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24 バースの受難


「今のは何だ!」


「よくぞ聞いてくれました。これこそワタシの秘密へい」


「教える必要は無い」


 嬉々として説明しようとするロベオの口をライーザの手が塞いだ。

 汽車内でのやり取りを知らないバースには何が何だか分からない。今の丸い物体が攻撃だとしたら、どうしてハァズが素通りさせたのか。


 実は彼が二人の存在を忘れている隙に、占いで夜衣の作戦を知ったロベオがクリスターちゃんを柱の影から地上に下ろしていたのだ。


 ライーザが花占いで扉を封じて注意を引きつけ、バースと分身達が混乱しているうちに本体付近へと辿り着く。

 ここからが意思を持つ水晶玉、クリスターちゃんの真骨頂。


 ハァズは勿論接近してきた謎の物体に気付き警戒していた。クリスターちゃんはバースへの攻撃だと悟られないよう、スキップでハァズの方へと進んでいった。

 まずは目の前でぷりてぃなダンスを踊りまくり、可愛いマスコットキャラをアピール。


 ハァズが命令されたのは攻撃を防ぎ、夜衣とリリガスを近付けさせない事。

 バースに近付かず敵意を見せないモノを排除しようとはしなかった。


 踊りで完全燃焼したクリスターちゃんは、ハァズに手を振りながら即席ステージから退場した。


 そしてバースの足を柱代わりに使って休憩するという、見事に自然な動作をやってのけたのだった。

 クリスターちゃんの能力を知らなければ決して攻撃とは気付かないだろう。


「占い師二人を殺せ!すぐにだ」


 どんな攻撃をされたのか分からないのだったら始末してしまえばいい。

 バースの命令でハァズは素早く武器を精製。巨大なハサミを作り出した。ギロチンのように大きな刃は二人の首を簡単に切断出来そうだ。


 凶悪なフォルムに思わずロベオは声を上げそうになるも気合で飲み込む。ライーザが後ろにいるのに格好悪い姿を見せる訳にはいかない。


「や、やれるものならやってみなさい」


 言われるまでも無くハァズは武器を投擲した。

 リリガスや夜衣ならともかく、ただの人間である二人には避けられない。ライーザが花占いをする暇も無い。

 しかし同時に夜衣も動いていた。


「受け取れ!」


 彼がロベオ達に向けて投げたのはガトリング血魂銃。

 柱の上に飛んだガトリング血魂銃という名のハンドルと予言札は、抜群のコントロールでロベオの元へと着地した。

 急いで足元へ手を伸ばすロベオを見てバースは笑みを浮かべる。


 馬鹿だ。素人があれを撃ち落とせるか。占い師に銃を扱う経験があるなんて聞いた事が無い。

 助けるつもりがあるなら予言を使えばいいのに。


 ロベオが慌ててガトリング血魂銃を拾おうとすると、地上から夜衣の声が響いた。


「そっちじゃねぇ」


 彼の声を聞いてロベオは気付いた。夜衣の意図を理解するとソレを拾い上げ、立ち上がる。

 ロベオの手にはガトリング血魂銃ではなく、夜衣が装着していた軍手があった。


 軽い軍手だけでは柱の上までは届かないと判断した夜衣は、咄嗟に軍手をハンドルに括り付けて投げたのだった。

 使いこなせるか分からない武器を与えるよりこちらの方が確実だ。


「ライーザはワタシが守ります!」


 最強装備を手にしたロベオは渾身の右ストレートで斬首用の大バサミを打ち砕いた。予言のおかげで素人の拳も協会兵器に劣らない破壊力を生み出す。砕かれた刃の破片はバースとハァズへと降り注いだ。


 この程度、ハァズなら簡単に防ぎきれる。それにこれはチャンスだとバースは思った。

 ガトリング血魂銃と最強軍手を手放した夜衣は丸腰だ。警備隊がいなくとも奴を仕留められる。ハァズの遠距離攻撃と分身の一斉攻撃なら、いくらブラッドマンが味方にいても強力な武器や予言無しでは太刀打ち出来ない。


