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/第死の洞、これぞ比多誤羅素一致也!\

「……今度は比多誤羅素一致(ピタゴラス〇ッチ)かよ」


 四番洞穴(ほうる)の天の声を聴くまでも無く、そのレイアウトを見てプレイヤーの太田 滝(おおた たき)は現状を察し、思わずため息をつく。


 直線で50Yほどのそのホールは、ティーグラウンドの向こうが透明アクリルで仕切られており、そこからはドミノや車、バネやシーソー、ジャンプ台にトロッコ、ロープウェイや風車など、無数のオモチャがびっしりと並んでいる。


 そしてよく見ると、その一つ一つが連動しており、そこにゴルフボールを置くとその重みで動き出し、連鎖的に次々とボールを運び、最終的には50Y先のカップに向かう仕掛けのようだ。


 ただし……最初にボールを撃ち込むスタートの穴が、正面のアクリル板の上に5つあり、どれに入れるのが正解なのかは分からない。

 もし、間違った所に入れたら、中の仕掛けを消費しまくった挙句に、最終的にカップには入れられなくなるだろう。


「どれが正解か読め、ってコト、だよなぁ」

『ウム! 実際のゴルフでもパットのラインを読み切る能力が問われる、ここはそういった見切りを求められる洞穴(ほうる)である! さ、いいから早ようせい』

 ゴルフの妖精イーカラハ(なお筋肉ムキムキの大男)がもっともらしい理屈の後、毎度おなじみの催促をする。


 瀧が「ち、しゃあねぇなぁ」と嘆いて、仕掛けの一つ一つを吟味する。

「えーっと……あっちがこう倒れて、ンでむこうの役物に乗って、そこからシーソーで跳ね上がって……」


 ……


「わかるかあぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 頭から知恵熱の黒煙をブスブスと上げながら絶叫する瀧。なにせアクリルの向こうには百や二百できかないギミックがずらり並んでおり、はるか50Y先まで続くそれらを目と頭で追っていくなど不可能だ。


「あ、そうだ! おいキャディ、ドラゴン紫炎しえん! 出番だぞ」

 先ほどのホールでキャディにしたドラゴンの紫炎。なにしろ見えないボールを炎魔法で消し去ったり指で弾いたりと、生物としての格の違いを感じるものがあった。

 なら、その超常の頭脳で正解ルートを見抜けるかもしれな……


「っておいキャディ! 何くつろいでんだよ!!」

 当の紫炎はその辺に横倒しに寝っ転がって、鼻歌をフンフン歌いながらヒジを立て頭を支えつつ、もう一方の手の指で鼻をほじっている。


「仕事しろ仕事! ライン読むのはキャディの仕事だろーが!」

 怒鳴りつける瀧に対し、ゆっくりと身を起こすドラゴン紫炎。目をギラリと輝かせ、グルルルルと唸り声をあげて一歩踏み出す。その迫力に瀧も思わず(ヤベ、怒らせたか?)と一歩後ずさる。


 と、紫炎はくるりと後ろを見せると、尻尾を跳ね上げて自分の尻を、ポンポンと叩く……。

〝フン、フンッ〟


『キャディ代金フィーを催促しておるな』

「……要するに、また尻に球をぶち込め、と?」

 呆れ汗を流して返す瀧に、紫炎は〝フンガ・フンガ〟とこくこく頷いて、その尻をずいっ、と近づける。


(この変態ドラゴンが……ボール一個ロストが確実じゃねぇか!)

 そう、先程ケツの穴に打ち込んだ球も返っては来なかった。まぁ返って来たとしても触りたくも無いのだが。


「仕方ねぇ、行くぜ、ふんっ!」


 カッシィーン――ドボォッ!

 至近距離から放たれた瀧のドラショを、紫炎はきっちりと見切って見事に尻の穴でキャッチした……無駄に凄い能力である。


〝アッフアァァァァ~~ン♡〟


  ◇        ◇        ◇


〝フムフム、フーンム、フンム……〟

 エクスタシーを堪能した紫炎(ちな瀧の魂1/100と引き換え)が、今までとは打って変わって真剣なイケメン、もといイケドラゴンの表情で、アゴに手を当ててアクリルの向こうのピタゴラ装置を読み取っていく。


「しかしコイツ表情豊かだよな……あと感情も」

『何しろ今は文字通り()()()()()であるからのう、読みも冴えにさえわたってるハズである!』

「いや、賢者タイムってそう言う意味じゃ……もういいか」


 そんなこんなで、やがて紫炎が3つ目の穴を指して〝フン、フンッ!〟と合図する。

「よっしゃ、PWくれ!」

〝フンガー〟

 首に下げているゴルフバックからPWをつまみ上げ、そのまま瀧に渡す……なんというか、変な所で器用なドラゴンである。


 かくして瀧の二打目(一打目は紫炎の尻の穴)が放たれ、その白球が比多誤羅素一致(ピタゴラス〇ッチ)の中へと踊り込む。


 カコッ、コンコン……ゴロゴロゴロ、パイン!

