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第八の刺客…それは、まぎれもなくヤツだ!

「あと……二人っ!」

 地面に落ちた八聖剣 ”暗黒の3W(スプーン)” を拾い上げつつ、残った二台の黄金の月面車に立つふたりの人物に目を向ける。

 私のゴルフ魔具は3W(コレ)を加えてふたつ。つまり1勝1敗なら私は無事に生還する事が出来るのだ……その為にも次の勝負には何としても勝ちたい!


 でも、この九番勝負の後半戦。八聖剣を巡る戦いになってからは明らかに相手のレベルが跳ね上がっている。最初のゴブリン(ゴルフリン)こそ聖剣に頼りがちだったが、続く夢星さんとテイラーさんは明らかに私より格上の相手だった。当然残りの二人も同格か、あるいはそれ以上の強敵と見るべきだろう。


 その私の前に立ったイーカラハ。珍しく表情をふっ、と緩め穏やかな声でつぶやく……『待たせたな』、と。

 そして表情を戻し、右手をばっ!と挙手して宣言する!

『”アンチ呉竜府ゴルフ九神将” 第八の刺客、出ませいッ!!!』


 ぶわさっ! とマントを脱ぐ第八の刺客。でもなんか広げたマントの面積が今までに比べてずっと大きい気がする、なんで?

「……んなっ!?? ちょ、ちょっと」

 私が思わず絶句し、辛うじて嘆きの言葉を発したと同時、相手が乗っている月面車が重さに耐えられず、ズシンメリメリと音を立てて潰れていく。


 無理もなかった。そこにいたのは人間ではなく、身の丈3mほどもある巨大なトカゲ……いや、ドラゴンだったからだ!

「グルルゥワァッ!」

 野太い声でいなないて、ぶわさっ、と飛び上がり、ばっさばっさと羽ばたいて残り二本の聖剣の前に降り立つ赤紫色のドラゴン、ひえぇ……ゴブリンもファンタジーだったけど、コレはさすがに想定外っていうか怖すぎるんですけど。


「ちょ、ちょっとイーカラハ! いろいろツッコミたい所だけど、とりあえず追っ払えないの?」

 イーカラハの後ろに隠れつつそう頼み込む私を後ろ目で仰ぎ見て、彼は平然とこう返した。

『案ずることは無い。奴の名は ”紫炎しえん” 立派なゴルフドラゴンである!』


 ゴルフドラゴンって……あーまたツッコむとこが増えた。よしちょっとまとめよう。

 今までの人間のシルエットは何だったのか、何で真空の月面でばっさばっさと羽ばたけるのか、そもそもドラゴンって架空の生物じゃ、それがなんで月面にいるんだか、ゴルフするドラゴンとか創作でも聞いた事無いし、そもそも ”紫炎” ってゴルフクラブのブランドでしょ? ウチのオーナー、太田瀧おおたたきがツアープロの時にメーカーに発注した……


 あ、あれ? なんか既視感が?


『どうした?』

〝グルルルル……?〟

 考え込む私を妖精イーカラハ(には見えないけど)とドラゴンが不思議そうに見る。この光景、確かどこかで……太田瀧オーナーが、関係してたような……



「あ、あーっ! 思い出したっ、オーナーが持ってたあのマグカップっ!!!」


 そうだ。もと名ゴルファーのオーナーがやたら大事にしてたあのマグカップに描かれていた絵。筋骨隆々のハゲ頭親父と赤紫の燃えるようなドラゴン……。


 あのイラストそのまんまじゃないのっ、この二人は!


 そういやイーカラハの像を初めてみた時、なんかどっかで見たような気がしてたけど、あの時は流石に気付けなかった。でも、こうして二体揃ってみるともう明らかにあの絵のキャラだ、間違いない!


『マグカップ……だと?』

〝グ、フングフング?〟

 私の言葉に、今度は二人……いや一人と一匹……妖精って一人二人と数えるんだっけか、ってどうでもいいわ! とにかく二人が目を丸くしている。


「私の仕事場のオーナー、太田瀧さんが持ってるマグカップに、あんた達が描かれてんのよ……もしかして、知り合いなの?」


『何と……あの太田瀧と、知り合いであったのか』

〝ムフーン! フンッフンッ〟

 やっぱり。何らかの関係があるんだ、この一人と一匹と、うちのオーナーは。



  ◇        ◇        ◇



「とはー、そんな事があったんだ」

 イーカラハの語る過去の話。かつて自分が支配しているダンジョンゴルフ場に若い頃のオーナーが迷い込んで、そこでいろいろトンデモゴルフを繰り広げた事。このドラゴンをキャディとして、ご褒美にお尻の穴にドライバーショットをぶち込んで(ここ全力でツッコミたい! 変な意味じゃなくて)地獄のようなホールをクリアしていたとか、しまいには月まで打ち込まなきゃならなくなって、このドラゴンがショットされた球を咥えてこの月面まで運んできた事とか。


 そしてオーナーがゴルフ魔具を望まず、そこで鍛えた腕を頼みにプロの頂点まで駆け上がった事を。


『あ奴は見事、本懐を遂げたか。重畳なり』

〝グルルルッフング♪〟


 懐かしむように感慨深く頷くイーカラハ。ドラゴン紫炎も上機嫌でゴロゴロと喉を鳴らす……オクターブが低いので猛獣の唸り声に聞こえて怖いけど。



『さて、それでは勝負を開始する。紫炎よ、聖剣を取るがよい』

〝グルルン、グルルン、グルルンルン♪〟

 上機嫌のドラゴンがその大きな手の指で、浮いているPW(ピッチングウェッジ)をちょん、とつまみ上げる。もう一本はドライバーみたいだったからそちらをチョイスするかと思ったけど……。

 どっちにしても体格に比して獲物がちっちゃすぎる、爪楊枝みたいだなぁ。


『ぬぅっ! それは八聖剣の中でも最強の一本 ”ぴっちぴちのピッチングウェッジ”』

「何その陸に上がった魚みたいなネーミングは!」

 とりあえずツッコんでおく。なんかゴルフの腕より漫才のツッコミの腕の方がレベルアップしてない、私?