 彼は一つの仮説を立てていた。実は夜衣がもう予言を使えないのではないかと。


 占い師に向けた攻撃も予言で簡単に助けられたはずだ。血魂銃で自分が倒されるという予言も未だに発動していない。

 良く考えればガトリング血魂銃も最強軍手も前もって用意した物で、実際はこの部屋に入ってから一度も予言は使われていない。


 逃走する為の余力を残すためか、本当に予言を使うための精神力が尽きているのか。

 どちらにしてもこの戦いでこれ以上予言は使われない。だったら今のうちに奴を倒してしまうのが得策だ。

 また妙な邪魔や助けが入ってからでは遅い。


 バースの予想通りハァズは点滴棒で難なく刃物のシャワーを防いだ。二人の体には傷一つ付いていない。

 無事な二人の姿を見た夜衣は舌打ちした。行動が全て裏目に出るのではなかったのかとロベオを睨む。


「おい、効果はいつ出る」


「普通はすぐに出るはずデスけど」


 夜衣とロベオが会話している隙に、バースはハァズに新たな命令を出そうと口を開いた。


「オレを全力で守りながら予言者を殺」


 抹殺命令が下されようとした瞬間。

 バースの背後の窓に大きな影が映ったと思うと、叩きつけるような轟音と共に強化ガラスがぶち破られた。


 振動と風圧で柱が次々となぎ倒される。彼が驚き振り返る頃には美しかった部屋が一気に瓦礫の山へと変貌していた。


「なっ、何事だ?」


 舞い上がる粉塵は風通しが良くなったためすぐに晴れていく。衝撃で消えていた照明が再点灯すると、襲撃者の正体が浮かび上がった。


 ガラスを突き破って部屋に突入していたのは漆黒の物体。前方には大きな砲台が取り付けられている。

 黒い物体には輝士団のエンブレム、砲台には怒羅魂という文字が刻まれていた。


『鬼雀、参・上!』


 司令官の声と共に鬼雀に乗り込んでいた攻撃部隊が飛び出した。

 次々と出てくる武装集団は明らかに乗員オーバーしていると分かる程大勢だ。


 武器を構えた輝士団が部屋全体を取り囲むと、最後に迎撃隊隊長と鬼雀の司令官が現れた。


「本来なら入口から入るつもりだったが、扉が閉じているようだったので窓から失礼させてもらった」


「申し訳ありません。まァ、部屋の修理代は司令官が払ってくれるでしょう」


 予言者の増援かと身構えていたバースは、乱入者が味方であると分かり胸を撫で下ろした。

 これでようやく安心だ。ハァズも攻撃を中止して怪しまれないよう大人しくしている。


 気を取り直して部隊を仕切っている二人へと駆け寄る。


「よくぞ来て下さいました。敵の手により扉を封鎖されていたのです。さぁ早くあの侵入者を排除して下さい」


 再び白百合を装ったバースが夜衣を指差す。これだけ大勢の輝士団が囲んでいれば一瞬で蜂の巣に出来る。

 あの占い師が何をしたか分からないが結局役には立たなかったようだ。


 証拠隠滅のために輝士団を消さなくても良くなった事だし、後は包囲網の外から予言者が射殺される様をゆっくり見物しようと歩を進める。


「ああ、ちょっとストップ」


 近付いたバースを司令官が止めた。何のつもりだと怪訝な表情を見せる彼に対し、司令官は不敵な笑みを浮かべている。


「まずは事情をお聞きしたい」


