わしがゴルフの妖精イーカラハである!
天に浮かぶ青い地球が煌々と大地を照らす、荒涼たる月面にて。
……私は ”尻の穴にゴルフボールをぶち込まれると喜んで悦に入る変態ドラゴン紫炎にキャディをやってもらう為に、生み出された百個のボール全てをドライバーでその尻に叩き込む特打ち” をようやく終えた。
「ゼェッ、ゼェッ……何やってんだろう、私」
これから ”反呉竜府九神将” 最後の刺客とやらと戦うって言うのに、なんかもう心身ともに疲れ果ててしまった。このドラゴンはキャディとして優秀らしいけど、ホントにこんなんでプラスになるんだろうか。
〝フングー♪〟
すっかりご機嫌になった紫炎が笑顔でこっちにズシンズシンと歩いて来る。そういやこのドラゴンにもちゃんとした地球の重力や空気なんかが影響してるみたいだ、歩く音や羽ばたいて飛ぶのも込みでね……って、うわわっ!?
ガシッ、と紫炎のでっかい両手が私の体を鷲掴みにする! まるで雑巾のように捕らえられた私は、まさにそのまま捩じられ、搾り上げられる!!
バキボキゴキみちみきポキポキポキ……
「あ、くあぁぁぁ、ンがあぁぁぁぁっ!」
その剛力で締め上げられた私の体の各部が次々に悲鳴を上げる。え、なに……やっぱりコイツはただの猛獣で、私はこのまま殺されて食べられちゃう、のか、な……。
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「う、うそ、でしょ?」
その手の平から解放された私は、全身をぐるぐる動かしながら、今の自分の体調に驚かずにはいられなかった。
体が軽い。疲れもしんどさもきれいさっぱりどこかに飛んで行った。今日の数々の勝負の疲労はもちろんのこと、頭の中まで快眠から目覚めたさわやかの朝のごとく、晴れ渡ってるじゃないの。
「あれ、マッサージだったの?」
〝グフフン、フン♪〟
上機嫌で首を縦に振るドラゴン紫炎。思えば今日この月面で色々とんでもない目に遭い、体力と精神をすり減らすゴルフを繰り広げたせいでかなりクタクタになっていたんだけど、それがこうまで綺麗にリセットされるなんて!
「ありがとう、凄いキャディねぇ」
〝フン、フン、フフン、フンッ〟
私がお礼を言うと、腰に手を当てて笑顔で反り返って鼻息を鳴らす。なんかこうして見ると本当に愛嬌のあるドラゴンだなぁ……普通のドラゴンがどんなんかは知らんけど。
そんな私の前に立ち、イーカラハが片手を上げて宣言する。
『それでは、いよいよ最終戦である! ”反呉竜府九神将” 最後の刺客、出ませいっ!!』
あ、そうだった。よく考えたら最後の一人をずっと待たせていたんだった……お待たせいたしましたー。
でも、黄金の月面車に立っている最後の一人は身じろぎもせず、マントとフードを被ったまま立ち尽くすのみだった。ありゃりゃ、立ったまま眠ったのかな?
と、その時。一陣の風が、その人のマントとフードをはらっ、とはためかせた(なお真空の月面)。
そしてその布がはらりと空中に舞い上がり、中の正体をあらわにする――
「え……ただの、木?」
中に人はいなかった。ただの角材が立てられているだけで、それに布が乗っかっていただけだったのだ……おかしいなぁ、確かに人影に見えたんだけど。
と、飛んで来たそのマントとフードをイーカラハがガシッとキャッチし、そのままバサツ! と自らの身に纏うと、私に向かってこう言い放った!
『わしが ”反呉竜府九神将”最後の刺客、ゴルフの妖精イーカラハであーるっ!!!』
……は?
「え、えええええーっ、アンタが最後の相手ーっ!??」
『左様。このゴルフの妖精イーカラハに勝てるかな、孟子 蘭よ!』
マントとフードを改めてぶわさっ、と取り払ってそう言うイーカラハ。ってかわざわざ纏わなくても良かったんじゃない?
でもよく考えると、今まで見えていた九神将のシルエットに一番ピッタリハマる体格ではある。もしかすると私が見ていた敵さんの面々は、このイーカラハの姿のコピペだったのかなぁとも思う。
と、しかめっ面のイーカラハが、その表情を少しだけ曇らせたかのように見えた。同時に背中のコース製造機 ”設計のレーキ” を抜いて右手に構えると、ザッ! と大股を開いて身構え、そして――
『最終戦の舞台、顕現せいッッッ!!!!』
まるでラ〇トシュー○ィングをするロボットのように天高くレーキを掲げて、今までにない程の大声て宣言する。同時にそのレーキにカカァッ! と落雷が轟き、そこから発した光が月面世界を白く染め上げる――
(だーかーら、ここ月面だってば!)
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光が収まった時、私のツッコミをあざ笑うかのように、そこは月面では無かった。眼下に広がるのは青い海、そして肌に感じるのは……落下する感覚!
「ひ、ひえぇぇぇぇぇぇーっ!」
全身で風を受け、私は海へと落下していた。いきなり地球の空高くに転送された私は、そのまま ”突然スカイダイビング” なドッキリ状況に放り込まれていたのだ。
と、私の際を、紫色のナニカが下へ向いて追い越して行った……紫炎だ!
〝フングー〟
そのまま私の下へ回り込んだ紫炎が、ばさっ! と翼を広げると、私は速度を落とした彼の背中にどすん、と着地した。彼の翼は風を受け止め、落下から滑空へと減速し、まるでトンビの様に優雅に空を飛び始める。
「うっわ、あはははは……すっごいっ!」
思わぬサプライズに顔がほころぶ。スカイダイビングもパラグライダーも経験がない私の初の空中遊泳が、まさかドラゴンの背中に乗って飛ぶなんて……って、なんか下でガチャガチャ音がすると思ったら、私のゴルフバッグを紫炎がしっかり首から下げている。
「本当に優秀なキャディさんねぇ」
〝ヌフフン、フン♪〟
いやぁ、頑張って彼をキャディにして良かった。もしそうでなければ私はこのまま落っこちて死ぬところだったんだから……あれ? ひょっとして地獄の二択を抜けてた、私??
と、私達の横にイーカラハがスゥッ、と並飛行して来た。相変わらずの直立不動で、腕組みをしたままで。
ただひとつ違う所。それは彼の右手に、黄金の光を放つ一本のドライバーが握られていた事だ。あれが……八聖剣の最後の一本!
『見るがよい、あの島こそが最終決戦の地である!』
イーカラハが目線で示したその先に、海に浮かぶ小さな孤島があった。落ちるたびにそれはその姿を大きくし、その全容を現していった――
「島の真ん中にゴルフコースがある……あそこで!?」
うっそうとした森の島。その真ん中に切り開かれたゴルフコースが、たった1ホールだけあった。こんな何も無さそうな無人島に……どうして?
『あれこそが最終決戦場、 ”ナイスショッ島ゴルフコース” で、あーるっ!』
そう宣言するイーカラハの目が、何故か涙の光を発しているのを、私は確かに目に止めた――




