ゴルフ魔具の塔、そして最終ホール
富士山頂の火口、その真ん中からそそり立つ巨大な塔に向かう吊り橋を渡りつつ、瀧は思わず感嘆の息を漏らす。
「富士山のてっぺんに……こんな塔が存在したなんて」
無理もない事だ。その円柱状の塔は直径が根元で100m、上に行くほど細くなっているとはいえ頂点でも50mはありそうだ、高さは優に500mにも達するだろう。
そしてその頂上付近には一辺20mにも及ぶ旗がぶわっさぶわっさとなびいており、中央には”8”の文字。まさにこの富士山火口をカップとする八番洞、そのピンの役割を果たしている。
その塔自体はレンガかブロックの様な壁組にはなっているが、全体が黄金色に発光しており、夜の闇に荘厳な輝きを放っていた。
橋を渡り切り、塔のたもとまで達した時、イーカラハが瀧と紫炎に向き直り、塔を手でかざして宣言する。
『これぞ ”ゴルフ魔具の塔” なり!』
「え……ゴルフ魔具って、最初に言ってた景品の事か?」
『左様。最初に目録で御覧に入れたのはごく一部にすぎぬ。この塔の中には値段もつかぬほどのビンテージ品や魔法を宿したゴルフ道具、超常の力を得られるアイテムなどが山と揃っておる』
「……まじか」
確かにこの荘厳な塔なら、中にはお宝がうなっていそうではある。
『だが塔内に入れるのは、最終ホールをクリアした者のみである』
「あー、確か言ってたな。誰もクリアできずにギブアップしたとかなんとか」
このコースに挑戦するために与えられた ”命の球” 。最終ホールをクリアした時、その残数に応じてより価値のある魔具とやらと交換が可能だそうだが……それはまだ誰も成し得ていないらしい。
『では最終洞へ案内する、ついて参れ』
そう言って塔の外にある階段を登って行くイーカラハ。瀧と紫炎もそれに続いて、塔の周りをぐるぐる回る螺旋階段を登って行く。
そしてその途中の壁に、石組みではなくガラス張りの部分があり、塔の内部が覗けるようになっていた。
「す……すっげー!」
ガラスに張り付いて思わず息を吐く瀧。塔の一階の内部はまさに超高級ゴルフショップといった様相で、彼には手も届かないような超一流ブランドのクラブや、マスターズにでも出るのかと言うくらいの立派なウェアがずらり並んでいる。
壁には往年の名ゴルファーが使用した名器が展示され、展示テーブルの上にはマスターズや全英、全米オープンの観客招待状のプラチナチケットが山と積まれていた。
『この程度なら全てボール一個と引き換え出来るぞ』
「ま……マジかぁ!?」
イーカラハの解説にごくりと唾を飲み込む瀧。多分この機会を逃せば自分には一生縁がないような夢の商品の数々。
彼の持ち球はあと3個。もし最終ホールで2個ロストしても、ここの品のどれかが自分の物になると思うと、思わず胸が躍る。
塔の中を眺めながら階段を登って行く。2階以降になるともはや現実味の無い商品、もとい、まさに ”魔具” の名が相応しいものが並んでいる。
風の流れが見えるバイザー付き帽子、正しいショット姿勢をトレースしてくれるゴルフウェア、握って念じれば正しい方向と距離を飛ばしてくれるアイアン、そしてどんな打ち方をしても、決して曲がる事無く直進していくドライバー。
何より恐ろしいのは、普通人である瀧がその魔具を見ただけで、その効果を知る事が出来るという事だ。商品の説明書きなどどこにもないのに、である。
「なんかもう、現実味が無ぇな……そもそも富士山にこんな塔なんてあるかよ」
『我がコースが解放されたときのみ、このゴルフ魔具の塔は顕現する、普段は何者にも見えず、決して知られることはない』
普段なら夢オチにしか思えない光景ではある。しかし今現実のこの黄金の塔を登って、筋骨隆々なゴルフの妖精の話を聞き、架空生物であるドラゴンのキャディがドシンドシンと自分の後をついて来ているのだ……覚めるまでは認めざるを得ない。
頂上まであと少し。党内部の最上階に差し掛かり、そこから中を見ると、部屋の中央には一本のドライバーがおごそかな台座に突き刺さっていて、その周りを13本のフルセットがぐるぐると回転していた。なんかあれを抜ければ大魔王でもドライバーショットで倒せそうな雰囲気すらある。
『さ、到着である!』
ついに屋上に到達した一行。そこはまるで古代の城の砦のようにレンガ積みの壁でぐるり覆われていた。そしてその中央には、直径10mほどの半円ドームが鎮座している。
「これって……まさか、望遠鏡?」
『いかにも! これぞ覇振宇宙望遠鏡也。入るがよい』
導かれるまま中に入る瀧と紫炎。先導するイーカラハが『フン!』と気合を入れると内部全体がゴゴゴゴゴと動き出し、ドームが二つに割れてそこから望遠鏡のレンズがズズズズズ、と生えて来る。同時に瀧の前に反射鏡を備えた視覚レンズが自動でキュイーン、と動いて来て、止まった。
『見るがよい』
「あ、ああ……お! 月じゃん、今夜は満月か、キレーだなぁ」
上がってく時は塔内部の商品に釘付けだった瀧。だがこうして遠くの月を眺めて見ると、久しく見なかった満月の美しさに思わず口元が緩む。
『では、ズームするぞ、よく見るがよい』
そう言ってフンヌと気合を入れると、瀧の見ている映像が、月の中央付近へとぐんぐんズームアップされていく。
「す、すげぇ……この望遠鏡、クレーターまではっきりと、いや、もっとズームする!?」
月の山、クレーター、渓谷はもちろんのこと、そこの地形や川の割れ目の支流、やがては大きめの岩までハッキリと見えていく……
そして映像は、その場所に似つかわしくない、ひとつの機械を大写しにして停止した。
「な……なんだ、ありゃ」
『月面探査船、アポロ14号の着陸船である!』
そう、かつてアメリカが挑んだ月面探査アポロ計画。その着陸船が月面に残されている様までが、はっきりと見て取れた。
『ここからが注目である、よく見るがよい』
イーカラハの言葉と同時、映像が着陸船からスライドしていく。しばらく地面を大映しにして移動した後、ある白い粒を中心に止まり、そしてそれが、さらに拡大されていく。
それは、まぎれもなく、ゴルフボールであった。
「んなっ、え、え?? なんで……」
『アポロ14号のキャプテン、アラン・シェパード少将が月面でゴルフを行った、その時の球である』
「って、月まで行ってゴルフしたのかよ、すげぇなそいつ」
『うむ! 人類の偉大な第一打である』
第一歩じゃないんだな、とツッコミたいのを押さえつつ感心する瀧。確かにゴルフってもうずいぶん昔から愛され続けているスポーツなんだなぁ、と感慨に浸り……
『そして! 次なる第二打を刻むのが、我が伊井唐覇ゴルフコース、最終洞であーるッ!!!!』
突然大声を張り上げて猛るイーカラハに、瀧も紫炎も思わずびくっ、と身を縮める。
「……え、えーっと、つまり……どーゆーコト?」
話が見えない瀧に、イーカラハが大真面目な顔をして、それを告げる。
『あの月と言うカップに球を撃ち込む! これが最終ホール、 ”三十八万岐路乃夢大地”であーるッ!!!!』




