新たなる相棒、その名は紫炎!
カッシイィィーン!
太田 瀧がティーグラウンドからドライバーを振るい、打ち出された球が弾丸のようにピンであるドラゴンの指へと向かう。
が、ドラゴンの指はそれをまるでおはじきの様にピンッ! と打ち返すと、倍以上の猛スピードで還って来た球が、瀧の頬をビュン! と掠めていく。
ドガアァァァン!!
そのまま後ろの岩肌に直撃したボールは、まるでメンコかせんべいのように円状に潰れていた。岩から剥がれ落ち、そのままふわふわと揺れながら落下して、そして……溶けて消えた。
ゴルフの妖精イーカラハが、頬に一筋の汗を流しつつ解説する。
『ぬぅっ! 今のはドラゴン流奥義、一指真空破ッ!!』
「は、ははははは……こら、あかん」
渾身の一打を跳ね返された瀧は、そう言って思わずその場にへたり込む。
先ほどのグリーンからの一撃は、近すぎて気配を悟られたのか余裕で炎魔法に消し去られた。なので今度は遠目のティーグラウンドからのショットで攻めてみたが、全然余裕であしらわれている。
ドラゴンはグリーン下の穴に体を突っ込んでいるのだが、その巨体ゆえ全身が入りきらずに、下半身とケツだけは瀧やティーグラウンドの方を向いている……つまりこのドラゴン、真後ろからのショットを目で見もせずに、土の上に出した指で余裕で弾いて、かつ瀧のすぐ横を狙って打ち返し、頬にかすめさせたのだ……。
ゴルフうんぬんじゃなく、生物としての格があまりにも違いすぎる。
「ドライバーじゃなくて、エクスカリバーが要るなこりゃ」
『ふむ……我が妖精族に伝わる”妖刀ざっ〇り丸”ならあるぞ』
「ベルセ〇クかよ! 大体ゴルフでザックリしたらあかんやろが!!」
当のドラゴンは相変わらずカップから出した指をクイクイと動かしオイデオイデをしている。正面の尻から生えた尻尾も上機嫌にフリフリさせており……まぁつまり完全にナメられているわけだ。
「うっわ、ムカつく!」
瀧がこめかみに血管をビキビキと浮かび上がらせる。思えばさっきのゴブリンを撃退してからこのドラゴンが配置に着くまでにカップインしておけば良かったのだが……今となっては打つ手がない。
『ほれ、いいから早ようせい』
ゴルフの妖精イーカラハに催促されて仕方なく次の球をセットする。
(仕方ない、とりあえずあのデカ尻にでもぶち込んでみるか!)
ドラゴンはモグラよろしく砲台グリーンに潜り込んでいるので、露出している体は上の指ピンと、正面にデカデカと鎮座するケツと後ろ足と尻尾のみだ、文字通り”頭隠して尻隠さず”を実践している。
(まぁこんだけ堂々とケツ晒しているんだから、ボールをぶち込んだところで痛くもかゆくもないんだろうけど……仕方ない!)
カッシュゥッ!
バンッ!
案の定というか、尻に直撃した球はあっけなく弾かれた。が……
〝フミュウゥゥゥオオォォォ~~~♪〟
「……へ?」
その瞬間になんかドラゴンが甘い声を上げて、嬉しそうにケツや尻尾をクネクネさせている。
〝フン! フン! ムフーッ!!〟
そして鼻息荒い声を出し、お尻を何度も瀧の方に付き出してクイクイするドラゴン……きもい。
「なんか、ドラゴンがおねだりしてるように見えるんだが」
『ウム! 感じておるようだな』
「あいつオスだったよな……ドラゴンの世界にも変態っているんだな」
ちなみに弾かれた球は空中で泡のように消えてしまった。どうやら当てて感じさせてもロストボールになるのは避けられない様だ。
(だが……このまま感じさせ続けてやれば、ヤツにもスキが出来るかも!)
意を決して次の球をセットし、目の前のデカ尻に向けてドライバーでマン振りする瀧!
ドボン!
〝フフオォォォォォォ~~♬〟
ズドン!
〝ヌニャアァァァァァ~~♡〟
ベチン!
〝ハフッ、ハフッ、ハフッ!〟
ドラゴンにゴルフボールで尻叩きを繰り返す瀧と、その度に感じて喘ぎ声を出す、上半身を山の中に突っ込んだドラゴン……瀧の命の欠片と引き換えに、なんともシュールなゴルフバトルが展開されていた。
そして、運命の9打目が打ち放たれる!!
カッキイィィーーン!
ズ ボ ッ ! !
見事、尻の穴にナイスインするボール。そして、その瞬間ッ!!!!
