降臨、伝説の八聖剣!
「これで2勝2敗かぁ……あと5人も相手しなきゃいけないのよねぇ、あの濃ゆそうな人たちと」
思わずため息を漏らす私、孟子 蘭。ただでさえゴルフの妖精(なおハゲ頭マッチョ大男)イーカラハに月面まで連れて来られてのゴルフ勝負だというのに、対戦相手の ”反呉竜府九神将” とやらが奇特な人達ばかりで相手していて疲れる……ホントにこんなんでゴルフが上達するのかなぁ。
「ククク……今までのはほんの前座」
「これからが本当の地獄だ、フッフッフッ」
なんかその九神将(残り五人)はこっち見て、少年漫画みたいなセリフ吐いてるし……というか9人全員シルエットが2m超えの大男だったのに、姿を現したら大抵フツーの人だし、なんなのよもう!
『孟子 蘭よ! 奴らの言う事は偽りではない……これからは ”伝説のゴルフ魔具” を巡る戦いへと突入するのだ!』
イーカラハが相変わらず腕組みしたまま、太い声でそう言い放つ。
というか今まで見てきたゴルフ魔具だって、どれもこれも伝説級のトンデモアイテムだったと思うんだけど。
「出でよ! 伝説の八聖剣ッ!!」
九神将の真ん中にいる人がそう叫んで挙手した瞬間、彼らの黄金の月面車から光の矢が飛び出し、鋭い弧を描いて私との中間地点にドドドドドッ! と着弾し、砂煙が巻き起こる――
煙が晴れた時、そこには7本のゴルフクラブが、地面に突き刺さっていた。
「これぞ究極のゴルフ魔具、伝説の八聖剣なりッ!」
一本一本がそれぞれに怪しい光を放つゴルフクラブ。そのどれもがメーカーの銘などもなく、デザインも見た事がないものばかりだ。でも……
「ひーふーみー……すいませーん。7本しか無いんですけどー」
『残りの一本はこれである!』
イーカラハの言葉に思わず振り向くと、私のバッグの中に入っている ”平常のパター” が、まるでホタルのように緑色の光を放っていた。ということは、このパターも八聖剣とやらの一本?
「我ら五人こそが、その八聖剣の正統な継承者なのだッ!!」
「貴様の持つパター、我らが奪って見せようぞ!」
「ククク……貴様はそのパターが無ければ月面で生きては行けぬ、覚悟するがよい」
なんかとんでもない事言い出したんですけどこの人たち。
『それではッ! 八聖剣正当継承者決戦、五番勝負を開始するッ! ”反呉竜府九神将” 五人目の刺客、出ませいッ!!!』
イーカラハが宣言したと同時、刺さっている八聖剣の内の2本が地を離れて浮き上がり、同時に発していたその光をさらにカァッ! と強める。
「天と地のアイアンか……ならば俺の出番だ!」
九神将の一人がばさっ! とマントをはぎ取り、高々と飛び上がってその2本のアイアンの前に着地する。それを両手に取った人の姿を見て……私は、仰天した。
「ゲッゲッゲッ、ワレハゴブリン族ノゴルフマスター、”ゴルフリン” デアル」
「って、とうとう人外っ!?」
2本のアイアンをまるで凶器のように掲げて笑うのは、子供ぐらいの背格好に緑色の肌、尖った耳にしわがれた顔、ゲームとかでよくいるザコ敵のゴブリンそのものだった!
「ゲッゲッゲッ、サスガニ、オドロイタヨウダナ」
ただでさえ邪悪な顔をさらに歪めて笑うゴブリン。
「あ、うん。相変わらずシルエットと実際の身長が全く合って無いのには驚いたわね」
「ソッチカヨ!」
「というかさっきまで普通にしゃべって無かった? なんで正体を現したらモンスターっぽいガラガラ声になってんのよ」
「エ……演出ダ、空気読メヨ!!」
なんか必死だなぁ……ゴブリンって物騒なモンスターのイメージがあるけど、どこかお間抜けな感じがしてて、わりと憎めないタイプかも。
『それでは、五番勝負の舞台の登場である、刮目せよッ!』
イーカラハがレーキを振るうと、月面にまた新たなゴルフコースが出現した。
「……海岸線の、しかも崖上コースっ!」
月面に海まで出現させて現れたのは、強風吹き荒れる海沿いの崖コースだ。少しコースを外れれば崖下に真っ逆さまで、海風が右に左に荒れ狂って、ピンの旗も不規則に揺らいでいる、とにかくまともにショットできそうにもない、酷いウィンドコンディションのコース。
「ゲッゲッゲッ、コノ ”天ノ9番アイアン” ト ”地ノ4番アイアン” ニフサワシイコースダナ」
山姥の包丁のように、2本のアイアンをギャリンギャリンとこすり合わせながらそう言って笑うゴブリン、確かゴルフリンさんだったかな?
