23 チームワーク(オカマは除く)
「行くぜ」
走り出した夜衣はガトリング血魂銃を拾い、銃撃を行いながら自らも移動し切り込んで行く。
二人の同時攻撃にかかれば、分身達も次々と倒れ数を減らしていく。ハァズも手一杯になり本体を守る手が薄くなる、と思われた。
「うそーん」
しばらくして、リリガスが本日二度目の間抜け面を晒した。
ハァズは血魂銃の弾丸を己の身で受け無効化し、切れ味鋭い刃の変則攻撃を点滴棒で払い落とし、なんと全ての攻撃を防ぎきったのだ。
最強の魔物が大口を開けて驚くのも無理は無い。
協会の最終兵器は一度見た攻撃を覚え、最適な動作を計算し守るべき本体だけでなく、分身に襲い掛かる脅威にも対応するという無茶をやってのけた。
分身は十体にまで数を減らしたものの、それ以上の被害が出る事は無かった。
「さっすがー」
「ハァズ君ってば素敵」
上機嫌のバースが賞賛の声を上げ数体が頭をなでたり頬にキスをしたりと、ハァズを褒めちぎる。
女性以外に対しては最大級の愛情表現だ。
相手が眉一つ動かさないクールぶりでも気にしない。
「何休んでやがる。もう一発行くぞ」
こちらも別な意味でクールな対応だ。リリガスとのコンビネーション攻撃で守りを突破出来なかった事も全く気にしていない。
弾倉にもまだ余裕があるので、すぐにでも再攻撃を行おうという姿勢だ。
「夜衣ちゃん、これ、思ったより重労働なんだけど」
息一つ乱さないハァズと違い、魔物であるブラッドマンの方が弱音を吐いていた。
調子に乗って全武器の遠隔操作などという大技に全力を注いでいたため、すっかりバテている。
最強の魔物とはいっても能力には限界があり、血液の補充が無ければ強力な攻撃を何度も続けられない。
「だからどうした」
夜衣の冷たい瞳にはオカマなんぞにやる血は無いという強い意思が込められていた。リリガスが男気に満ちたブラッドマンだったとしても、彼の態度は変わらなかっただろう。
別に血を貰えないのは構わないし最初から期待もしていない。ただ、共に戦っているのだから労いくらいはあってもいいのではないか。
バースがハァズを可愛がる様子を見て、リリガスは思った。
「せめて暖かい声援をちょうだい!」
リリガスの心の叫びに対し、冷ややかな眼差しを送る夜衣。
面倒臭い野郎だと睨まれてもめげずに懇願する成体ブラッドマン。彼は深い溜息を吐いた。
仕方無いという態度にリリガスは期待に目を輝かせた。
「俺一人でやるからてめぇは引っ込んでろ」
「あぁん待って待って!」
縋り付いて止めようとするリリガスを無視して夜衣は進む。離津留の拘束力や破切果の腕力に比べたら大した力ではない。
じりじりと近付く敵の姿に当然ハァズは臨戦体勢に移る。
いくら夜衣でもリリガスを引きずったままの体勢でハァズに近寄るのは自殺行為だ。
「謝るから待って~。これじゃあ約束を破っちゃうじゃない」
リリガスは慌てて手を離し夜衣の前に回りこんだ。
「約束だと?」
「そうよ、夜衣ちゃんを守るって約束したの。破切果ちゃんに」
ウィンクするリリガスの脇をすり抜け、夜衣の歩みは速度を増した。
「ちょ、ちょっとーっ!」
リリガスは渾身の力で夜衣を引っ張り、元の位置まで戻らせた。人間、いや魔物も本気になれば何とかなる。
邪魔をされた夜衣は忌々しげに舌打ちするとリリガスの手を振りほどいた。
「あの馬鹿の差し金か。いつから俺を騙していやがった」
「騙すだなんて。こっそり汽車に隠れていたのを破切果ちゃんに見つかって、アタシが夜衣ちゃんの手助けをしたいってお願いしたのよ」
本当はゆりかごが攻撃を受けた時に格好良く登場するつもりだったのだが、出て行くタイミングを逃してしまった。
協会に到着してさあ今度こそと思ったら、今度は破切果が命令を受け外に追い出されてしまう。
輝士団精鋭部隊が協会頂上へ向かうのを目撃し、現場を離れられない破切果から頼まれてようやく参上出来たのだった。
「それもこれもあいつらから夜衣ちゃんを助けるために」
