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二百年の眠り姫は、龍の王と世界の運命を変えるために祈ります  作者: 七海美桜


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01 成人の日の祭り

 バルシュミーデ皇国では、男性は十七歳、女性は十六歳で成人とされる。

 毎年春の訪れを祝う『春祭りフリューリングスフェスト』に続いて開催されるのが、『成熟の祝福ゼーゲン・デア・ライフェ』だ。この春を彩る二つの祭りを、貴族も庶民も楽しみにしている。


 ヴェンデルガルトは、十六歳で古龍の封印から目を覚ました。しかし彼女の歓迎は『成熟の祝福』の後だったため、成人の祝福を受けていない。それを知った皇帝から、今年の祭りに参加してはどうかと、提案された。

「彼女は、我が国の公爵位を持っている。皆と同じように、この国で祝福されるべきだ」

 その言葉に、誰も異を唱えなかった。むしろ彼女が参加すると聞いて、貴族も庶民も喜んだ。今年の祭りは、盛大で賑やかになるだろう。


 昨年彼女は、皇国を守るために大きく行動した。

 南の国の戦争に尽力し、薔薇騎士団を助けた。また、国内で密かに進められていた貴族たちの謀反を暴いた。普通の貴族の娘なら、考えられないほどの活躍だ。

 稀有な治癒魔法を惜しみなく使う献身ぶり、バルシュミーデ皇国への忠誠心、人望の高さ。それらが、皇帝が彼女を気にかける要因になっている。


 赤薔薇騎士団総帥であり第一皇子のジークハルトの婚約が解消されたことも大きい。彼とヴェンデルガルトの婚約を望む声が多いことも、度々耳にしていた。

 謀反未遂事件の時に多くの邪な貴族を処分したが、ヴェンデルガルトを手に入れることでまた新たな謀反が起こるかもしれない。

 だからこそ皇族は、ヴェンデルガルトの婚約者選びには慎重になっている。彼女の後見人であり、ギルベルトの父でもあるアダルベルト宰相にとっては、頭の痛い問題だった。


 ギルベルト本人が望んでいることもあり、ヴェンデルガルトの婚約者には彼を強く推したかった。幸い、身分的にも問題はない。自慢の息子なら、彼女を幸せにするはずだと信じている。

 しかし、二人の皇子と、バルシュミーデ皇国が誇る最強の騎士二人――彼らもまた、ヴェンデルガルトとの婚姻を強く望んでいる。だからこそ、簡単に彼女の婚約者を決めることはできない。

 アダルベルト宰相は、ヴェンデルガルト自身が心を決めるのを待つしかなかった。


 そんな深い事情を知らないヴェンデルガルトの部屋は、今日も明るい声があふれていた。

「当日のドレスは、どうしましょう。ヴェンデルガルト様にとって、大変難しい選択になりますよ!」

 お茶を淹れ終えたカリーナは、ポットをテーブルに戻すとヴェンデルガルトにそう声をかけた。

 朝食を終えた後の、いつものお茶の時間だ。急にカリーナがそんなことを言うので、ヴェンデルガルトは不思議そうに首を傾げた。

「ドレス? もしかして、『成熟の祝福』で着るドレスのことかしら。なにか特別なしきたりでもあるの?」

 二百年後の世界を、ヴェンデルガルトはまだ把握しきれていない。迷惑をかけてはいけないと、少し心配そうな表情になってカリーナを見つめた。

「しきたりと言いますか……大体、婚約者様から送られたドレスを着られています」

「そう言えば、この日に合わせて婚約者が決まる方が多いみたいですね。最初の贈り物ということで、街の仕立て屋さんが忙しいと聞きました」

 カリーナの言葉に続いて、ビルギットがそう呟いて悩むように眉間に指を当てた。

「ジークハルト様、ランドルフ様、カール様、ギルベルト様、イザーク様――きっとヴェンデルガルト様のために、この日のドレスを用意するおつもりですよ」

 薔薇騎士団の、五人の団長たち。彼らはヴェンデルガルトが目覚めてから様々な出来事を共に過ごし、ヴェンデルガルトを心から愛している。

 彼らの誰かのドレスを受け取るということは、求婚を受け入れるということになる。


「ヴェンデルガルト様のお気持ちが決まっているのなら、問題はないのですが」

 無理はよくありません、とカリーナは続けた。黙り込んでしまったヴェンデルガルトを心配するようなビルギットに小さく笑いかけて、ヴェンデルガルトはお茶を一口飲んだ。


「君とビルギットを、もう一度迎えに来るから。また、こうして一緒に月を眺めることが出来るよ。信じてくれる? ヴェンデルガルト」

 三日月の柔らかな光を浴びて、寂しそうな笑みを浮かべた、懐かしい友人。

 とても大事だった、古龍。彼なら、私が誰を選べばいいのかを教えてくれたに違いない。でも、あの夜からもう二百年が過ぎてしまっている。

 自分で、自分の未来を選ばなければいけない。


 ヴェンデルガルトを大切に、優しく見守ってくれた龍。大切な、友人。


 でも。彼を思い出そうとすると少し胸がざわつく。なにか、大切なものを忘れているような――棘のような、小さくて落ち着かない痛みだった。

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