いざ、地上へ!
太田 瀧が崩れ行く洞窟を、ゴルフボールを打ちつつ出口に向かって駆けながら、涙目ながらに絶叫していた。
「なんでゴルフやってて、どっかの映画でピラミッドの罠にかかったような目にあってんだよおぉぉっ!!」
『言い得て妙であるな。このコースをすべて終えた後には、財宝に匹敵するゴルフ魔具が手に入るのだからのう』
「いらんわあぁぁぁぁっ! あとせめて同伴を美女とかにしてくれえぇぇぇっ!」
〝フンゴーフンゴー〟
同伴のゴルフ妖精(なおマッチョ大男)イーカラハ、キャディの紫炎(体長3mのドラゴン)とツッコミ漫才をしながら、人生最大の危機を迎えている瀧。
洞窟フェアウェイは時に右に左に、そして時には上り下りへと進路を変える。そんな中、ショットしたボールを追いかけ、時にはミスショットで足止めを食らい、時には割れ目に落ちてロストボールとなり、それでも打っては走り、打っては駆け抜けて、なんとか崩落して来る洞窟から逃れ続けていた……だが。
「げ! 池? しかも行き止まりって!?」
『地底湖である! 無論ボールが入れば一打罰となる』
なんと洞窟の幅一杯に広がる池に突き当たってしまった。幸いボールはその手前で止まっているが、ここから先の進む道がない!?
〝フンガー、フンガー〟
紫炎がばっさばっさと飛んで池を渡り、その先の突き当りの壁の上の方にある穴を示す。
「あ、あんなところに洞窟が……アレに通せってのかよ!」
『左様。ほれ崩落が迫っておる、いいから早ようせい』
相変わらずの無理ゲーだが、やらねば生き埋めになるだけだと意を決し、紫炎が投げてよこした7番アイアンを手にして、狙いを定めて振るう!
ドガッ!(チョロで池ポチャ)
カッツーン――コーン!(トップで向かいの岩壁に激突)
バシッ!(惜しい所で、上の入り口の際に当たって跳ね返る)
「や、やば……もう間に合わん!!」
順繰りに崩落を続ける天井はもう目の前にまで迫っていた。あと一打、打つ時間があるか、ないか……!?
「ええい、ラストチャンスだ、おらあぁぁぁぁぁっ!!」
ガチン! キンコンコンコーン……ドドドドド(シャンクして洞窟内を跳ね返りまくった挙句、後ろに飛んで崩落に飲まれる)
「うわぁぁぁぁ、終わったあぁぁぁぁっ!」
頭を抱えて絶叫する瀧の真上、天井から剥がれ落ちた大岩が今まさに瀧を飲み込もうとしていた――まさにその時!
ガッシイィィィッ!!
降ってきた大岩が、瀧の頭上で停止していた。
「お、お前……紫炎ッ!?」
〝グルルルルアァァァァ……〟
なんとドラゴンの紫炎が、瀧に覆いかぶさるようにして大岩を受け止め、必死の形相で踏ん張って耐えていた!
『紫炎の男気を無駄にするでない! ラストチャンスの追加であるぞ!!』
「わ……分かった、やってみせるぜ!」
覆いかぶさる紫炎の下のスペースで、瀧は人生最後になるかもしれないショットを放つ――
カッツーン・コン、コン、コン
「入ったあぁぁぁぁっ!」
見事40Y先の洞窟に吸い込まれていくボール。
『見事である』
〝フンゴーッ!!〟
同時に紫炎が咆哮を上げ、瀧の首根っこをひょいと咥え上げると、大岩を背中に乗せたままズシンズシンと歩き始め、前方の池へと向かう。
「うわわわわっ、もう崩落が追い抜いてる……紫炎、頑張れっ!」
〝ゴルルルルルィ〟
すでに天井の崩れは彼らを追い越し、行く先の洞窟まで埋まりそうな状態だ。それでも紫炎は瀧を咥えたまま、背中の大岩を傘代わりにして落石を受け止め、ついに池を渡り切ると……
〝フンゴルアァァァァッ!!〟
気合一閃、背中の大岩を上方に投げ飛ばした!
