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第2話 氷狼討伐派遣

セランは13歳になり、背も伸び始め、体調もすっかり安定したころ――

今までできなかったことを一気に詰め込む「第2形態」に突入したの。

勉強、教養、剣技、馬術……普通なら精神的に潰れそうだけど、セランはむしろ喜んで、生き生きと吸収していったのよ。やっぱり王族って、ちょっとおかしいのかもしれないわね。


勉強はユリユリが担当。

教養は王宮教養師、マチルダ・ローレン侯爵夫人。“生きた教本”と呼ばれるほど厳しい人で、宮廷ではちょっとした恐怖の象徴なのよ。

剣技はアシュレイ王弟殿下が直々に指導。剣と弓の名手で、セランと同じ“弟”という立場もあって、特に目をかけていたらしいわ。

それを見てレオがやきもちを焼いてね。

王弟殿下をライバル視して、「馬術は譲らん!」と張り切っていたとのこと。


セランも大変だったろうに、根を上げずに全部ついていったそうよ。でも、指導陣は全員セラン大好き人間だから、厳しさの中にも飴がたっぷり。きっと、愛されて育つってこういうことなのね。


そして、事件は突然起きたの。

この先は少し複雑になるから、報告書の抜粋を使わせてもらうわね。……疲れたわけじゃないのよ?


――――――――――――――

「同年12月某日、グレイブ北辺境伯領地にて不可解な事象が発生。雪深い山中にて広範囲に木がなぎ倒され、多数の獣の死骸が確認された。住民への被害は今のところ確認されていないが、早急な調査隊の派遣を要請する ――グレイブ北辺境伯ソフラン」

――――――――――――――


報告を受けて、翌1月には調査隊が編成され、現地へ向かった。ユリユリもその隊に加わったの。北辺境伯は彼の養父だから、心配だったのね。


セランも「行ってきなよ」と背中を押したそうよ。やさしいわ。もちろん、ユリユリに抜かりはないわ。留守中のセランには、宿題をたっぷり残していったそう。

セランの「ユリユリがいないから、勉強はちょっとお休みしても仕方ないよね」計画は――残念ながら、見事に失敗に終わったの。


――――――――――――――

【氷狼事件・調査報告(要約)】

王国最北端に位置するグレイブ北辺境伯領地は、寒冷な気候と豊富な降雪により、一年の大半が雪に閉ざされている。静寂と白銀に包まれたその土地で、昨年の11月と12月、それぞれ異なる地点で、不可解な現象が確認された。


広範囲に木々がなぎ倒され、獣の死骸が多数見つかり、現場の氷は周囲よりも異常に硬く残っていた。

過去20年間に同様の事例は記録されておらず、前北辺境伯が疫病で急逝した際に記録が途絶えていたため、詳細な過去資料は不明。


領内に現存する古書庫の調査が必要とされ、調査隊が編成された。調査は現地班と文献班に分かれて行われ、文献調査にはユリウス殿があたった。


古地図から氷脈の存在が確認され、現地の状況と照らし合わせた結果、「氷狼の大量発生」の可能性が浮上。


ユリウス殿は王都に戻り、さらに文献を精査。100年程前にも同様の事例があり、氷脈の目覚めによって冷気が地中から噴き出し、氷狼が群れ単位で覚醒・繁殖したという記録を発見。当時、村が壊滅し、一帯が氷の山と化したとの記述もある。


これらの情報を踏まえ、ユリウス殿は早急な討伐隊の編成と派遣を進言。

現地の安全確保と氷狼の封じ込めが急務とされた。

――――――――――――――

【新聞】

号外!

国王陛下はグレイブ北辺境伯領における氷狼の発生を受け、討伐隊の編成と出動を命じられた。規模は100余名。討伐隊長には王弟殿下が任命された。

1年目に観測と防衛、2年目に分断と弱体化、3年目に核討伐と掃討――綿密な三か年計画が立てられ、本日、出陣となった。

――――――――――――――


隊長任命も三か年計画も、察しの通り――陰にユリユリあり。王弟殿下が抜擢された理由?チェスの攻め方がねちっこいからですって。周囲をじわじわ固めて、最後に一気に落とす。戦術としては完璧だけど、性格が出すぎよね。まあ、弓も剣も達人級で、一人で十人分の戦力になるしと。


「国のために栄誉を取れば……嬢もイチコロですよ」なんて囁いたそうよ。

「なぜ知ってる⁉」って、王弟殿下は青ざめたそうよ。かわいそうに。


かくして、派遣第1号が爆誕。

王弟殿下、頑張って~……

(結果が分かっているから、いまいち気持ちが入らないわ)


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