/第五の洞、これぞ利有怠無当苦也!\
「……なんだ? 今回の天の声、よく聞き取れなかったなぁ」
ホールに進むたびに洞窟の天井から聞こえて来た ”ホールのタイトル” 。ここまではまさに見た目通りのトンデモホールの名を冠していたのだが、どうもこのホールの見た目に馴染む言葉面ではなかった。
『利有怠無当苦、今風に言うRTAというやつである。ここでコースのハーフであるINが終了する、後半はOUTの文字通り、洞窟の外でのプレイとなる!』
ゴルフの妖精イーカラハの語る朗報に、思わずプレイヤーである太田 滝の顔がほころぶ。
「ッ!? や、やっとこの洞窟出られんのかよ……っしゃあぁぁーっ!!」
歓喜する滝。思えばロストボールを追いかけて洞窟に足を踏み入れて以来、得体のしれんダンジョンゴルフを強いられ続けて来たのだ。
ようやくこの洞窟のトンデモゴルフを卒業し、太陽の下で少しはまともなゴルフが出来る、と歓喜に震える瀧。
『だが、生きて出られるかはお主次第である』
「な……物騒なコト言うよな」
持ち球はまだ60個もある。まさかこのホールで全部使い切るほど難しいホールなのか? と一歩引く瀧。
『否! このホールはティショットを打った瞬間から洞窟全体が崩れ出すのである! 故にスムーズかつスピーディに進行せんと、生き埋めが待っておるのである!』
……
「ちょっとまたんかいぃぃぃぃぃぃ!!!!」
『我が信条 ”いいから早ようせい” を、そなたがどこまで実践できるかがカギである!』
瀧の抗議に聞く耳持たず、腕組みしたまま得意顔でお約束の台詞を吐くイーカラハ。
「……やっとまともなホールかと思ったら、これだもんなぁ」
そう、この5番ホールだけは縦長の洞窟ながら、ティーグラウンドの向こうにちゃんとフェアウェイが続いており、上下左右に狭いながらも奥行きだけはすっと向こうまで続いていて、なんとかゴルフコースらしい体裁を保ってはいるのだ。
もっとも洞窟の先にあるはずのピンは暗くて見えないので、どれだけ先まであるかは想像もつかない。行く先に何があるかは打ってみなければ分からない……。
だが、それに躊躇してたら最悪、生き埋めになってしまう可能性もあるのだ。まさにイーカラハの言の通り、なにがあっても「いいから早ようせい」の精神で叩き続けるしかない。
「しゃぁねぇ、おい紫炎! 元気ぶち込んでやるから一気に駆け抜けるぞ!」
〝フォッ!?〟
瀧の思わぬヤル気に驚いたドラゴンキャディの紫炎が、ならばとフンフン興奮しながら尻を向ける。
そしてそこに、ドライバーの一撃を叩き込む瀧、その球をしっかりと尻の穴で受け止めて、歓喜の喘ぎ声を出す紫炎。
〝フミュオォォォォーーーン♡〟
「っしゃ行くぜ紫炎ッ!」
『……染まってきたのう』
うんうんと嬉しそうに頷くイーカラハの横で、瀧が球をティーにセットしてアドレスを取る。隣ではゴルフクラブを首から下げたドラゴンが、徒競走のスタートラインに立ったような前傾姿勢で身構える。
『それでは! 第五の洞穴、利有怠無当苦、始めませい!』
「うおおりゃぁぁぁぁっ!」
――パッキイィィィィーン――
ややスライス気味ながら、見事な超低空弾道ショットが打ち出される。そのティーショットが洞窟の闇に消えると同時、瀧がそこに向かって走り出し、紫炎が翼をぶわさっとはためかせて宙に舞うと、そのままばっさばっさと低い洞窟を飛び始めた。
同時に、洞窟全体がゴゴゴゴゴ、と揺れ始め、天井からガレキや砂がこぼれ落ち、地下水が各所でプシャーと吹き上がる!
夢中でボールの向かった先に走る瀧が、後から飛んで来て追いついた紫炎にその両肩を掴まれる!
「う、うわっ!? し、紫炎か?」
〝フングオォォォ―――〟
そのまま瀧を吊り上げて、さらに加速を増して飛ぶ紫炎。巨体にもかかわらずその速度はすさまじく、先を転がるボールにあっという間に追いつくほどのものであった。
「いいぞ紫炎! キャディに加えて乗用カートもいけるな!!」
〝フンフンフフンフーン♪〟
自慢げに鼻歌を歌う紫炎から降り立ち、足下のボールと、次に打つ打つ先を見据える瀧。紫炎もまたキャディらしく、片手の平を目の上にかざして、先の状況を読もうとする。
と、そこにイーカラハが飛んで来た……直立不動で腕組みしたまま、一切の手足を動かさず、まるで空中をスライドしてくるかのように!?
「どんな原理で飛んでるんだよ!」
『いいから早うせい。ほれ、どんどん崩落が追い付いて来るぞ』
「げっ!?」
イーカラハの言葉通り、既にティーグラウンドは完全に瓦礫に埋まっていた。ご丁寧に向こうからこっちに向かって、順繰りに天井が落っこちてきている。これはまさに早く進まないと生き埋めになりかねない!
〝フンガーフンガー、フン!〟
先を見切った紫炎が大ぶりなジェスチャーで、瀧に先の進路を説明する。どうやらこの先は左のドッグレッグ(曲がり)になっているらしい。
「よし! 5W!!」
〝フンガ!〟
阿吽の呼吸で5Wを受け取った瀧が、フェースをやや閉じ気味にして2打目を放つ!
――カシュウゥン――
「だあぁぁぁっ! 引っ掛けたあぁぁぁぁ!!」
出来もしないドローボールを打とうとして思いっきりミスショットしたその球は、洞窟の岩壁に直撃すると派手に跳ね返って、打った瀧たちの方に戻って来ると、そのまま逆方向へとすっ飛んで行った。
『飛距離マイナス50Yといった所か』
「ノンキに言ってんじゃねぇ……って、あああああボールが瓦礫に飲まれたあぁぁぁ!」
〝フンガフンガ!〟
ロストボールとみなした紫炎が、すかさず次のボールを同じ所にセットする。
「くっ、しょうがねぇな、ドライバーくれ、とにかく進むぞ!」
その間にも洞窟の報ら機はどんどんこっちに迫って来る! 一刻の猶予も無い状況で、とにかく距離を稼ぐクラブを選択して、そして振る!
ガスッ、コロコロ……
「ぎゃあぁぁぁ、チョロったあぁぁぁぁぁ!?」
ほんの20mほどポンポン転がって止まる球。
迫りくる崩落、パニックでミスを連発する瀧、そして失われていく持ち球。
果たして彼、太田滝は、この洞窟を無事に脱出できるのであろうか……。
――残りの球数、あと58個――




