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第四の刺客! その名は風谷 名鹿!!

「そう、ゴルフなどという環境破壊の根源は、この環境保護団体 ”森の守り人” 会員、風谷 名鹿(かぜたに なじか)が必ず撲滅して見せますッ!」

 びしっ! と指差しのポーズを決めてそう宣言する名鹿ちゃん。小柄ながらしっかりした体幹といい、肩に乗せてるリスといい、なんかアニメキャラみたいにサマになってはいるんだけど……絶対めんどくさい人だコレ。


「えーっと、それで名鹿ちゃんだったわよね。勝負するんでしょ? ゴルフで」

 呆れ汗を流して首を傾げつつ、クラブを掲げてそう聞いてみる。さっきの土木作業員、湊山さんとの勝負はいささか変則的だったけど、環境保護団体の人と私じゃ勝負の方式が見えてこないんだけど。


「わ、私がゴルフなんかするわけないじゃない! あんなのは森を壊し生き物を追い立てるだけの、お金持ちの傲慢が生んだ邪悪なお遊びよッ!!」

 あー、やっぱめんどくさい娘だなこりゃ。


 土地の利用法を巡って反対運動をする、いわゆるプロ市民的な活動はゴルフ関係者にとって厄介な存在だ。なにせゴルフ場は他のどんなスポーツよりも広大な土地を必要とする為、どーしてもこういった人たちに絡まれやすい。

 よくゴルフが政治家の接待や大企業の談合なんかに使われるといった悪評も聞かれるが、裏を返せばこういった反対派の人たちをお金で黙らせるだけの財力がある人がゴルフに関わる必要があるからなんだ。鶏が先か卵が先か、ってヤツよねー。


 でも、本当に厄介なのはこの名鹿ちゃんのような、損得関係なしに上からの主義主張を信じ込まされているタイプの子供だ。自分のやってる事が正義だと信じて疑わず、こちらの主張になんか耳を貸そうともしないので説得するのも難儀を極める。


 ある意味宗教の信者に似たものがあるなぁ。


「やらないんなら帰ってくれないかな。私はゴルフが上手くなる為にここにいるの」

「ゴルフは悪です! それを極めようとするあなたは悪人ですねっ!」

「どーしてそーなる!」


 あー、やっぱとんでもなく面倒な子だ。善悪の二極論でしか物事が見えてないし、保護者もちょっとはちゃんと教育してよ……って、どうせ親も同じタイプなんでしょうけどね。


 やれやれと首を振ってイーカラハの方に目をやる。これ、勝負にならないんじゃないかなぁ、と。

『プロゴルファーを目指すなら、ゴルフの素晴らしさを示す事こそが使命なり!』

 うわ、こっちも無茶言うなぁ。まぁ……確かにちょっとやってみて楽しさが分かれば見解も変わるんだろうけど。


「じゃ、名鹿ちゃん。とりあえず一回だけやってみて、それでもしつまらなかったらゴルフ=(イコール)悪でいいからさ」

「だから私はゴルフなんてやりません!」

「やった事も無いのに悪者扱い? ()()()()()()()()()()わよ」


「森が……私にささやいてるんです、ゴルフは母なる森を破壊するって!」

 あー、森の声まで聞こえてるのか……こりゃ重症だわ。というかここ月面なんですけど。


「じゃあさ、河川敷ゴルフ場は?」

「父なる川の流れを汚す汚物ですっ!」

 森が母で川が父なのかこの娘は……地球さーん、この子引き取ってくれません?


「海岸線ゴルフ場……」

「偉大なる海原を汚す根源ですっ!」

「シティーゴルフ場……」

「街中も元々は大自然ですっ!」

「ゴルフの源流、羊飼い牧場の原始ゴルフ……」

「……ふぇ?」


 よっしや! ようやく反応が違って来た。

 ゴルフって、もともと羊飼いたちが仕事の合間に楽しんだものらしい。広々とした牧場で、羊を追いつつのびのびとやる遊びならこの子は反応するかも。なんか動物好きそうだし。


「そ、それなら社会経験として、一度くらいなら……」

「よっし! イーカラハ、お願い!」

『心得た! 出でよ、始祖ゴルフ場ッ!!』

 応えてイーカラハがレーキ(トンボ)を振るうと、月面に広大な緑の平原が現れた。モコモコの羊が群れを成し、のどかな風と陽だまりが牧歌的な空気を醸し出している。


 だけど……これはっ……うわぁ……。


「……やっぱゴルフなんて、ロクなもんじゃないです!」

「あー、よく昔の人、この環境でゴルフやってたわよねぇ……」

 リアルなことに、そこかしこに動物のフンが散らばっているのだ。多分羊や牧羊犬のだろうけど、いかんせん数が多いし中にはフンコロガシがたかっているのまである……さすがにここでボール遊びをする気にはならないなぁ。


「ってかイーカラハ! ウンコまで再現しなくていーから!」

『生き物はフンをするのが自然である、名ドクターの白雲氏もそうおっしゃっておる!!』

「ここ月面でしょーが、そのくらい融通を利かせんかい!」

『風谷嬢も、リスを従えておる以上それは承知のはず。フンは大地の栄養となり、それが草木を、やがては森をも育むのである』

「このリスはヌイグルミですっ!」


『「偽物かいいいっ!!」』

 どーりでさっきから肩に張り付いて動かなかったわけだ、良く出来てるなぁ。


 結局、名鹿ちゃんはそっぽを向いたまま、ゴルフをしようとはしなかった。まぁ無理も無いんだけど。


「と、ゆーわけでゴルフはやっぱ悪です、ハイ結論!」

 背景が元の月面に戻った瞬間、勝ち誇ったかのように威張る名鹿ちゃん。この勝負が彼女にゴルフの楽しさを教えるのが勝利条件だとしたら、もう打つ手は無いわよねぇ。

 親か誰かに ”ゴルフ=悪” の意識を刷り込まれ、それでいて自然にあまり触れてない娘じゃ、ゴルフの楽しさを伝えるなんてできっこない。ゴルフは自然との会話を楽しむ物でもあるんだから。