「事情?何を言っているのですか。魔物を連れた予言者が暴れています。奴らを始末する為に輝士団がいるのではないですか。早くあの男達を射殺して下さい!」


 既に夜衣には輝士団の銃口が向けられている。発射命令を出せばあっという間に倒せるというのに、何をモタモタしているのか。

 奴が妙な言動で輝士団を惑わさないうちに息の根を止めるべきだろうに。


「無論我々は予言者を仕留めるためにやって来た。だが、その前に一つ聞きたい事がある。確か、白百合のバース殿といったか」


「そうだ、総帥から予言者を足止めする時間稼ぎを頼まれている。それを無駄にするつもりか!」


 もったいぶった言い方に腹を立てたバースは声を上げる。

 鬼雀の司令官が元・男だと知らない彼は、会話をしながら誘惑の能力を使用していたが当然効き目は無い。

 本日三人目のナンパの失敗で余計に苛立っていた。


 一向に進まない様子を見かねた隊長が代わりに口を出す。


「ではバース様、予言者に加担していると思われる魔物達の顔が貴方と同じ事について説明を頂いても宜しいでしょうか」


 こいつは何を言っている?フードを被った状態で顔が判別出来るはずがない。

 今も分身の視界で自分の姿を確認しているのだ。輝士団の前で素顔を晒すなどありえない。

 奴が予言を使った様子も無い。


 ならば占い師かと視界を切り替えるが、ロベオは頭から瓦礫に埋まっていて、引っ張り出そうとライーザが一人奮闘していた。

 あの状態で占いを使えるようには思えない。


 バースはようやく輝士団の銃が自分やハァズにも向けられている事に気付いた。


 一体何を根拠にしている。予言者が仕組んだ罠だと思い疑っているのか。

 だったらここでフードを取って証明してやる。顔などいくらでも変えられるのだ。もしあの総帥の女に確認させても、以前に何パターンか顔を変えるのを見せている。そのうちの一つに化ければ問題無いだろう。


 バースは輝士団の警戒を解くため一歩後ろに下がり、新たな顔に変身しようとした。


「何か誤解をして」


 ぴちゃりと、足元に水滴が跳ねる音が聞こえて彼は言葉を止めた。


 バースの胸に非常に嫌な予感が込み上げてくる。彼は恐る恐る足元に視線を向けた。

 床の上にはいつの間にか大きな水溜りがある。鬼雀の突入の衝撃で破壊された噴水から、漏れた水が流れ出していたのだ。


 足元には噴水近くから流れてきたであろう四角い板。外壁に取り付けられていたマジックミラーの破片が落ちていた。

 光の加減でバースや分身達には床と同化しているように見えた鏡の破片。


 司令官と隊長の位置からは丁度良い角度でフードの中の顔が映っていた。


 バースが二人に近付こうとしなければ正体に気付かれなかっただろうに。

 少しの間だけ止まっていた破片は、水に流され部屋の隅へと移動した。


「説明を頂きたいなァ、バース殿」


 司令官の白々しい笑みに腹を立てながらも、バースは冷静さを失わないよう努めた。

 まだ疑惑を持たれているだけで完全に正体がバレた訳ではない。


「これは予言者の陰謀です。あの男が私を陥れるために予言で魔物の顔を変え、輝士団と対立するよう仕組んでいるのです。人類の敵であるブラッドマンと手を組んでいる事が何よりの証拠。騙されてはいけません」


