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頂きに向かって打て!

 富士山八合目、衛生センターにて。


 一時休憩を決め込んだ太田 瀧(おおた たき)が、ごっきゅごっきゅとスポーツドリンクをあおって、ふぅと一息つく。

「……残り6個、か」

 もうまばらになったカゴの中のゴルフボール、全て無くせば彼の命も尽きると言われている()()()を数えて、そう呟く。


 富士登山ゴルフの前半戦はまさに悪戦苦闘だった。スタート時はドラゴンの紫炎に打った球を追いかけて貰えば紛失ロストはあるまいと高をくくっていたが、いざ森の中に打ち出した球は、そもそも紫炎の巨体では狭い森へと分け入る事が困難だったのだ。

 やむなく紫炎が上空から〝このへん、このへん〟と指差して、下の瀧に探させるしかなかった。だが森の中のボールというのは木々や岩に跳ね返り、ビリヤードのようにあっちこっちに飛び回る、ゴルフ用語でいうキンコンカンという奴である。


 なのでボールの探索は困難を極め、スタート時に20個あったボールは、五合目の森を抜けるまでに8個まで減ってしまっていた。


 反面、開けた尾根に出ると状況は一変した。打ったボールに空を飛んで追いつける紫炎がいるのは大きなやはりアドバンテージだ。勢いを無くした球を落下前にすかさず抑え込んで、距離を損なうことなく次打につなげる事が出来ていた。

 また急斜面でのショットでは、紫炎が瀧の体を支えたり、あるいはもたれかけさせたりして安定させたのもあり、少々の傾斜からでも無理なくクラブを振る事が出来た。


 ただまぁ、瀧が二打ほどドシャンク(真横に飛ばしてしまう、かなり恥ずかしいミスショット)をしたせいで、八合目までにさらに2個ロストはしていたのだが。



『さぁ、いいから早ようせい、そろそろ日没であるぞ』

 イーカラハの指摘通り、太陽は西へと傾きつつある。このまま陽が沈めばプレイ続行は不可能になるだろう。

 よっしゃと答えて腰を上げる瀧、そしてキャディの紫炎。


「じゃあ紫炎、作戦通りに頼むぞ!」

〝フンフンフン〟

 いよいよ残り二合、そして胸突き八丁と言われる急勾配に差し掛かる。ここからはさすがにショット自体が困難を極めるだろう、なので二人は新たな打ち方を話し合って決めていた。


 岩肌に置かれた球に瀧がアドレスを取る。その後ろに紫炎がばっさばっさと飛んで来て、瀧の両肩を足でがしっ、と鷲掴みにする。

「じゃ、行くぜ!」

〝フンゴ!〟


 8番アイアンで打ち出された球が、放物線を描いて上昇していく。と同時に紫炎が瀧を吊り上げたまま、ぶわさっと羽ばたいて舞い上がり、そのまま打った球を追いかけて行く。


『成程な、ここからはずっと飛んで行くつもりか……考えたのう』

 腕組みしたまま感心するイーカラハ。なにしろここからはゴルフを抜きにしても登るのが危険な急坂だ。なので紫炎がずっと瀧を吊り上げたまま、上へ上へと打ち上げていく作戦のようだ。


 ボールに追いつき、瀧の体だけが地面に着くように高度を落とす紫炎。瀧は上から転がってくる球を、落とさないように体全体で、まるでサッカーのゴールキーパーのように受け止めにかかる。

 そして抑えた球を、再び打てそうな場所にセットしてから、半分宙に浮いたまま最後打ち出す!


 カッキーン

 ばっさばっさ

 コチーン

 ばっさばっさ


 それを繰り返しながら、九合目、九合五勺と駆け上がっていく一人と一匹、そしてゴルフボール。

 もうほとんど垂直に打ちあげているかのような状況で、さらに2個のボールを失いながらも……ついに山頂まで届く場所に橋頭保を築く(たまをセットする)に至った――


「これが、ラストだあぁぁぁぁっ!」

〝フンゴオォォォォーッ!〟

『頂に向かって、打ち放てぃ!!!!』


 ――カッツゥゥーン――


 天に向かって上る白球。それを追いかけて舞い上がるドラゴンと瀧、そして例によって腕組みしたままスゥッ、と登って来るゴルフの妖精イーカラハ。


 上昇気流に乗ったその球は、見事に山の頂を超え、そして……火口に向けて軌道のこうべを垂れて……


 このホールのカップである、富士山頂の火口に、吸い込まれていった。


「いよっしゃあぁぁぁぁ!!」

〝ゴルアァァァァーーッ〟

 瀧と紫炎が飛んだまま雄叫びを上げてガッツポーズをする。その横に浮かんでいるイーカラハがウム、と頷くと、右手をばっ! と上げて宣言する。


『太田瀧! 我が伊井唐覇イーカラハゴルフコース、八番(ホール)クリア。これにて見事、生還と成す!』


 ついに初心者の瀧が、この月の光ゴルフコースに隠された謎のコースを、見事突破して見せた。

 まだ見ぬ最終ホールは残ってはいるが、無事に命の球も残す事が出来たのだ。




「って、うわぁ……見事だなぁ、夕焼け」

 肩を掴まれて飛んだまま西を見た瀧が思わずため息と共に吐き出す。富士山頂から見た夕焼けは、足元の雲海を紅に染めて、この世のものとも思えない美しさを醸し出している。


 まるでその光景が、瀧のその後のゴルフ人生を祝福するかのように。



 そして陽が沈み、月が昇る。

 いよいよ最終ホールが開始される。




 その先に、悲しい運命を内包した、そのホールが――

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