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第五の刺客、その名はゴルフリン!

 強風吹きすさぶ海岸線ゴルフ場にて私、孟子 蘭(もうし らん)異形の小鬼(ゴブリン)と向かい合い、イーカラハが提示したオナー決めのくじを引く。


「オレガオナーダ、ゲッゲッゲッ」

 一番印の付いたクジを引いたゴブリン、ゴルフリンがにやぁっ、と笑う。

(何が嬉しいんでしょうねぇ、こんな強風海岸コースで先に打つ事になったのに)

 こうまで風が強いと、どうしてもティーショットを先に打つ側は不利になるものだ。


「じゃ、ゴルフリンさんのお手並み拝見と行きますか」

 アドレスに入るゴブリンを見て、その行方に注目する。打ち方、弾道、風向きから地面の球の走りまで、読み取るべきところはいくらでもある……。


「ゲッゲッゲッ、ジャア、イクゼ……地ノ4番アイアンヨ、ソノ力を解放セヨ!」

 アイアンを天に掲げてそう宣言すると同時に、なんとアイアンが青い光を発し始め……やがてそれは収束するように打面フェースの下の端に集まり、まるで刃のように研ぎ澄まされていく。


「ア、アイアンの下面が……ちりとりに?」

 思わずこぼした私の台詞にゴブリンががくっ、とずっこける。

「ナンデヤネン! 刃ダ、()()()! ……ゲゲゲゲゲ、マァ、ミテイロ」

 気を取り直してアドレスに入るゴルブリン。って、なんかティーアップもしないで、しかも球をずいぶん右足側にセットしている。確かにこの風じゃスイングの最下点より前に球に当てて低い球を打ちたい所だけど……いくらなんでもあれじゃ降り抜けないよ、打った途端に地面にザックリしちゃうんじゃ?


「ッシャアァァァッ!!」

 気合一閃、ゴルブリンのフルスイングが球を捕らえ、同時に地面に突き刺さって――


 ずりゅんっ!


 なんと地面を豆腐かチーズのように切り取って、そのまま振り抜いた!

「ひえぇぇぇ……どんだけ地面掘ってんのよ」

 60cmほどもある芝生がスイングの形にえぐり取られ、それが宙を舞って数メートル先にどさっ、と落下する。

 そしてボールは、そのはるか先を低空飛行し続けて……やがてフェアウェイ真ん中に着弾した。


「ゲッゲッゲ、コレガコノ ”地ノ4番” ノ力ヨ。コノクラブニ ”ダフリ” ノ文字ハ無イ!」

「クラブの一番下が刃になって、地面をすっぱりと抉る……なんてコースに優しくないクラブなの!」


「マァ固イコトイウナ、チャント直シテオクカラヨ」

 ……律儀に出来た穴を目土めつちで埋め、削り取った芝生の帯(ディボット)を被せてコース修繕をするゴルフリン。うーん、妙な所でいい奴だなぁ。


「じゃ、私の番ね……って、しまった! 相手の一打が何の参考にもならないっ!?」

 あんな特殊なクラブを使われたんじゃ、私の一打の参考にもなりゃしない……ま、まぁ低空飛行させりゃOKなのは分かったから、私もそれで行こう。


 どばいぃぃん!

「ぎゃあぁぁぁ、もろダフったあぁぁぁぁ!!」

 私のスイングは球の前に地面をもろに叩いてしまい、打った球はテンプラと呼ばれる高い高い弾道を描いて、あっという間に風に流されて……海へと落下していった。

「やってもうたあぁぁぁ」

「ゲッゲッゲッ、オレノスイングガ、頭カラハナレナカッタヨウダナ」


『見事な心理戦だなゴルフリンよ、先に特異なショットを見せ、孟子蘭の心を乱して見せたな』


 イーカラハの解説通り、競技のゴルフは ”心の格闘技” と呼ばれるほどの心理戦なのだ。先に打った相手の一打がナイスショットかバッドショットかで、後から打つ人の心境はまさに一変する……見事にそれにハマってしまった。


「くっ、3打目、打ちます」

 2打罰を加えての再ティーショットはなんとか低空弾道スティンガーを描き、ゴルフリンの球より向こうに飛んで行ってくれた……ああああ、これが一打目からできてりゃなぁ。


「ゲッゲッゲ、今ノガ最初ニデキテイレバ、ナドト思ッタカ?」

「心理を読むな! ま、確かにそうなんだけど」

 二打目地点。目の前には比較的高い丘があり、低空弾道では弾かれて明後日の方向に飛んで行く可能性が高い。さすがにここではあの刃物アイアンは使えないだろう。


「サァ、次ハコノ ”天ノ9番アイアン” ノ出番ダナ」

 ゴルフリンが新たなゴルフ魔具とやらを真上に掲げ、居丈高に宣言を発する。

「風ヨ、止マレッ!!」


 カァッ、とそのクラブが光を発した瞬間、吹きっさらしの海風がぴたっ、と止まった。

「うそ……風が、止んだ!?」

「ゲッゲッゲッ、コレコソガ ”天ノ9鉄” ノ真ノ力ダ」

「そんなんアリかあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 私の抗議に耳を貸さずに二打目を打つゴルフリン。見事な高い弾道で丘を越え、次の一打でグリーンを狙える絶好の位置につけてみせた。

「風ヨ、モドレ」

 で、わざわざ律儀に元の強風状態に戻してくれるし……さすがにこれはズルくない?