 荷車に乗っかり、シーソーで弾かれ、ドミノが倒れた事で出来た道を転がり、滑車に乗ってスルスルと移動し……


 ゴトン!

 やがて球は”ハズレ”と書かれたタライに収まって、止まる。


 ――↑プワン↓プワン↓プワン↓プワワァ~♪――


 いかにも”残念でした”みたいなBGMが流れ、ボールが泡のように弾けて消えた。


「おいキャディいぃぃぃぃぃぃぃっ!!」

 猛然と紫炎に抗議する瀧。だが紫炎はウインクしながら〝チッチッチッ〟と指を振り、今度は5番目の穴を指した。

〝フンフンフーン♪〟


「……自信たっぷりだなぁオイ!」

 ジト目で紫炎を見上げる瀧。仕方ないので奴の指示通り、5番目の穴に三打目を放つ。

 果たしてコンコンとピタゴラステージに踊り込んだその球は、再度さまざまな仕掛けに乗って順調に進んで行った。


 その途中、さっき倒れたドミノを通路代わりにコトコト超えて行ったり、さっき端まで行ったロープウェイを逆走してきたりしている。

「これは……さっきの仕掛けが倒れているからこその道が出来た!? ここまで凝ってるのか。そして紫炎……それすらも見切ったと言うのか?」


〝フンフンフフンフーン♪〟

 感心する瀧に、上機嫌で鼻歌を歌うドラゴン紫炎。なんとこのピタゴラ、()()()()()()しないと正解の道が開けない仕掛けのようだ……なんと無駄な凝り方であろうか。


 やがてその球もハズレのタライに収まって消える。が、紫炎は得意顔のまま、今度は2番目の穴を指し示す。

「よっしゃ、こうなったら信じるぜキャディ!」

 指示通り2番目の穴に四打目を放り込む。またしても倒れた仕掛けを上手く利用して先へと進み、数々の仕掛けを倒してハズレへと落ちていく。


 次に指示通り4番目に打ち込み、それもそのうちハズレへと誘導される。


「さぁ、お膳立ては整ったわけだな……最後に一番目の穴に放り込めば、開けたビクトリーロードに乗って栄光のカップインというわけだ!」


 カツーン、コンッ、コトコト……

 残った一つの穴に打ち込まれたゴルフボールは、アクリルの向こうへと移動して……そのままぼとっ、と地面に落下して、止まった。


「もう仕掛け全部倒れてんじゃねぇかあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 当たり前と言えば当たり前である、これだけ密集したピタゴラス〇ッチを別々に4回も発動させれば、そりゃ仕掛けも尽きるだろう。


 抗議を受けた紫炎は背中を見せ、頬をコリコリと掻いて冷や汗を流している……どうやら彼が確信をもって示したルートも正解では無かったようだ。


「……どーすんだよコレ、もうこのホールは攻略不可能じゃねぇか!」

 そう、カップまでがアクリルで仕切られているから向こうには行けない。なので仕掛けが無いとそもそも球がカップまで届かないのだ。


『ふ、案ずるな。今仕掛けを直して進ぜよう』

 イーカラハはそう言って、目の前のアクリルの壁に手を付け、それをそのまま横にスライドさせて()()()……まるでフスマや引き戸のように。


(……開くのかよっ!?)

 目を丸くし、口を開けて固まる瀧とドラゴン紫炎。


 二人(一人と一匹)は思わず顔を見合わせ、こくりと頷き合うと、紫炎がパターを抜いて瀧に手渡す。新しいボールを地面に置いて、コツコツ転がしながらコース内に入っていく。


『フフフ……このホールのクリア時の仕掛けの美しさは見事であるぞ』

 上機嫌で仕掛けを直していくイーカラハの横を、なるべく気配を消しつつパターでボールを転がしながら通過する瀧と紫炎。


『なにしろ全パターンを網羅しての正解ルート、それを成した時の見事さには感嘆の声も出ようぞ、このイーカラハ一世一代の傑作……』


 カコーン――


「おーい、カップインしたぞー」

〝フンガー〟


『……へ?』


 イーカラハが自分の世界に没頭しているそのスキに、開けっ放しのアクリル戸を抜けてパターでカップまで運んだ瀧の声に、彼は事態を飲み込めずに固まっていた。


  ◇        ◇        ◇


『グスン……ここの正解の仕掛けは本当に凄いのに……』

 5番ホールの入り口の門の前、イーカラハは壁に向かって体育座りしたままイジけていた。


「あーもう! ほらサッサと次行くぞ、()()()()()()()()()!」



 ――残りの球数(ライフ)、あと60個――




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