〝♡アッヒャアァァァァァァァァァ~~ン♡〟
ドラゴンのアヘ声が洞窟内に響き渡り、同時に跳ね上がったその体が、身を埋めている小山グリーンを吹き飛ばす!
ドガガガカァァーッ!
「うわぁぁっ! や、やべぇっ!」
『む、まるで火山弾よのう』
すっ飛んでくる石や土から身を縮めて体を守る瀧と、つぶてが体に当たっても平然と仁王立ちを続けるイーカラハ。
やがて砂塵が収まり、粉砕されたグリーンから、赤紫のドラゴンが一歩、また一歩と瀧の方に歩いて来る。
その目にハートマークを浮かべ、大きな鼻の穴をさらに広げてフンフン興奮しながら……
(ひ、ひぃっ!)
なんか死とは別の恐怖に恐れおののく瀧。(そりゃそうだ)
が、そのドラゴンは瀧の数メートル前で止まると、いつの間にか左手で持っていた大きな巻物らしきものを、ふわさっ、と広げる。
それには、こう書かれていた。
【3番ホールクリア、おめでとう!】
「……は?」
広げられたのは横断幕だった。え、何で? と理解できない表情をする瀧。それに応えてドラゴンが再度尻を向け、イーカラハがその尻尾を刺してこう発する。
『尻尾をよく見るがよい、ちゃんと先端に【3】の旗がついておろう』
「え、えーっと……つまり、尻尾がピン? ってコトは」
『左様。このホールの本当のカップは、ヤツの尻の穴也!』
……
「わかるかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
まぁ確かにゴブリンの腕やドラゴンの指には旗なんてなかったんだが……。
◇ ◇ ◇
『さて、太田瀧。このホールをクリアした者にはキャディが与えられる』
「え……アンタじゃなかったのか?」
『我は審判であり見届け人である』
まぁ確かにこのイーカラハはちょこっとアドバイスもしていたが、どっちかと言うと瀧の醜態を楽しんでいた傾向の方が強かった。
「で……キャディって誰だよ」
この場にいるのは瀧とイーカラハ。そしてさっきのドラゴンくらいしか……
〝フンガ、フンガー〟
そのドラゴンが鼻息を荒げながら瀧に顔を近づけ、その指で自分をクイクイと指差している。
「……お前かよっ!?」
『彼は優秀だ。このホールに来た者のほとんどは、先程のゴブリンがキャディになるのだがな』
「俺の他にもこのふざけたゴルフ、やった奴おるんかいっ!?」
イーカラハは語る。先のゴブリンを撃退してからドラゴンが穴に収まるまでの間に、山の上の偽のカップに入れた要領のいいゴルファーには、ゴブリンがキャディに着くそうだ。
『真のカップにインし、このドラゴンをキャディとしたのはお主が初めてだ。これならば、前人未到のこのコースを踏破するのも可能やも知れぬな』
瞑目し、感慨深くそう語るイーカラハ。
「え……ちょいまち! じゃあ今まで何人もこのコースに来て、誰もホールアウトしてないって事は……何人も死んでるってコトか?」
『否。このコースのローカルルールとして、8番洞穴までクリアした者は、最終洞穴をギブアップしても良い事になっておる』
「どんだけ難しいんだよ、その最終ホールって……」
呆れる瀧の正面で、イーカラハは腕を組んだまま、今までの挑戦者を思い出し、そして感慨に暮れていた。
(このドラゴンを従えたこの男なら……あるいは)
『さて。キャディとして従えるからには、お主がこのドラゴンに名を付けねばならぬ』
一息ついたイーカラハが、大真面目な表情で瀧にそう告げる。
「え……名前って、無いのかよ」
呆れ汗を流しながらドラゴンの方を見ると、本人(竜?)はその瞳をキラキラさせて両手を胸の前で合わせ、瀧の言葉を待っている……ほんときめぇ。
(えーっと……紫の竜だから紫竜とか。いやそれじゃセイ〇トだし……燃えるような赤紫だから『炎』の字は入れたいな。それでキャディ……ゴルファーを助ける存在、支援する存在……あ! そうだ!!)
「紫炎、てのはどうだ? ほらお前、燃えるような赤紫だし、キャディだから俺を『支援』してくれるんだろ?」
〝フング・フング・ヌフフフフン♪〟
その提案に上機嫌で頭をこくこくするドラゴン。
「よし決まり! お前は今から俺のキャディ、『ドラゴンの紫炎』だ!」
〝フングオォォォ~~~♪〟
――残りの球数、あと67個――
このホールだけで13個と言うロストボールと引き換えに、紫炎という新たなる力を得た太田 瀧。
果たして、彼の先にあるのは栄光か、それとも破滅か――




