第六の刺客、まさに最凶!
『”反呉竜府九神将” 六人目の刺客、出ませいッ!!!』
イーカラハの宣言を受けて、地面に刺さる八聖剣の内の二本がまた、スゥッと浮かび上がり、何故かピンク色に光発し始める。
同時に九神将の一人がマントを自分の身に巻きつけるように払い取って、そのままスケートのアクセルターンのようにジャンプ回転して地に降り立った。さぁて、こんどはどんな相手なのかな?
「魔法のゴルフプリンセス、略してまごぴーこと夢星 桜でーっす。よろぴくね~、きゅるりんっ!」
ばりっ! と、私の中で何かが破れるような音が聞こえた……気がした。
「あ……あの……恥ずかしく、ないですか?」
……どう見ても30歳は過ぎてる恰幅のいいオバサンが、ショッキングピンク中心のいわゆる魔法少女コスで登場して、痛々しいリアクションまで披露したのだから、そう言うしかなかった。
「えー、なんでー? わたしわっかんなーい♡」
あいたたたたた……いちいちセリフやリアクションがもう見てらんないレベル。私は別にルッキズムを推奨も否定もしないけど、この夢星さんどー見ても美人とは程遠いタイプで、お金持ちでもない限りはまずモテそうにない、たぶん独身なんだろうなぁ……。
ま、私もそうなんだけどね。
「うふふ、私の魔法の力と、このゴルフ魔具 ”魅惑のユーティリティ” と、 ”羨望のチッパー” があれば、どんな男も私のト・リ・コ」
「えーっと、私女なんですけど……ねぇイーカラハ、あなた彼女にトリコになりそう?」
『愚問であるな。それより彼女の持つクラブに注目せよ!』
とりあえずイーカラハに質問を振ってみたけど、さすがにゴルフの妖精と言うか、見た目や言動は気にならないみたい。まぁアンタも自称妖精だしねぇ。
「そうね……UTにチッパー。効率重視の実戦派なのかしら」
彼女が手にした二本のクラブは、いずれも最近世に出た新時代のゴルフクラブだ。
UTとはウッドとアイアンの中間の性能を持つ、飛距離と扱いやすさを両立した、まさに魔法のクラブだ。今やプロでも多数の人がこれを愛用しており、これからのゴルファーにとっては必須のクラブになるだろう。
チッパーっていうのはウェッジとパターの両方の性能を持つ、ショートアプローチに特化したクラブだ。グリーンにちょっと届かないくらいの距離で、トップもチョロも防げるうえに方向や距離も出しやすい。今はまだ初心者用として世間ではあまり受け入れられていないが、将来的にはこっちも必須のクラブとなるだろう。
「じゃ、イーカラちゃん♪ コースお・ね・が・い」
『心得た』
背筋が寒くなりそうな猫なで声の夢星さんに動ずることなく、またもレーキを振るってコースを出現させるイーカラハ。出現したのは――
「う……うっわー、すっごいコース!」
なんとコースの両脇、ラフの部分は見渡す限りのお花畑だ。菜の花の黄色やコスモスの紫、場所によってはチュ-リップやアジサイなんかも固まって群生している。立木は全てが満開の桜で、池には蓮の花か水鏡に映えて見事な美しさだ。
フェアウェイにすらタンポポやスィートピーなんかがちらほら咲いている……なんかゴルフコースと言うよりは、どこかの芸術の森みたいだなぁ。
「きゃるーん♪ 私にピッタリのコースあ・り・が・と」
『わしはゴルフの妖精イーカラハであるからな。さ、いいから早ようせい』
ウインクかます夢星さんに動ずることなく、いつもの催促をするイーカラハ。
しかし……メルヘンチックなコースに妖精なら似合いそうなもんだけど、マッチョスキンヘッドのイーカラハじゃ場違い感が凄いなぁ、痛コスの夢星さんもまたしかり……なんか20代後半で独身の私も他人事じゃ無い気がしてきた。
うん、彼女を反面教師にして、素敵な男性と知り合って幸せになろうっと。
くじ引きの結果オナーは私になった。ピンまでは約300yのミドルホール、無風でフェアウェイも広い。これなら……
「ヨイ・ヨイ・ヤァーッ!!」
パッキャアッァーン! と芯を食った心地よいドライバーの音を響かせて飛んで行った白球は、見事フェアウェイのフラットな場所をキープできた。うん、会心の一打っ!
「んじゃ、次は私の番ね♪ キュルリラパラリラ~魅惑のUT、お・ね・が・い♡」
魔法少女よろしくひらひらと踊りながら、ウインクした目をVサインで飾りつつユーテリティをバトンのようにくるくる回してティーグラウンドに立つ……10代の美少女なら絵になるんでしょうけど、ねぇ。
あのゴルフ魔具の力は知らないけど、所詮UTじゃドライバーの飛距離には及ばないだろうと、半ば呆れ半ば余裕で彼女のアドレスを見て……。
――びりぃっ!――
空気が……変わった。
「スウゥゥゥゥゥゥ……」
聖者のような呼吸音を発しながらテイクバックを始める……どんな魔法チックな打ち方するかと思ってたら、思わず見惚れるほどの見事な振りかぶりから――
ヒュパァン!
カッチイィィィィーン――
見事な円の航跡を描いたスイングが空気を切り裂き、ピンク色のボールをまるで彗星のように打ち出した!
「え、あ……うそ、でしょ?」
『ナイスショットである!』
「あ、うん。ナーイスショット……って、どこまで飛ぶのよおぉぉぉっ!?」
私の球を置き去りにして滑空する彗星は、そのまま250yの看板をまたいでグリーンのすぐそばに付けて見せた……なにあれ、本当にUT?
「てへっ♪ 私のマジカルショット、みごとでしょ?」
相変わらずポーズを決めながら、舌を出して笑顔を見せる中年のコスおばさん。
私はそんな彼女を見て、全身から冷や汗が噴き出すのを感じていた。気持ち悪いコスプレも言動も、もう私の中から吹っ飛んでいた……。
(なに……この人。ゴルファーとしての ”格” が、違い過ぎるっ)
今の一打を見ただけで分かる。この人は……ここまでの人生を本当にゴルフに捧げてきた強者、モノホンの女傑ッ!!!
それこそ、私なんかがどう逆立ちしても勝てないほどの――




