02 騎士からの信頼
ヴェンデルガルトのことについて相談したい、とカールに声をかけられたビルギットは内心首を傾げながら指定された場所に足早に向かっていた。
カリーナとロルフには理由を話しているので、ヴェンデルガルトのことは安心だ。
一年の間に、誘拐されて南の国の戦争に巻き込まれたり、陰謀に巻き込まれて命を狙われた主人だ。少しの留守でも心配してしまうのは、仕方ない。
「ごめんね、本当にありがとう」
ノックをして名を名乗ると、すぐにドアが開いてカールが部屋の中に案内してくれた。
ここは、他国の来賓客の休憩室として使われる部屋だ。今は、使う予定がないのだろう。確かにここなら、そう目立ちはしない。
「お気になさらずに、カール様」
軽く頭を下げてから、ビルギットは部屋に入る。
部屋の中には、ジークハルトとランドルフの姿もあった。三人の様子に、少しの呆れと可愛らしさを覚え、ビルギットは苦笑した。そうして、カールに促されて椅子に腰を下ろした。
「情けないと思っているだろう。俺たちも、心底思っている」
ランドルフが、大きなため息をつきながらそう零す。
「ヴェンデルガルト様のドレスのこと……でしょうか?」
春の祭りに参加する、ヴェンデルガルト。そろそろドレスを手配しなければ、祭りに間に合わない。
ヴェンデルガルトが、誰のドレスを選ぼうとしているのか。それを知りたいのだろうと、声をかけられた時からビルギットはそう思っていた。
ビルギットは、五人の騎士たちがヴェンデルガルトを心から愛していると理解している。ヴェンデルガルトが信頼できる五人の誰かを選ぶことを、賛成している。
ただ、個人的にビルギットはギルベルトと相性がいい。どうしても、ギルベルトを応援してしまう時がある。ちなみにカリーナはカールを応援しているし、ロルフはジークハルトを押している。
だが三人は、ヴェンデルガルトが幸せになるのならどの騎士でも応援する気持ちでいた。
だから、この席にギルベルトがいなくても、出来る限り彼らのためになるように助言するつもりでいる。
「ああ、確かにそれも聞きたい。が、それだけではないんだ」
窓際に立っていたジークハルトはそう言うと、椅子に腰かけているビルギットとランドルフに歩み寄った。カールも、ビルギットの横に座った。
「ずっと聞きたくて、聞けずにいた。ヴェンデルガルト嬢が大切にしている古龍――コンスタンティンのことを、知りたい。君が話せる範囲でいい、教えてくれないか?」
ジークハルトの意外な言葉に、ビルギットは一瞬言葉を失った。
「断片的なことしか、彼の存在を俺たちは知らない。二年間、彼と過ごした君に聞きたいんだ」
「ヴェンデルのことをちゃんと理解したいんだ。古龍がいたからこそ、きっと今のヴェンデルがいる。俺たちは、ヴェンデルを幸せにしたい。だからこそ、知るべきだと思う」
ランドルフが、ジークハルトの言葉にそう続けた。
「もちろん、君が言える範囲でいいよ。それに、ギルベルトやイザークにも話す。俺たちは、みんなヴェンデルのことが大好きだからさ」
カールが笑いながらそう続けた。この素直さを、カリーナも皇帝も気に入っている。少し身構えていた心が彼のおかげでほぐれていくのを感じて、ビルギットは感謝した。
「そう、ですね。知っていただけた方が、きっと良い結果になると私は思います。分かりました、私が知る範囲でお話しします。では――少し長いので、お茶を淹れてもよろしいでしょうか?」
僅かに微笑みながらビルギットがそう言うと、カールが慌てて立ち上がった。
「あ、ごめん! 気が利かなかったね、すぐに用意するよ!」
ビルギットは彼らのためにお茶を淹れようとしたのだが、カールの言葉にビルギットは瞳を丸くした。
「大丈夫です、私が用意いたします」
吹き出しそうになるのを耐えて、ビルギットは頭を下げた。そうして、部屋を出て急いで厨房へと向かう。
お茶菓子までは用意しなくていいだろう。茶葉は、誰の好みを用意しようか。
二百年後のメイドの作法も、ビルギットはほとんど習得していた。急いで、ティートロリーを押して部屋に戻ってくる。
「本当に君は、優秀だ」
少し悩んだが、茶葉はコンスタンティンが好んだハーブティーを用意した。彼の事を知ってもらうには、これを飲んでもらった方がいいと判断した。
自分を褒めるジークハルトの言葉に、ビルギットは丁寧に頭を下げる。
「ありがとうございます。では、ご存じのこともあるかもしれませんが、出来るだけ順番にお話しいたします」
自分の前に座る三人がお茶を飲んで一息ついたのを確認してから、ビルギットは話し始めた。
ほんの少し前の出来事なのに――目が覚めれば、二百年が過ぎていた。ビルギットは、少しの寂しさを感じながら、優しい龍を思い出す。