「ちょっと待て」
夜衣は涙ながらに語るリリガスの言葉を遮った。顔には珍しく怒り以外の感情も込められている。
「あいつらってのは輝士団の事だよな。てめぇはどこでそれを見た」
「どこって、ここに続く塔の真ん中辺りだけど。何だかフラフラして動きが遅かったから、アタシが先に到着したわ」
「そいつはいつの話だ」
「いつって、ここに来るちょっと前、だけど」
そこまで口にしたリリガスはハッと気付く。
そもそも自分がここに来たのは輝士団が向かっている事を知らせるため。真っ先に伝えなければいけない事をすっかり忘れていた。
時間を掛けて戦っている場合では無かったのだ。
夜衣も当初は協会総帥を片付けたら速やかに退散するつもりだった。
しかしハァズというトンデモ兵器の出現と、オカマブラッドマンリリガスの乱入によりうっかり本気モードで戦っていた。
時間超過イコール敵の増援。二人の脳内に同じ言葉が浮かんだ時、タイミングを見計らったように部屋内に通信音が響いた。
『バース様、ご無事ですか』
増援部隊の通信にバースは勝利を確信した。
『警備隊、攻撃準備が整いました。いつでも突入可能です』
バース達の中の一人が一瞬で白百合の変装へと変わり、前線から離れた。同じようにハァズも守るべき本体の元へと移動する。
魔物の姿をすっぽり隠したバース本体は、袖に付いた協会職員用のバッジで通信を送る。
「私は無事です。すぐに突入して下さい。予言者は大量の魔物を操って協会を潰すつもりです。中にはブラッドマンも含まれています」
扉のロックの解除音が響く。これで予言者はブラッドマン共々蜂の巣だ。
本体の位置がバレても今からハァズの守りを崩す事は出来ない。
「いやーん!どうしよう」
ドサクサに紛れて抱きつこうとしたリリガスの顔面に夜衣は無言で肘鉄を食らわせる。
この期に及んでも馬鹿なやり取りをする二人をバースは哀れんだ。すぐに脱出しようとすれば逃げ出せたかもしれないのに。
もっともこちらとしては奴等が逃げ出そうとしても、黙って見ているつもりはない。
ハァズに命令し警備隊と挟み撃ちにして逃げ場を封じれば後は簡単だ。ブラッドマンもろとも血魂銃の一斉射撃で奴はジ・エンド。
もし自分の正体が知られても、ハァズに警備隊を処分させてしまえば証拠は残らない。予言者と魔物の襲撃を受けたのだから犠牲が出ても不自然ではない。
「予言者よ、お前の負けです」
純白の衣装を着たバースが夜衣を指差し勝利を宣言した。
ハァズを控えさせ堂々と振舞う様は、まるでお告げをする預言者のようだ。一般人が見れば神々しさまで感じたかもしれない。
「何なのよ、アイツ!魔物のくせに聖職者気取りなんかして」
ヒステリックに叫ぶリリガスの反応が面白かったのか、バースの分身達は笑い声を上げ夜衣達の周りを飛び回った。
中には馬鹿じゃねーの、などと野次を飛ばす者までいる。
分身達を移動させるとお膳立ては全て整った。後は扉を開けて警備隊が突入するのを待つだけ。
それなのに、いつまで経っても扉が開く気配が無い。ロックが解除されたのだからすぐに大勢の警備隊が入ってくるはず。
「どうしました?早く突入して下さい」
いくらハァズに守られていて安全だといっても、こいつらの前で本体を長く晒しているのは不安だ。
奴らの息の根を止めるまでは安心出来ない。
バースの通信後すぐに答えが返ってきた。
『駄目です、扉が開きません!』
「そんな馬鹿な!」
警備隊の返答にバースは声を荒げた。確かに扉のロックは解除した。
この部屋は外部からの侵入を防ぐため特別な素材で作られている。内部からの通信でしか扉は開けない。
念のため通信機を兼ねたバッジでもう一度解除コードを入力するも、やはり扉はびくともしなかった。
突然システムが故障したとは考え難く、また夜衣が予言を使ったような素振りも無かった。
「その扉は開かない」
考えを巡らせるバースの頭上から聞き覚えのある声が降り注いだ。分身達も一斉に視線を向ける。