 ん? と、いうことは……。


『ではこの勝負、 ”アンチ呉竜府ゴルフ九神将” 、風谷名鹿の勝……』

「ちょいまちイーカラハ!」

 決着宣言をしようとしたイーカラハを慌てて止める。名鹿ちゃんは「往生際が悪いですよ」と冷めた目で見てるけど……まだ可能性はあるわよ。


 だってさっき羊飼いゴルフを提案した時、ちょっと興味を見せたじゃないの。


(ね、イーカラハ……コレはどう?)

『無論、可能である』

 私の提案をイーカラハに耳打ちすると、余裕だと言わんばかりに頷いて再びレーキを掲げる。

「無駄ですよ、自然を破壊するゴルフなんかするつもりはありません」

 うんうん。じゃ、破壊しないゴルフならいいのね。


『出でよ、 ”ゴルフシュミレーター!”』

 月面に現れたのは、2台のスクリーンを持つゴルフプロジェクターと、VRゴーグルを備えた室内練習シュミレーターだ。

 皮肉にもと言うか、現代科学を駆使したこれなら環境破壊をする事も無いし、逆に自然のリアル(糞とか)な実害に悩まされる事も無い、これぞ逆転の発想!


「ね、名鹿ちゃん、これならやってみたいでしょ?」

「……う、うううう、んっ」

 流石に現代っ子、VRゴーグルまで備えているゲームには興味津々のようだ。こくこく頷いて近づいて来ると、備え付けのクラブを手に取りつつ、 おそるおそるゴーグルを被る。


「うわあぁぁぁぁ……すごい、凄いですっ! まるでゲーム〇ンターあ〇しの世界です!!」

 わかるわかる。今のゲーム技術って本当に凄いよね。なんせいま彼女の視界に入っているのは、360度全てのビューでのゴルフ場の景色なんだから。

 その場でぐるぐる回っては頬を染めて感動している姿、ほほえましくて大変よろしい。

 ……年齢不相応のセリフは聞かなかった事にしておこう。


 私もゴーグルを装着し、彼女と同じVR世界にダイブする。うん、さっすが最新鋭のシュミレーター、良く出来てるわコレ。


「じゃ、始めましょっか」

「あ、はいっ♪」


 こうして私たちは思う存分ゴルフを楽しんだ。でもイーカラハに頼んで彼女だけベリーイージーモードにしてたお陰で、私はスコアで負けちゃったんだけどね。


『改めてこの勝負、”アンチ呉竜府ゴルフ九神将”、風谷名鹿の勝利!』

 あ、ゴルフで負けても私の敗北になるんだ……ま、いっか。


「是非もう一回、いつかやりましょう!」

 そう言ってスゥッ、と消えていく名鹿ちゃん。その瞳にはもう活動家の暗い影は無く、年相応のキラキラした目になっていた。


 よかったね、これからの人生も頑張って!

 


  ◇        ◇        ◇



 昭和〇〇年、山陰某所にあるゴルフ場建設予定地にて。


 機動隊員が一列に並んでバリケードを築くその向かいで、大勢の活動家がプラカードや横断幕を掲げて声を荒げて行進を始める。

「ゴルフ場建設、絶対反対ーっ!」

「「ぜったい、はんたぁーいっ!!」」

 人の波となった群衆が、ザッザッザッと足を踏み鳴らして機動隊員に迫る。


 と、そのわき道に一台の黒塗りの高級車が停車する。その後部座席にいる恰幅のいい男が、隣にいる少女のアゴをくいっ、としゃくって、邪悪な笑みを浮かべて告げる。

「さぁお姫様、みんなを元気付けて来なさい」

「……はい」


 感情の無い目で頷いた少女は、車のドアを開けて地面に降り立つと、そのまま機動隊とデモ群の間にすたすたと割って入っていく。


「おお、お姫様の登場だー!」

「風谷様ばんざい、我らの姫君ばんざーいっ!」


 風谷 名鹿(かぜたに なしか)。各地の抗議デモで何度も群集の先頭に立ち、その活動を成功に導いてきた、プロ市民連中に()()()と呼ばれる存在。

 世間と言うのは王子様やお姫様という存在にはどうしても弱いものだ。彼女はそんな儚さを悪用され、今日もこうして自らの意思とは無関係に、デモ行進の先頭に立たされようとしていた。


 だが、今日の彼女は違っていた。ここに来るまでの間、車の中で見た、ある夢のせいで――



(デモ隊の中にはダイナマイトを持ってる人までいる……機動隊の皆さんも危機感が凄いし、なんとしても止めなきゃ!)

 車から降りた時とは逆のらんらんと輝くその目で、彼女は立ちはだかる。()()()()()()()()


「え……姫様? どうして私たちに通せんぼを?」

「どうかなさったんですかい? ゴルフ場建設予定地はあっちですよ」


 大勢の行進が、その前で両手を広げて立つ少女によって……止まった。


 そして彼女は、自分と、デモ隊の彼らと、そして自分を操っていた黒幕の運命を変える――


 にっこり笑って発した、()()()()で。

「みなさん、食わず嫌いは良くないですよ」



 それは今より40年の後、世界に知られるVRシミュレーション制作会社となる大企業 ”ヴェルメーユ” の社長、風谷名鹿の、記念すべき第一歩。



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