/第七の洞、これぞ砂蛮(ワンワン)伝(ニャー)羅巣、也!\
ワンワンワンワン
ニャーニャーニャーニャー
「……で、どーすんだよコレ」
無数のわんこに集られて身動きが取れず、仕方なくしゃがみ込んで両手でわんこ共の頭をわしわししつつ、このホールの『天の声』を聴きそびれた太田 瀧が呆れ顔で、案内人のイーカラハに問う。
『うむむ……ワシも『裏』洞穴は初めてであったが……まさかこの有様とは』
頭の上に三毛猫を乗っけて、猫タワーよろしく全身を子猫によじ登られているイーカラハが、腕組みをしたまま難しい顔でそう嘆く。
彼曰く、このホールは本来『砂蛮那伝邪羅巣』という名称で、アフリカにあるスククザゴルフコースを模したホールになっているとか。
野生動物の宝庫であるクルーガー国立公園内にあるそのコースには、普通にライオンやヒョウ、ハイエナやワニなどの危険生物がうようよしていて、プレイするなら『肉食獣に襲われても文句は言いません』という書名にサインをさせられるという、まさに世界で一番危険なコースだ。
で、ここの7番ホール『砂蛮那伝邪羅巣』の表ホールもご多分に漏れず、どっから引っ張って来たのか、トラやライオン、ワニにアナコンダ、ヒグマにホッキョクグマ、狼やリカオンの群れなんかが放たれているとか。
が、3番ホールでドラゴンをキャディにした場合のみ、攻略が簡単になり過ぎるので、ここ裏ホールへと転送されるとの事。
まぁ確かにドラゴン紫炎の実力を持ってすれば、たかが熊やライオン程度ならいとも簡単に蹴散らして見せるだろう。指先から火炎呪文を発し、デコピンでゴルフボールのフルショットを目視もせずに叩き返し、ドライバーショットよりも速く飛び、大岩を軽々と担ぎ上げ、挙句生き埋めになっても涼しい顔で出て来るコイツに逆らえる猛獣などいるはずもない。
なのでこの可愛いわんこ&にゃんこで溢れる裏ホールに連れ込まれて、しかもなつかれてしまってロクにクラブが振れない状態である……動物は凶暴なだけがゴルフプレイの脅威ではない、という事らしい。
ちなみに頼みの綱のキャディ、ドラゴン紫炎は無数のにゃんこ&わんこに群がられて、恍惚の表情でお腹を見せてグルグルグルと悦に浸っている……このホールじゃ彼は使い物にならないようだ。
「ほーらほら、そろそろゴルフすっから、お前ら散った散った!」
埒が明かないと見た瀧が、クラブを大きくゆっくりと振って、わんこたちを遠ざけにかかる。が、それも遊びの一つと思ったのか、今度はクラブにじゃれついてくるイヌ共。
「あーもう! じゃあそれで遊んでろ。ほれ」
ポイッ、と投げ捨てた8番アイアンに群がる犬たち。その隙に9番を取り出して、ほんの50Y先にあるグリーンに打ち出す。
カッキーン――
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……
当然のように飛球に反応した犬たちが、一斉に大喜びでボールを追いかけ始める。
「ちょ、お前らクラブで遊べよおぉぉぉぉ!」
瀧の絶叫空しく、ボールはグリーンにONしてすぐに、犬たちの波に飲み込まれた。
やがてその中の一頭がボールを口に咥え、尻尾をフリフリしながら瀧の元へと戻って来る。
〝フンゴ、フゴフゴ♪〟
「お前が取ってどうすんじゃあぁぁぁぁぁぁ!!」
犬たちに交じってボールを追いかけ、いの一番に球を咥えて瀧の元に戻って来たキャディの紫炎に、すっぱあぁぁぁん! とツッコミを入れる瀧。
『キャディがプレイ中のボールに触れるのは1打罰であるな』
未だ全身猫まみれのイーカラハがそう嘆いたと同時、紫炎の咥えていた球がスゥッ、と消えていく。
「あああああ、また俺のライフが……」
◇ ◇ ◇
隅っこで反省のポーズを取っている紫炎を無視して、瀧はこの難ホールをどう攻略するかに頭を痛めていた。
(まぁ、蹴散らしてしまえば簡単なんだけどなぁ……)
見た所ここにいる犬は全部子犬で、怒鳴ったりクラブを振り回して脅したりすればもう寄っては来なくなるだろう。猫にしても同じで、キツく当たればとっとと逃げ出すとは思う……のだが。
にゃーにゃーにゃー
クーンクーンクーン
……
「出来るかあぁぁぁぁぁぁっ!!」
頭を抱えてのたうつ瀧。犬たちはあくまで無垢で、猫たちはふてぶてしくも寄り添って来る……これを蹴散らせる人間などいない。いればそいつは鬼であろう。
(うむ! それで良し。ゴルフは紳士のすぽぉつなればな!!)