部屋内でこのような芸当が出来るのは夜衣を除いて一人しかいない。
柱の頂上に立ち扉を指差していたのは花占い師ライーザだった。手にはつい今しがた使い終わった花の茎が握られていた。
横には当然のようにロベオが立っている。
夜衣とリリガスの相手をしていたバースは、二人の存在をすっかり忘れていた。
平和主義者の占い師など放っておいても問題無いと心のどこかで思っていたからだ。
ライーザの声も分身の野次に掻き消されていたので気付かれなかった。
また隠れて妙な事をされては困ると分身達は静まった。半分を夜衣達に、残りを占い師二人の監視に回す。
「アナタの思い通りにはさせませんよ」
ロベオの決め台詞を聞いてもバースは何の脅威も感じていなかった。ただ邪魔をされた事には変わりない。
夜衣と仲違いをして離れた時に始末しておくべきだったと思いながら、バースは冷静にライーザへ話し掛けた。
「どうして予言者に協力するような真似をするのです。あの薄情な男を助ける必要など無いでしょうに」
あくまで優しく、諭すような口調で話すバース。ロベオは最初から眼中に無い。
うまく説得して扉を開けさせるか、分身の攻撃で今すぐ始末するか。術者が死ねば予言と同じく解除されるはずだと彼は考えていた。
手間取っていれば抜け目の無い予言者の男が動くかもしれない。
ライーザは答えない。代わりにロベオが声を上げた。
「扉を開けた後、アナタが何をしようとしているか。全てお見通しデスよ!」
彼は占いによってバースの企みを知り、戦うことを決意したようだ。
私利私欲のためあのような幼い子供を盾にして、あまつさえ駆けつけた仲間までもいざとなれば始末しようとしている。
それも自分の手を汚すのではなく子供にやらせようというのだ。
愛と正義と平和を愛する占い師の一員、何より子供を守る大人としてバースの行いを許すわけにはいかない。
ロベオは正義の炎に燃えていた。
「いい子だから扉を開けてくれませんかねぇ?言う事を聞けば無礼を許して、命だけは助けてあげてもいいですよ」
ロベオを完全に無視したバースはライーザに最後の忠告を与えた。断れば命は無いという脅しだ。
ライーザは当然、この男が全員を殺す気でいると分かっていた。最初から誰も逃がすつもりなど無い事を。
沈黙が彼女の答えだ。バースはやれやれと肩をすくめるとハァズに抹殺命令を出した。
「ハァズ君、あの女を殺」
「お待ちなさい!」
言葉を遮ったロベオがライーザを庇うように前に出た。手には三角形の紙が握られている。
バースは動きを止めた。なぜならその紙には「けっこんじゅう」と書かれていたからだ。
血魂銃によって倒れると夜衣に予言された(と思っている)バースには無視出来ない。ペラペラのいかにも手作りの紙鉄砲であったとしても。
予言に加え、もしもライーザの花占いで弾が当たるなどという結果が出されれば、自分の命は助からない。
障害にはならないと思っていた占い師の思わぬ行動に、バースは戸惑った。
真っ先に優先するべきは予言者の抹殺。だがあの二人も放っては置けない。
その一瞬の迷いが命取りだった。
「!」
ぴとりと、何かが足に触れる感触。同時にバースの背筋に悪寒が走った。
彼の足元には顔と爪楊枝の様な手足が付いた物体が転がっている。
ソレはバースの足に寄り掛かり、ふうヤレヤレと言わんばかりの仕草をしていた。
きらめく透明なボディに小さくつぶらな瞳。緊張感の無い表情は何やら妙な不安を掻き立てる。
バースの視線に気付くと、ちょこちょこと二・三歩移動し手足を引っ込めロベオ達の方へと転がっていった。柱を垂直に登って。
「やりました!」
ロベオがガッツポーズするとライーザも作戦成功と夜衣にピースサインを送る。上出来だと笑う夜衣。
彼らの行動は全てこのため。触れたものを不幸にするロベオの秘密兵器、クリスターちゃんをバースに当てる事が目的だったのだ。
柱の上でロベオが布越しにクリスターちゃんを拾い上げると、元の水晶玉へと戻った。