 やや強引な理屈だが夜衣にブラッドマンが協力しているのは事実。

 この二つの脅威を前にしたら自分に向けられた疑惑など小さなもの。最も優先するべきは襲撃者の排除だろう。


 彼は話の通じ易そうな隊長へと訴える。確かに、とバースの言葉に頷く隊長。誠実で温厚そうな隊長は顔を上げこう言った。


「ところで、何処にブラッドマンがいるのでしょうか」


「何を馬鹿な事を、予言者の側に」


 ちゃんといる、と言いかけたバースは唖然とした。


 振り返った彼の視界に入ったのは夜衣の隣に立つブラッドマンではなく、マスコットキャラと化し夜衣の肩に乗るリリガスの姿だった。

 離津留より少し大きいが違和感無くポジションに収まっている姿は、まるで最初からそこに居たかのような存在感を放っていた。


 輝士団に姿を見られた場合、真っ先に魔物の自分が攻撃対象になると分かっていたリリガスは、突入時の停電を利用して人型から小型動物へと変身していた。

 変身の瞬間を見ていない輝士団には今の姿のリリガスがブラッドマンとは知らず、バースが嘘をついているようにしか思えないだろう。


「それらしき者は見当たりませんな」


 穏やかな表情のまま隊長はバースにゆっくりと銃を向けた。銃は魔物を打ち倒す武器である血魂銃。

 同じように部屋にいる隊員の半数はバースと分身達に血魂銃を向けており、残りは通常の重火器で夜衣達を狙っていた。


 このままでは本当に血魂銃で倒されてしまう。もう手段を選んでいる場合じゃない。

 分身とハァズを奴らに差し向け、隙を見てここから脱出する。

 幸い扉は開かなくても大きな脱出口を輝士団が開けてくれた。後は総帥に合流すれば何とかしてくれるだろう。


 逃走を決意したバースは攻撃を仕掛けた。


 優先すべきは予言者と輝士団の隊長達だ。目的はハァズに命令を出す時間を稼ぐ事。

 占い師の謎の攻撃のせいで何が起こるか分からないと彼は慎重になっていた。本当はやる事成す事が裏目に出る呪いだとは知らずに。


「伏せろ!」


 司令官は隊長を引き倒し攻撃をかわした。分身が放った真空波は部屋に充満していた埃のおかげで肉眼でも確認出来た。

 本物より威力が落ちても殺傷能力は十分ある。


 司令官の下敷きになったおかげで負傷を免れた隊長は、そのままの体勢で攻撃してきた分身を血魂銃で見事に撃ち抜き倒した。


「押し倒されるならもっと色気のある状況が良かったよ」


「オイボレが何言ってやがる」


 隊長を台座代わりに司令官も魔物の群れに銃弾をばらまく。

 対魔物用の血魂銃ならほんの少しの傷でも弱い魔物相手なら致命傷になる。他の隊員も司令官に続くように一斉攻撃を始めた。


「てめぇらもあっちに参戦しろよ」


 夜衣も輝士団の攻撃を受けていた。銃撃・小型炸裂弾・投擲武器などが次々と彼を襲う。

 どうやら血魂銃を持っていない兵士全てがこちらに攻撃を仕掛けているようだ。


「夜衣ちゃん、モッテモテね」


 リリガスにとって普通の銃撃なら当たっても少し痛い程度だ。自分には危険が無いからと能天気な様子のリリガスを見た夜衣は、いっそハァズに投げつけて真っ二つにさせてやろうかと本気で考えていた。


「いや、待てよ」


 夜衣は一つの案を思いついた。今のバースは不運の申し子と言ってもいい。ならば、と彼は考えを実行するため行動に移した。



「ハァズ、オレを全力で守れ!」


 隊長達への攻撃で銃口が自分から逸れた隙に、バースはハァズに命令を下した。

 命令を聞いたハァズは点滴棒を元の長さに戻すと、バースに銃を向けた輝士団の前に立ち塞がった。


 全力で守る、つまり己の身を守る必要は無い。リーチのある武器で敵を減らすよりも、体を盾にする方がバースを護りやすい。


 普通の兵士なら子供を攻撃する事に戸惑いを見せるだろうが、彼ら精鋭部隊は違う。

 魔物に命令されて動く目の前の子供は明らかに敵。ただの子供が協会最上部、魔物と予言者が対峙する場にいるはずがない。


 精鋭部隊は一斉にバースとハァズに血魂銃を発射した。

 相手が増えてもハァズのする事は変わらない。点滴棒で防げる物は弾き、残りは丈夫な自分の体で受け止める。

 対処しきれない物は血の武器で相殺する。


 ハァズの超反応と人間には不可能な技の数々にも百戦錬磨の精鋭部隊は動じない。血魂銃で仕留められないと分かると、半分は武器を通常の物へ持ち替えて弾幕を張り、残りは標的をバースの分身へと移した。


 元の姿を現したバースは分身に紛れ込み、チャンスを待った。

 守りに問題は無い。後は逃げる隙を見定めるだけ。分身が尽きてしまわないよう継続して補充をする。

 攻撃力があるのは最初の数体のみで、後は飛び回るだけの量産型だ。


 夜衣、それにリリガスとのタッグ攻撃を受けてバースもかなり消耗していた。


「セット」


 司令官の声が響くと同時に、輝士団全員が床に伏せた。


「正射!」


 何事かと身構える間も与えずに怒羅魂からいくつもの矢が放たれた。巻かれた予言札に書かれた文字は追尾。

 全ての矢が本体のバースを目指して一直線に飛んでくる。ハァズが薙ぎ払うも、軌道を変えて再び標的を狙ってくる。


 予言札を切り裂かない限り追跡は終わらない。本気で殺しにかかってくる輝士団に思わすバースは声を上げる。


「ちょっと。確かにオレは白百合じゃないし魔物だけどさァ、総帥のお気に入りなんだよ。殺したりしたらアンタ達、ただじゃ済まないし」


 隊長は退治すべき相手に律儀に説明を述べた。


「我々は侵入した魔物を排除しているだけだ。人間の領域に足を踏み入れたモノを殲滅するのが輝士団の役割。それは総帥が一番良くお分かりだろう」


 駆けつけたのが協会専属の警備隊だったらバースの言葉を信用し、総帥に連絡したかもしれないが精鋭部隊には通じない。

 彼らは魔物退治を専門にする武装集団。人間に化ける魔物を相手に戦った経験を持つ。

 司令官は鼻で笑った。


「魔物の言う事を真に受ける馬鹿がいるかよ、ボケが」



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