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/第六の洞、これぞ怒羅魂素比律屠也!\

 洞窟から出ても、何故か空から聞こえて来る ”天の声のホール紹介”。

 ――怒羅魂素比律屠ドラコンスピリット――


 それを聞くまでも無く、プレイヤーの太田 瀧(おおた たき)はそのホールの光景に、ある種の絶望感を感じていた。

「よりによって……ドラコンかよ」

『いかにも!』


 そこは周囲を高い木々に囲まれた森の中だった。だが、そのホールの方向だけには木が切り開かれており、細く長い一本のフェアウェイがまっすぐに伸びている。

 そしてその途中にはテーショットの飛距離を示す看板が50Y刻みで設置されており、ゴルフの醍醐味であるドライバーショットの飛距離が一目瞭然になっていた。


〝グフフン?〟

「ドラ()ンじゃねーよ、ドラ()ンだ」

 自分を指差して首を傾げるドラゴンキャディの紫炎に、びしっとツッコミを入れる瀧。


 ”ドライビングコンテスト”、略してドラコン。


 ゴルフは何かを飛ばすスポーツにおいて、間違いなく一番の飛距離が出る競技である。それを競うのがこのドラコンというわけだ。


「っていうか、ドラコンなら相手がいるはずだろう?」

『ウム、わしがゴルフの妖精、イーカラハである! お相手いたそう』


 そう言ったイーカラハが天を仰ぎ、大口を開けて左手をその中に突っ込み、そこから大道芸のように、にゅぅ~っと一本のクラブを引っ張り出す!


「ひえぇぇぇ……気持ち悪いんだよ」

『これが我がドライバー、怒羅魂素比律屠ドラコンスピリットである!』

 ホールと同じ名のドライバーをズチャッと構え、『ぬぅん!』と気合を入れると、彼の目の前、空中に突然()()()()()()()()()()が幻のように現れ、ゆっくりと落下して地面に刺さって止まる。


 その構え(アドレス)の力強さと美しさは、まさにゴルフの妖精……というよりは剛の神のようなイメージすら感じさせる。

 瀧も紫炎も、その姿を見てごくりと喉を鳴らす……果たしてイーカラハの実力は!?


『いざ、参る!』


 ――ピュイン――

 ズガアァァァァァァァァァーーン!


 真空波でも発生させそうな風切り音と同時に、どう聞いても普通のショット音とはケタの違う衝撃波が、瀧と紫炎の鼓膜を、肌を、そして大地をも震わせた!

 あの筋肉質な巨体と、自在に宙を浮く得体のしれない能力を差し引いても、そのショットはまさに異次元のものであった……。


「ボ、ボールは……うひゃっ、ちょう弾丸ライナー(スティンガー)かよ!」


 ボールは地面からわずかに上を轟音を上げつつ真っすぐに突き進む。通過した後の地面の芝は風圧でまるで溝のように抉られ、まるで彗星の尾のような土ぼこりを巻き上げていく。

 と思ったら、200Yを過ぎた辺りで猛然と上昇を始めた。地面と平行から垂直へ軌跡を変え、どこまでも……どこまでも高く、高く、天に向かって上昇していく。


「ど、んだけ……だよ」

 まるで宇宙ロケットの発射を見るようなその一打は、雲を突き抜けて空に溶けて消え……再び目に映ったと思ったら、まるで隕石のように落下して、瞬時に地面に叩き付けられて派手な着弾音を立てる。


 ドオォォーン!


『我が飛距離……200Yなり!』


「だあぁぁぁぁっ!」

〝ヌフーッ!〟

 その言葉に思わずずっこける瀧と紫炎。


「あの上昇、完全に無駄だったんじゃねぇか!」

『フフフフフ、やむを得ぬ。我が力で撃ち出せば、どうしてもスピンがかかりすぎるでのう』


 そう、いっそあのまま上昇せずにまっすぐ飛び続けても、控えめに見て350Yは飛んでいただろう。仮に途中からの上昇ホップがきちんと斜め前方を向いていれば、それこそ500Y超えでもおかしくはなかった。

 が、200Yを過ぎた辺りで、バックスピンの空気抵抗が打ち出しの勢いを上回った時、そのまま完全に真上に向けてホップしてしまい、視界から消えるまで高々と舞い上がった挙句、そのまま真下に落下するという冗談のような一打に終わってしまった。


 だが、イーカラハは真面目な表情を崩さぬまま、心でこう唸っていた。

(太田瀧よ、今のお主の実力では()()()()は出せまい……自らの殻を破れるか!?)


「ん、んじゃ俺も行くぜ。あの球を超えればいいんだな?」

『超えられねばボール1個ロストとなる、超えた時点でクリアである!』

「げ! 200出せなければ1個ロストかよ……」


 冷や汗を流しながらボールとティ、それにドライバーを受け取る瀧。

 手渡した紫炎はそのまま余裕の表情で、際にてゴロンと横になり、鼻をほじりながらフンフンとくつろぎ始めた。


「……ま、いっか。行くぜ!」

 ガッチイィーン!


 フルスイングしたそれは打ち出しの瞬間から右方向に飛び、さらに大きな弧を描いて、森の中へと消えていった、覆わず天を仰いで嘆く瀧。

「うわちゃー、モロに振り遅れたか……」


 それを余裕で見ていたドラゴンの紫炎が、思わず目を見張って冷や汗を流す。明確に〝こりゃアカン〟との意思と共に。



「んじゃ二発目、今度こそ!」

 カッシュウゥゥゥーン


 今度はフェアウェイの左端の森をかすめる弾道……なのだが、そこからぐぐっ、と右に折れ曲がり、150Yを超えた所でフェアウェイ右端に落下し、そのまま森の中に転がって行った。


(やはりな……今までは至近距離であったが、長い距離を撃たせて見ればよく分かる。奴は間違いなく、()()()()()()()()を克服しておらぬ!)

 イーカラハが腕組みをしたまま、瀧のショットに心中で感想を漏らす。



 スライス。

 それはゴルフを始めた者のほぼすべてが患う恐るべし病。ドライバーでジャストミートされた球が、本人の意思とは関係なく右へ右へと流れていき、やがてOBへと消えていく恐怖のミスショット。


 幾多の初心者ゴルファーにクラブを置かせた、絶望の高い壁――

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