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彼女の息子の疑問

 物心ついた頃から、僕の家族は母だけでした。生まれはとある貴族の家だったんですがね、ああそうです、あの評判の悪いあの家です。

 母は息子の僕が言うのもなんですが、もう三十代半ばだというのにまるで十も若くみえる人でして、若いころはさぞかし多くの男の心を奪っただろうことは容易に想像できます。そしてその美しさを欲した父が強引に婚姻の話を持ってきたらしいです。いい年して笑えますよね。しかも母は父の四人目の妻で、結婚してからも父の愛人が絶えることはありませんでした。

 そのうえ父が母に構っていたのは初めの三ヶ月程で、すぐに僕を身ごもっていることが分かってからは、母を離れへと追いやってしまったのです。当然僕が生まれてからも父の顔を見たのは数えるくらいで、しかもそれも庭の隅から出かけていく父の姿を遠目に見るだけでした。


 そんな生活も僕が七歳の時に終わりを迎えます。父が新しい妻を迎えるために、母と離婚したからです。正直ここまで育てるための金を出してくれたことには感謝していますが、母を大切にしない父のことは大嫌いでしたから、離婚すると聞いた時は飛び上がって喜びましたよ。母もそれはそれはすっきりした顔をしていました。何年後かに「どうして父と結婚したのか」と聞いたことがあったのですが、「家族の為だと思ったから」としか教えてくれませんでした。そうそう、母の家族、つまり僕の祖父母と叔母は、母が離婚した時には王都におらず、母も探そうとはしなかったので、今どうしているかは全く分かりません。母を売った人間なんて牢に入るか野垂れ死ぬのが当然だとは思いますが…いやいや腹黒いなんて失礼ですね。


 まあとにかく、漸く父から解放された母と僕は、王都の小さな部屋で新生活を始めたわけです。母は以前勤めていた仕立て屋で再び働き始めまして、お陰さまで今では「キュティピスの針姫」なんて呼ばれています。確かに母の腕は素晴らしいのでそう言われるのも納得ですけどね。…違います、親離れできてないわけじゃないです。


 父とは離婚する際に母が全ての権利を放棄していましたから、たぶん二度と会うことはないでしょうね。あちらには最初の妻の子である後継ぎがいますから、万が一後継者争いにも関わらないようにと一切の干渉をしないと誓約書まで書かせていました。僕としても一庶民として暮らしていくほうが良いので、このことに関しては本当に感謝しています。お陰で今こうやって青騎士団に勤めていられるんですから。

 そうですね、青騎士団に入団して二年程ですが、毎日充実しています。残念ながら剣の腕はそれほどではありませんでしたが、母に似た手先の器用さが幸いして、こうして副団長付き第二事務官という役職を頂けたのはありがたいことです。


 しかし最近一つ悩みがあるんです。

 我が青騎士団の兵舎に、歴代の団員達の写真が貼られているスペースがあるのですが、その写真の中に僕にそっくりな人が写っているんです。体格はその人の方が良いのですが、とにかく顔立ちが明らかに血の繋がりを感じさせるもので…。いやいや父の親戚縁者が騎士団にいるなんて話聞いたことありませんし、母の親戚だっていたら何かしら声を掛けてくれると思うんです。それに…僕って母にも父にも似ていないんですよね。髪と瞳の色は母譲りなんですが、顔立ちはどうも共通点がないというか。

 先程も言った通り、僕は父が大嫌いでしたから、もしかして父の子じゃないんじゃないかと考えたことがありました。でも生み月からみても父の子で間違いなさそうだと絶望したのは騎士団に入る少し前のことで、それに母に恋人がいたとしても、今まで何の行動も起こさないなんておかしいじゃないですか。…ああそうか、相手も結婚してしまったとかそういうことか。


 いやいや今はそんなことどうでもいいんですよ。問題は…その人が現在の青騎士団団長だってことです。


 もちろん写真に写っているのは今から二十年程前の初々しい団長(仏頂面は相変わらず)なんですけどね、その二十年前の団長と今の僕がそっくりなのって、もしかしてもしかするんでしょうか。

 うーん、でもなあ。似てるのって顔だけだし。僕、あんな「鬼神」とか呼ばれる程強くないし、結構おしゃべりで笑い上戸だし、未だに独身の団長と違って結婚願望あるし。なにしろそんなに真面目じゃない。

 いや、団長に似ているのは嬉しいんですよ?今でも伝説が残っているような人に憧れなかったわけじゃないですから。


 それに団長が本当の父親だと考えると、いろいろと腑に落ちることがあるんですよね。僕が入団した際の上層部のどよめきだとか、身辺に探りを入れてくる諜報部の先輩方とか。

 正直鬱陶しいので、ここら辺ではっきりさせておきたいんです。



 団長が僕の本当の父親なんですか?


 

 って何目ぇ潤ませちゃってるんですか。「俺を父だと認めてくれるのか」じゃないでしょう、今は僕が聞いてるんですから。「そろそろお前にも話そうと思っていた」ああそうですか、じゃあやっぱり団長が…。

 いやいいです、親の馴れ初めとか全身痒くなりそうなんで聞きたくありません。真面目な顔して「ジュリアンは恥ずかしがり屋だな」とか言わないでください、そっちのが居たたまれないんですけど!

 え?近々うちに団長が越してくる?母も了承済み?


 ……貴様ぁぁぁ!うちの母さん誑かしやがって!!母さんがどっか抜けてるからってまさか無理矢理押しかけたんじゃねえだろうな…はっ!まさか最近母さんが付けてるあの流行遅れのデザインのネックレスってあんたがあげたやつか?!糞真面目な顔してせこい手使いやがって!!…こうなりゃ決闘だ!


 はあ??敵でもないのに息子と戦うなんてできない?

 あんた馬鹿ですか。どこに騎士団長みたいな鬼レベルに正面からぶつかってく無謀な奴がいるってんですか。さっき俺の剣の腕がそこそこだって言ったばかりでしょう。当然俺に有利な条件でやるに決まってます。文句は受け付けません。俺をあんたの息子だというなら、そのくらい譲歩してくれたっていいでしょう?ねえ「お父さん」?


 母さんを賭けて料理対決だ!!それであんたに勝ったら母さんのことはきっぱり諦めてもらいますからね!!



 ………ちょっと副団長離してください!!まだ話は終わってないんです!それから外野共!!どっちが勝つかとか賭けてんじゃねーぞ!そんで大隊長三人組!それ以上笑うようなら明日から書類攻めにしてやるから覚悟しといて下さいよ!!


 俺は絶対認めないからな!!!



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