ドッゴオォォン! という激突音を響かせて、先に進む入り口のすぐ上にめり込んだ大岩がひさしの代わりをして、入り口が埋まるのを食い止めた!
〝フンゴ!〟
「うわぁあぁぁあぁっ!?」
ぽいっ! とその入り口に投げ飛ばされる瀧。彼のショットより遥かに見事な首スイングである。
「痛ててててーっ! くっそ、この先は……あ!」
瀧は見た。そのはるか先にある、確かな明るい、暖かな光を!
「見えた! 出口だあぁぁぁぁぁっ!!」
『ウム! 残り100Yである!』
クラブを握って出口を睨む。が、瀧は次の瞬間、後ろの洞窟に向き直って叫んだ!
「紫炎、出口が見えたッ! 早く来いいぃぃぃぃっ!」
だが、瀧の目に映ったのは、いままさに瓦礫に飲まれようとしている、ドラゴンの姿――
〝フフンッ〟
満足そうな目でそう笑った後、彼は砂塵と落盤の中に、姿を消した――
「うわあぁぁぁぁぁーっ!!」
地面に伏して絶叫する瀧の背後、イーカラハが仁王立ちしたまま、鬼の形相で怒鳴りつける。
『貴様がここで死ねば、紫炎の支援を無駄にすることになる、それで良いのか!!』
まるで雷に打たれたような叱責に、瀧ははた、と目を開け……涙を拭いて、ゆっくりと立ち上がった。
「ああ……お前に託されたこの7番アイアンで……俺の最高のひと振りを、見せてやるぜッ!!」
アドレスを取り、出口を一瞥して、意を決して振りかぶり……
カッツーン――
見事なトップショットが、真一文字に出口へと向かって航跡を引く!
『うむ、行けい!』
「うおぉぉぉぉらぁっ!」
イーカラハの言葉を待たずに瀧は走り出す。今度は足元が次々に陥没を始め、走る瀧のすぐ後ろにまで迫っている。少しでも足を止めればそのまま奈落に引き込まれるだろう。
だから瀧は走る。生きる為、自分を生かそうとしたあの紫炎のために!!
闇の世界を駆け抜け、光の中へ――
◇ ◇ ◇
「ハァッ、ハァッ、ハァッ……で、出たッ」
彼の目の前にはグリーンがあった。それを照らす太陽の光が、木々のせせらぎが、青い空と白い雲が、彼を温かく出迎えてくれた。
「ボ、ボール……は?」
洞窟から打ち出したはずの白球が見当たらない。あのボールをカップインさせない限り、このホールは終わらないのだ。
あの紫炎が己を犠牲にして繋いだ、このホールを終了させずにはおかれない!!
『あれなるを見よ』
「うわっ、い、いたのかよ」
いつの間にか隣にいたイーカラハが、グリーンの中央、ピンとカップを指す。
「え、まさか」と呟いてカップに歩み寄る瀧。果たしてボールは――
見事、その中に、あった。
『第五の洞穴、利有怠無当苦、これにて決着である!』
高らかに宣言するイーカラハ。ついにこの洞窟を、ゴルフの妖精が作り上げたホールの半分を、太田瀧は駆け抜けたのである――
ズズウゥゥゥーーン!!
「うわっ!?」
感慨に浸る間もなく、すさまじい地響きと共になんと、グリーンが下から吹き飛んだ!
飛んで来る土や芝生やピンから身を守りながら、瀧はその姿を目にする――
「あ、あはは……無事だったのか」
〝フン、フフン、フーン♪〟
地中から現れたのは、まぎれもなくヤツ、ドラゴン紫炎だった。ゴルフクラブと球の入ったカゴを手に、〝忘れものですよ〟とでも言わんばかりに笑顔を見せる。
「……なんだよ、余裕そうじゃねぇか」
目に涙を溜めながら、そのたくましい姿に安堵して、へなへなと座り込む瀧。
(ありがとな……お前は最高のキャディだよ)
――残りの球数、あと51個――