『それではっ! 八聖剣を賭けた戦い、開幕であるッ!!』
イーカラハの宣言に応えて、ザンッ! と足踏みの音を立てて対峙する私とゴルフリン。負けたらこのパターを奪われて窒息死しちゃうんだから、絶対に負けられ……
「ちょ、ちょいまち! なんで私こんな所で命がけのゴルフしなきゃなんないのおぉっ!!!」
『燃えるからである!』
「理由になっとらんわあぁぁぁぁっ! 帰らせてもらいます……あ!」
そう吐き捨ててきびすを返したその時、改めて出口がなかった事を思い出した。
「ちょっと、帰してくださいよ!」
『それで……良いのか?』
「あったり前ですっ!」
「ナンダ、ゴルフニ命ヲカケルキガナイノカ……臆病者メ」
ゴルフリンがニヤニヤしながら私を挑発するけど、もちろん乗る気はない。なにが悲しゅうてこんなトコで命を懸けたゴルフやらなきゃあかんのよ!
『ならばそのゴルフ魔具 ”平常のパター” を手に取り念じるがよい。さすれば元の月の光ゴルフ場の跡地へと帰還できるであろう』
あ……と気を重くする。そうだ、あのゴルフ場に上機嫌でやってきた私だけど、閉鎖しちゃってたんだ。
つい先日に終了したとは思えないほどに寂れたあのクラブハウスで、私はこのイーカラハに出会い、そして……月まで来たんだった。
もちろん命がけの勝負なんかする気はない。でも、このまま帰って……またあの寂れたクラブハウスに帰るのは、なんかすごく空しくなる。
まるでこのままゴルファーとして芽が出ないまま終わっていく自分と、あのまま取り壊されるゴルフ場の姿が、どこか心で重なってしまう気がして……。
と、私のバッグに収まっている ”平常のパター” が、スゥッと浮かんで私の前まで飛んで来た。そう、これを手に取って念じれば私は、あの場所に――
ぱしっ、とそれを手に取った時……私の脳裏に、あのさびれたクラブハウスが鮮明に浮かんだ。
まるで取り壊しさえされずに放置され、ホコリと苔と、腐った天井や壁を残して朽ち果てていくだけの、廃墟。
そしてその傍らに置かれた、ひとりの人物の銅像。左半身が朽ち落ちて、無残に壊れた……ゴルフの妖精、イーカラハの像――
(そんな……私がこのまま帰ったら、ここは……彼は、こう、なるの?)
――そうだよ。でも――
「え? 誰?」
――もし君がこの勝負に勝って、将来プロになって、ゴルフ界に旋風を巻き起こせれば――
手に握ったパターから伝わる声。その声に意識を向けた時、私の頭に浮かぶ景色が一変した!
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「え、え? ええっ、これって……」
大勢の人で賑わうクラブハウス。みんな熱心にゴルフについて語り、これからのラウンドに胸を躍らせ、今日のスコアを振り返って家路に向かう。
――誰もがゴルフを楽しみ、愛し、上達を願う。そんな ”月の光ゴルフ場” の未来――
その中に、あの日喜子ちゃんも、伊集院さんも、湊山さんも、名鹿ちゃんもいる。そして……
その中央に陳在する、一体の銅像。
相変わらず不愛想で、腕組みしたまま仁王立ちする大男の姿――そして足元の台座に記された文字。
”ゴルフの妖精イーカラハ”
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脳内に浮かぶビジョンが消え、私は再び月面の、そこに現れた海岸線コースの上に、立っていた。
「……いいわ、やりましょう! 私の、そしてゴルフの未来を賭けて!」