苦悩する瀧を見て、猫まみれのイーカラハがぬぅんと満足そうに頷く。
そう、この7番裏ホールの真骨頂は、プレイヤーの人間性を図るための場所なのだ。寄り添ってくる犬や猫を傷つけず、かついかにしてホールアウトするかの柔軟性が求められる。
(……打てばボールに犬が集まる、そもそもアドレス取るだけで興味津々だからクラブが振れない、という事は紫炎の尻にぶち込んでアイデアを出してすらもらえない。恐るべし裏ホール……あっ!?)
思案する瀧にその時、思わぬアイデアがひらめいた。
「なぁイーカラハ。この球がロストするのは、ロストボールと罰則行為だけだったよな?」
『如何にも。OBやウォーターハザードであれば回収できれば失う事はない』
「OK、その言葉を忘れんなよ。おーい紫炎、あとでぶち込んでやるから手伝えー!」
その呼びかけに、汚名返上とばかりにフンフン興奮して走って来るドラゴン紫炎。
「じゃ、始めるぜ! そーりゃあぁぁぁ!」
掛け声とともに、残りボールの入ったカゴを大きく上に振り上げ、中にあった命の球を残らず上空にぶちまける!
当然球はティーグラウンドにバラバラと落下し、それを見たわんこたちが一斉に各ボールに集う。
「紫炎! お前の役目はボールの回収だ、打ちまくるから探すの頼むぞ」
〝フゴ?〟
25個もの球をぶちまけたせいで、集まるわんこたちにも過密に差が出る。瀧はその中でわんこが構っていないボールに向かってアドレスを取り……
「ティーショット、打ちます!」
カッツーン! と、グリーンの反対側へ向かって打ち放った。
もちろん犬たちの大多数はその球を追いかける。さらに犬の数が減った所で、わざとらしく嘆きつつアドレスを取り直す。
「あっれー? OBになっちゃったかもなー。じゃ、暫定球打ちまーす!」
今度も明らかにグリーンから見て明後日の方向に打ち出し、残っていた犬たちのほとんどがそれを追いかけて行った。
「あーあ、また変な所に飛んじまった。じゃ、さらに暫定球打ちまーす」
そう言ってまた別の球を明後日の方向に打ち込む瀧。とうとうティーグラウンドにわんこが居なくなった時点で、ドライバーを手にするとそれを天に掲げて宣言する。
「ワンちゃんたち! でっかいの行くぞ、取ってこーい……(暫定球打ちます)」
――カッツゥーン――
グリーンの逆方向にフルショットされた超弾道を、ほぼすべての犬たちが追いかけて行った。猫たちはそんな犬のはしゃぎっぷりにちょっと引き気味で、「何事?」といった感じで警戒して、瀧の周囲に寄ってこない。
(っしゃぁ! 狙い通り!!)