『では、コースを生成する、ぬんっ!』

 例によってレーキを振るい、新たな勝負のホールが現れる……が、そこは今までとは全く異質の舞台だった。


「な、なにこれ……地面が抜けて、いや、無くなってる!?」

 自分達が立っていた月面が姿を消し、今いるティーグラウンドと30yほど向こうの大きめのグリーン以外、全て()()()()になっている……まるで仮想空間の宇宙に浮かぶティーグラウンドに乗っかっているようだ。


『勝負はニアピンで行われる! グリーンに乗らずに宇宙にロストすれば敗北、グリーンにさえ乗せれば引き分けで次戦となる』

「え? グリーン結構広いけど、乗せるだけなら簡単じゃない」

『一度乗せるたび、グリーンは半径1mずつ縮む仕様である!』

 どんなのよそれ! とツッコミかけて止めた。もともと月面ゴルフすら常識の範囲外だし、それをここまでSFチックに仕立てられたら、勝負を盛り上げる為に縮んでいくグリーンがあってもまぁおかしくは……あるけどなぁ、やっぱ。


 でも最初は簡単だ。なにせティーグラウンドからグリーンまですぐそこだし、チョロやトップさえしなけりゃ余裕で乗るだろう……少なくとも一打目なら。

 くじ引きの結果、オナーは私になった。というか隣で巨大なドラゴンがフンフン鼻息を鳴らしながらくじを引く姿はそれだけでシュールなんですけど。


「さてと……じゃ、行きますか」

 ボールを直に置き、思い出のPWを引き抜く。この第一打目でどうしても確かめたいことがあるから、あえて私は少し危険なショットに挑む。


『球を、右足のさらに右にセットしおった』

〝グルルン?〟

 私が幼い頃、初めてモノにしたショット。このクラブをくれたお爺さんから教えてもらった、距離感と方向をしっかり安定させる魔法の打法。


 ランニングアプローチ。

 ボールを極力右足側に置き、上から球を潰すように叩くことでボールを低く弾き出す打ち方。

 これを使えばチョロやトップはまず絶対に防げるのだ。上から下に向かってまずボール、直後に地面をドンと叩く、まるでクワを地面に打ち付けるようなこの打法なら、確実にフェースで球を捕らえられるし、先に地面を叩いてザックリチョロにもならない。

 また、打ち終わり後に地面にクラブが刺さる為、打ち終わった後のフォロースイングを気にする必要も無いのだ。打ち始めから地面を叩くまでの短い動作だから力加減も極めて容易になる。

 しかも球が浮いても浮かずに転がっても(角度次第)、ほぼ同じ距離を出す事が出来る、まさに魔法のショットだ。


 でも、手前にバンカーや池がある場合は浮かさないといけない。今のこの状況も手前が宇宙空間だから、ノーバウンドでグリーンエッジまで届かせる必要がある。


(それでも……この打ち方なら、グリーンの速さや傾斜を知る事が出来る!)

 私の狙いは、グリーンが広い今のうちにその速さや傾きを理解しておくことだ。この打ち方は転がり(ラン)が長く出るから、グリーンの性質を理解するにはもってこいなのだ。

 普通に浮かせて上からドスンと落とすアプローチなら、それは決して測れないから!


 コツッ、トーンートントン……シュルルルル――


『ナイスオンである!』

〝フングフングー〟


 狙い通り、私の一打はグリーンエッジに着地し、そのまま直径20mほどのグリーンの三分の二ほどを転がって止まった。ラインはちょっと左に切れる程度、ピンのすぐ手前は受け(登り)グリーンになっていて、グリーンが縮んだらバックスピンをかけすぎると、手前に勢いよく転がり戻って転落してしまうようだ。


 さて、今の一打でこのドラゴンさんは、そのグリーンの性質を見抜けたかな?



 ガッツーン!


 あら! とズッコケかける。エンピツをはじくように放ったドラゴンのショットは明らかにトップして、グリーンの遥か向こうまで突き抜ける勢いなのは明白……


「え”?」

 なんとその低空ショットがピンにばいん! と直撃し、しなったピンの真上に舞い上がった彼の球は……とん、とんとん、と真下に落下し、ピタッとカップ際に

見事停止した。


「ええええええーっ!?」

〝フン、フン……フーン?〟

 驚く私とは対照的に、ドラゴン紫炎はつまんでいるPWをひゅんひゅん振りながら、今の一打の感触を確かめているみたい。つまり、さっきの……狙い通りってコト?


『紫炎は至近距離からのドライバーショットを指で正確に弾くほどの繊細な操作力を持つ。奴にかかればあの細いピンも巨木に等しいであろう』


 イーカラハがそう解説した後、レーキをぐっとかざす。そしてグリーンが輝き、ずずずずずっ、と1mほど縮んでいく。


『両者の力を垣間見た良き初打であったぞ。さぁ、最後までグリーンを捕らえるのはいずれであろうかな』


 イーカラハのそのセリフが、私の心にびりっ、とした緊張感をみなぎらせた――

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