「ゲッゲッゲ、貴様ノ ”平常ノパター” トハ格ガチガウノダヨ。コノ勝負イタダイタ!」

 あ、そういや私もゴルフ魔具とやらを持ってたんだった。でも……グリーンまで200Yはあるのに、さすがにパターは……

 と、自分のバッグの中を見たその時だった。預かった ”平常のパター” がまた緑色に輝き、私に心にその声を届ける。


 ――コースを、よく見て――


「……え?」

 それだけ私に伝えると、パターはその光を納めてしまった。コースを……よく見る?

「どれどれ、っと」

 打ち出し先の丘に上がり、グリーンまでを仰ぎ見る。相変わらずの強風で、フェアウェイは狭くその横はすぐ崖、ものすごい地獄コースではあるけど……。


「あ……そういう、ことか」

 なるほど、良く見れば明らかだ。このホールには風と崖()()()()()()()()()()()んだ。バンカーも池も、なにせラフすらなく全面がフェアウェイ芝で、しかもそれもまるでグリーンのように滑らかに刈り取られている。


 そして丘の先は長い長い下り坂になっていて、グリーンの直前から登りに代わっている。と言っても下り自体は緩やかで、高く打ち出した球を落とせば少し転がって止まる程度だ、さっきのゴルフリンの二打目のように。


 だったら……次の一打はコレで!


『ぬぅっ! このケースでパターを手に取るか!!』

「ゲッゲッゲ、シカモゴルフ魔具 ”平常ノパター” デハナク普通ノパターカ……モハヤ諦メタヨウダナ」


 驚いてる驚いてる。といってもイーカラハのほうはニュアンス的に『よくぞ気付いた』って感じなんだろう、このコースこさえたのは彼なんだしね。じゃあ、打ちますか!


 カッツーン!


 勢いよく転がり出された私のボールは、そのまま丘を駆け上がって下りに入り、その速度を緩めることなくどんどん下っていく。予想通りこのフェアウェイ、あのオーガスタのグリーン並みによく転がる。さっきの伊集院さんとの勝負でオーガスタ経験してて良かったー。


 かくして私のボールは見事に坂をかけ下り、登りに入って減速を始めて、見事にグリーンに届いて見せた。


「バ、バカ……ナ」

 大口を空けて愕然としているゴルフリン。まぁ残り200Yをまさかパターで転がすなんて普通は考えないでしょ、でもねぇ……

「あなたが風を復活させてくれたおかげでこの発想が出たのよ、お気の毒様」

 へへーん、言ってやった言ってやった♪


「グ、グギギギギ……マダコノ俺ニハ ”地ノ4番アイアイン” ガアルッ!」

 風止め作戦が失敗したのか、それとも思わぬ花道に気付かなかったからなのか、動揺しまくった状態で3打目を打つゴルフリン……


 すぱぁっ!


 彼の刃の一打は、見事に彼のゴルフボールを真っ二つに切り分けた……あーあ。せっかくリードしてたのに、ねぇ。



「オボエテヤガレェーッ!」

 捨て台詞を吐きつつ、コースとともに消えていくゴルフリン。


 やがて世界が元の月面に戻ると、残された二本のアイアンが地面にとさっ、と音を立てて落ちた……もう光は発せず、ただの古ぼけたクラブに戻っていた。



  ◇        ◇        ◇



「フア~ァア」

 夜。月の光ゴルフコースの跡地にて、人目が消えた頃に洞窟から一匹のゴブリンがのそのそと這い出て来る。

 彼の名はゴルフリン。かつてこの地に来たゴルファー達を、ゴルフの妖精イーカラハ様が地下ゴルフ場に案内した時、キャディを務めたゴルフ好きのゴブリンだ。


 が、もう20年以上もここを訪れるゴルファーはいなくなっていた。最後に来た男は自分ではなく、洞窟の主のドラゴンをキャディとし、見事全てのホールの制覇を成し遂げて……そしてそのドラゴンはそのまま月まで行って、二度と帰っては来なかった。


「今モドラゴン様ハアノ月デ、ゴルフヤキャディヲヤッテルンダロウカ……」


 夢を見た。自分もあの満月の上で、とある人間の女性とゴルフを楽しんでいた夢を――

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