邪魔者を無事排し、改めて暫定球宣言をした後、今度こそグリーンに向けて何度目かのティーショットを放つ。
それは見事にグリーンを捕らえる。少しオーバー気味に転がって行くも、なんとかグリーンエッジに引っかかって止まった。
ちなみにグリーンには数匹の猫がたむろしていたりする。刈り込まれた芝が気持ちいいのか、丸くなって居眠りしてたり、お腹を見せてゴロゴロと背中を芝にこすり付けたりしている……猫好きに見せたら悶えるレベルだろう。
「よっしゃ、あとはパットのみ……おりゃ!」
絶妙のタッチで撃ち出されたロングパットが、見事にカップに吸い込まれて……
”うにゃあぁぁぁぁ”
グリーンにいた猫たちが、一斉にボールに襲いかかった。ちなみに脇で見ていたイーカラハにくっついていた猫たちもである。
カップイン直前で猫たちのパンチを食らい、グリーンからはじき出されるボール。
「だあぁぁぁぁぁ! 今度は猫かよぉ!」
『ネズミが穴に逃げ込むのを連想させてしまったようだな』
その解説に「あー……」と嘆いてがっくりと首を垂れる瀧。まぁ確かにカップに向かう球は、小動物が穴に逃げ込む様に似てなくもない。
やがてその球をかみかみして、獲物でも何でもないことを悟った猫たちが次々とそこから離れていく。
が、瀧がアドレスを取ると何匹かの猫が、獲物を狙うハンターよろしく身を伏せて構える……このまま打ってもさっきの二の舞だろう。
「それなら……おりゃあぁぁぁっ!」
瀧は意を決し、その球をグリーン際の池に向けて打ち放った。
”にゃあぁぁぁぁ……ニャッ!?”
突進した猫たちが水を恐れて急ブレーキをかけ、球は邪魔される事無く池の浅い所に落ちた。
「よっしゃ、狙い通り! はいはい次打ちますよ、水しぶき上がりますよー」
そう言ってクツを脱ぎ、ざぶざぶと水の中に入る瀧。そう、ウォーターハザードに入ったボールは打てるならそのまま打っても構わないのだ。当然派手に水しぶきを上げる事になるが、それがかえって猫除けになるというわけである。
バッシューン!
ビッチャアァーン!
どばっしゃあぁぁっ!
何度ものミスショットと共に、グリーンに水しぶきが降り注ぐ。そのせいもあってグリーン上にいた猫は全てが逃げていくか、またはイーカラハにしがみ付く事に相成った。
ちなみに球は3ショット目でようやく池を脱出、そこから1ショット2パットで、ようやく……
カッコーン!
『第七の洞穴、砂蛮那伝邪羅巣・裏! 見事脱出である!』
イーカラハの宣言により、ようやくこの難ホールもクリアと相成った。
まぁその後、瀧と紫炎はぶちまけたり四方八方に打ったり犬が咥えて行ったりした球の回収に追われることになるのであるが……。
――残りの球数、あと21個――
◇ ◇ ◇
「なぁイーカラハ。このホールの『表』って、誰かクリアしたのか? 猛獣のホールなんて怖すぎるんだけど」
『心配御無用。表の方はこのコース屈指の簡単洞穴故にな』
へ? と間抜けな顔で返す瀧。えーっと、猛獣がうろつくコースで……? と首を傾げる。
『ギャディであるゴブリンが、仲間を呼んでギャラリーを成すのでな。表の方は大勢に応援される重圧を試される洞穴である』
なるほど、と納得する瀧。確かに創作ファンタジーなどでは、ゴブリンは群れを成すと恐ろしい戦闘集団になるケースが多い。そんな彼らが群れを成してプレイヤーに付いてくれば、猛獣も警戒して襲っては来ないというワケか……。
(なんか損した気もするけど、まぁ犬猫に癒されたからなぁ。ま、いっか)




