慌てて手を振って少し慌てた声で言った。
「ごめんなさい、もう言わないでください! 母さんには、あなたがそんな人じゃないってちゃんと伝えておきますから!」
アーガスは心の中で苦笑し、母親の評価に対して申し訳なく思いつつも、母親の懸念が必ずしも根拠のないものではないと薄々感じていた。
目の前にいるこの先輩には、確かに彼が説明しきれないような……複雑な何かがある。
リナは突然足を止め、アーガスの方を振り返った。
彼女の眼差しは異常に真剣になった。
「まず、あなたは一つの基本原理を理解しなければならないわ。私はね、人に『命令』なんかしないの」
「何を言っているんですか?」アーガスは眉をひそめた。「命令を下さずに、どうやって人を動かすというのだ?」
「指揮は命令であり、命令は反抗を意味するのよ」
リナはゆっくりとアーガスに近づき、その一歩一歩が優雅な脅威を帯びていた。
「特にあの自尊心の高い貴族たちに対しては、直接的な命令は彼らの反発心理を引き起こすだけ。それに、」
彼女は言葉を切り、口角に自嘲の弧を描いた。
「私たちは皆、『平民』の出身よ。私の家は少しお金があるとはいえ、士農工商の階層において、商人は永遠に最底辺の存在なの。商人の娘である私が、代々受け継がれてきた貴族の血脈を指揮する資格なんて、どこにあるのかしら?」
リナは突然優雅にアーガスに接近し、鼻先が触れ合いそうな距離まで近づいた。
彼女から漂うほのかな花の香りと、至近距離にある美しい顔立ちによって、アーガスの心臓は早鐘のように鳴り、顔は茹でダコのように赤くなった。
頭の中が完全に真っ白になってしまう。
リナは顔を真っ赤にしたアーガスを見て、満足そうに悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「教えてあげてもいいわよ。どうせ、あなたには実行できないことだからね、ふふっ」
アーガスは胸の動悸を必死に抑え込み、少しどもりながら反論した。
「ほ……方向さえ分かれば、一歩ずつ展開して実行できるはずです!」
リナは軽く笑って一歩退き、目に面白がるような色を走らせた。
「そう? なら、あなたはまず、私と同じ女の子であること。そして、相手を赤面させ、心臓をどきどきさせるような外見を持っていること。できればエルフかハーフエルフの血統であることが必要ね」
そう言いながら、彼女はわざと背筋を伸ばし、優雅に身を翻して、制服のスカートの裾を空中で完璧な弧を描くように広げた。
彼女のハーフエルフの血統がもたらすスラリとした体型が、この瞬間に遺憾なく発揮された。
細いウエスト、優美な曲線、そして生まれながらの優雅なオーラ。
リナはアーガスが目を丸くして顔を赤らめているのを全く気にせず、むしろさらに余裕たっぷりに自分の豊かな金色の長い髪を整え、滝のように肩へ垂らした。
「見た?」彼女の口調は、今日の天気について話しているかのように軽やかだった。「これが『第一歩』の具体的な体現よ」
アーガスは目を丸くした。
「ハニートラップ、ですか?」
リナはプッと吹き出し、その目は軽蔑で満ちていた。
「私がそんな頭を使わない手段に出ると思う? これはあくまで第一歩よ。第二歩は、自身の『劣位』を最大限に活用すること」
彼女は言葉を続けた。
「最初に言った通り、私は商人の娘で、お金はあるけれど貴族の身分はなく、しかもハーフエルフ。あの貴族たちの目から見れば、これこそ『愛人として囲うのに最適』という完璧な条件なのよ」
リナの目に狡猾な光が走り、口角に小悪魔のような微笑みを浮かべた。
「私を妾にしたがっている人はたくさんいるわ〜。私は狼の群れに落ちた無力な羊のように見えるけれど、実際には……」
彼女は少し言葉を切り、人差し指で自分の下唇を軽く叩きながら、天真爛漫な表情を装った。
「一体どちらがどちらを食い物にするのか、それは分からないわよね!」
そう言うと、彼女は銀の鈴のような笑い声を立てた。
その純真さと邪悪さが交差する矛盾した感覚が、人を震え上がらせた。
リナの目が細められた。
「貴族という生き物はとても面倒で、ほとんどが栄誉を命よりも重んじ、何よりも優先するの。で!も! 彼らの心理や考えを把握してしまえば、彼らをコントロールする罠を仕掛け、喜んで私が設定した経路を歩ませることができるのよ!」
