第二の刺客、その名は伊集院 昴!
「日喜子、ちゃん……消え、た?」
ついさっきまで一緒にゴルフを楽しんでた女の子、森 日喜子ちゃんが今、まるで幻のようにその姿を消してしまった。
彼女の為にあつらえたという、このコースと共に。
『案ずることはない、あの娘はつかの間のお主との ”縁” を得て、日常へと戻って行ったのだ』
「私との、縁?」
『左様。例え二度と会えなくとも、その縁がお互いを繋ぐであろう。名ゴルファーに憧れた少年が、クラブを手にするように、な』
感慨深く語るイーカラハ。彼が言うにはあの九神将はその全員が、過去か未来で私との縁を持っている存在なのだとか……あんな怪しげな連中に知り合いはいないんですけど。
『では、 ”反呉竜府九神将” 第二の刺客、出ませいッ!!』
イーカラハの宣言に応えて、また一人の大男(シルエット時)が、ばさっ! とフードとマントを脱ぎ捨てつつ、やたらカッコつけたポーズで月面に降り立つ。
「フッハハハハ、僕が出たからにはもう勝利は約束されたようなものだね」
……現れたのは、なんか昭和のマンガに出て来そうな、時代錯誤感アリアリの美男子だった。
寝癖がかった金髪をたなびかせ、ハイライト何個あるのよとツッコミたくなるキラキラ目。鋭く尖ったアゴに、逆三角形の笑い口からのぞくキラリと光る八重歯。やたらビーズをキラキラさせた紺色のラメ服にぴっちぴちの白ズボンにロングブーツ……
なんというかゴルフクラブより、咥えバラとフェンシングの剣とかが似合いそうなヒトだなぁ。
「僕の名は伊集院 昴! フッ、森嬢は僕たちの中でも一番の小物。僕が出て来たからには残念だけど君に勝ち目は無いよ、何しろゴルフは貴族のたしなみ、君達のような庶民の出る幕ではないのだよ、フッハハハハハハハハ」
うわぁ……なんかものすごーくめんどくさそうなヒトが出て来たなぁ。名前からして露骨にそのタイプだし。
「ちなみに僕のクラブは、かのセレス〇ィアルにオーダーメイドした特注品だよ。見たまえ、この美しい輝きとフォルムを!」
「うそ! マジで!?」
彼が取り出したのは紛うことなき、あの超高級品メーカーのクラ……ブ!?
「って、うわあぁぁぁ」
の、ヘッドやらシャフトやらグリップやらに、やたらキラキラした宝石やら装飾やらが埋め込まれてるんですけど……台無しだあぁ。
「これだけのクラブを使うこの僕に相応しいコースを期待したいねぇ」
歯をキラーンと光らせてイーカラハにそう目配せする。
『委細承知ッ!』
応えてイーカラハが背中から件のゴルフ魔具 ”設計のレーキ” をずずずっ、と取り出すと、それを目の前で両手で握りしめ、『ぬぬぬぬぬぅん!』と気合を入れると……
『出でよ、世界一のコースッ!』
ずん! とレーキを地面に突き立てた。
世界が白い光に包まれ……そしてそれが収まった時、私たちは月面にあるゴルフコースの上に立っていた。
「……うそ、ここ、って、まさか!?」
目を丸くしてそうこぼす。そう、この光景は私なんかじゃ絶対に見られない、TVの画面の中だけのコースだ。
――オーガスタ――
世界四大大会の一つ、マスターズトーナメントが行われる、アメリカにある世界有数の名コース。その1番ホール、通称 ”ティー・オリーブ” が、まさに目の前に広がっていた。
「ふふん、まぁ妥当な所だねぇ、僕がプレイするならこの程度は用意して貰わないとねぇ」
うぁ……オーガスタを前にしてそれ言うかな、本気で何様よこのヒト。
でもまぁ、夢に見たこのコースでゴルフ出来るなんて思わぬサプライズだ。ここはひとつ満喫させてもらうとしましょうか。
「では僕の華麗なショットを見て、そのハートを射止めてあげましょうか、庶民のお嬢さん」
って、オナー決めもせずにのこのこティーグラウンドに歩いて行った伊集院が、これまた金ピカのティーを差してその上にボールをセットする。よかった、さすがにボールだけは普通だ……たぶん。
「それでは、アン・ドゥ・トロゥッ!」
ぶぅんっ!
豪快に空振りした。私もイーカラハも、残りの九神将も全員がずっこける。
「フッハハハハ、今のは素振りだよ、決まってるじゃあないか」
いや、完全にアドレスに入ってましたよねぇ。
「では本番、アン・ドウ・トロァ!」
ガチン……ヒュウーン、ガサガサッ
今度はどシャンクの挙句、勢いよくOBの森へと突っ込んでいったんですけど。うーんさすが低重力かつ真空の月面コース、ミスショットでもよく飛んで行くなぁ。
「HAHAHA、今のはシャレだよ、ジョークだよ。では改めてファーストショットを……」
「オーガスタでマリガン(あさイチ打ち直しOKの初心者ルール)ですかっ!!」
さっきの空振りといい、やってて恥ずかしくならないんだろうか。この世界一のコースで。
「では今度こそ、アン・ドゥ……」
今度は何やるのよ、とジト目で見る私たち。その時! 振り上げた彼のクラブが、まるで閃光のように眩しい光を発し、私の視界を奪い去った――
「な、なに……なんなの?」
いきなりの目くらましを食らって視界を奪われ、ようやく目が慣れて来た時に見たものは……
「やぁ、もう僕は打ち終わったよ。次は君の番さフッフフフ」
なんかコースでテーブルセット広げて優雅に紅茶のんでいるんですけど……というかすぐ側でティーポット持ってる執事みたいな人はどっから沸いたの? なんかその人、大汗かいて息切らしてるし。
そもそもオーガスタのコース上で飲食すんなよあんたたち……。
『ぬぅっ! 今のは貴族ゴルフ奥義! ”困ッタ時ノ執事代打チ”!! まさか継承する者がおったとはッ!!!』
「知ってるのかイーカラハ……ってそれズルじゃないのおぉぉぉぉぉっ!」
ああ、いつもの3馬鹿がずいぶん遠い日の、マシな部類に思えてきたなぁ……。