「だから、私は彼らに命令を出しているわけじゃない。彼らは私の『手配した』経路に沿って、自ら喜んでそちらへ進んでいるだけなの」
リナの目つきが危険なものになった。
「例えば、先輩が私をいじめているところを『うっかり』見せたり、他のクラスの生徒が私に話しかけているところを見せたり、あるいは他の潜在的なライバルの『悪い企み』を『うっかり』知らせたりすれば。彼らは『誇り』と『欲望』という名の衝動に突き動かされて、私が計画したルートに向かって喜んで走っていくのよ!」
リナは足を止め、アーガスを直視した。
「だから、私の方法を聞いて、あなたに実行できると思うかしら? 私の『首席』さん!」
ここまで聞いて、アーガスは身の毛がよだつ悪寒を感じた。
この女は外見のような柔和な存在などではなく、骨までしゃぶるような、豚のふりをして虎を喰らう蜘蛛の女王なのだ。
彼女はアーガスの前に歩み寄り、突然手を伸ばして彼の頬をそっと撫でた。
その温かい感触に、彼は全身をこわばらせた。
「つまり、私の方法は、罠を仕掛けることよ」
「罠……罠を仕掛ける?」
アーガスの声は少し震えていた。
リナの親密な行動のせいで、彼は全く集中できなかった。
「そう、罠を仕掛けるの」
リナは彼の耳元で囁いた。
その温かい吐息に、彼の耳は熱くなった。
「彼らに、協力は自分たちの意志であり、自分たちが大切にする『栄誉』を守るためだと思い込ませるのよ」
彼女はゆっくりと後ずさりし、自分の席に戻って座り直した。
すでに顔を真っ赤にして完全に動揺しているアーガスを見て、満足そうに頷いた。
「具体的な例を挙げてあげる。去年の私のクラスにも、水と油のような二つの派閥があったわ。私は誰を説得することもなく、いかなる協力計画も提案しなかったの」
「じゃあ、あなたは何をしたんですか?」
アーガスは必死に冷静さを保とうとした。
「私はただ、上級生の先輩が権威を笠に着て私に『つきまとっている』ところを、彼らに『うっかり』見せただけ。そして、他クラスの潜在的なライバルが、私たちを陥れるための『不名誉な』戦略を相談しているのを、『偶然』聞かせたのよ」
リナの笑顔はさらに危険なものになり、言葉を区切った。
「私たちの派閥のトップが、二年生の王牌チームの隊長が私たち風学院を『エルフの靴磨きにしか値しない』と嘲笑している場面に、『偶然』出くわすようにしたの。どう思う? そんな状況下で、『栄誉』で頭がいっぱいになった雄獅子たちに、私が指示を出す必要があるかしら?」
アーガスは骨の髄まで冷えるような寒気を感じた。
戦術? いや、これは操作だ。
人間の弱点(脆弱性)を駒として利用する、冷酷な計算だ。
「彼らは喜んで、私が設計したルートに向かって突撃していくわ」
リナは続け、その語気は今日のお天気を語るかのように軽やかだった。
「しかも、彼らは私に感謝するのよ。なぜなら、私が彼らに『栄誉を証明する』機会を与え、レディの前で『英雄』になる機会を与えたのだから」
アーガスの理性と感性は、この瞬間、激しく衝突した。
エンジニアとして、彼はこの方法の高効率性を認めざるを得なかった。
それはターゲット層の心理的特徴を正確に捉え、最小のコストで最大の結果を得るものだ。
しかし、道徳的境界を持つ人間として、このような人心を弄ぶ手段には深い嫌悪感と恐怖を感じた。
「あなた……あなたは人を何だと思っているんですか?」
彼の声は少し震えていた。
「道具。資源。駒よ」
リナ先輩の答えには隠すところがなく、目に冷酷な光が走った。
「これが現実よ、アーガス。この世界では、あなたが他人を操作するか、他人に操作されるかの二択しかないわ。第三の選択肢なんて存在しないの」
アーガスは目の前の優雅で美しい先輩を見つめ、脳裏にある陰惨なイメージが浮かんだ。
それは、糸で編まれた巧妙なネットワークの中央に座り、一本一本の糸の振動を制御し、獲物が自ら網に飛び込んでくるのを待っている巨大な蜘蛛の姿だった。
彼は深い悪寒を感じたが、同時に、彼の問題を解決しようとするエンジニアの脳は、無意識のうちにこの「人性アルゴリズム」の……完璧さと高効率性を分析し始めていた。
アーガスは悟った。
自分は論理に基づいて最適解を導き出すが、リナは人間の弱点に基づいて最も有利な判断を下すのだ。
彼女はさらに自分よりも一枚上手で、自らの劣位を優位性へと転換させている。




