2月25日 3
Sは再び教室に入った。彼女にはまだ仕事が残っているのだった。
先刻前の方で騒いでいた連中の姿はなかった。しかし、彼女らがいた辺りにはまだ何人かの荷物が残されている。今は場所を移しているらしい。それを知ってSは少し気をゆるめたが、彼女らが帰ってくる前に片付けなければ、と、深く呼吸をする。
時刻は五時前だ。日没はすぐそこに迫っている。窓の向こうに広がる夕闇が、明かりのついた教室の中までも侵そうとしていた。荷物やゴミくずが散乱したままの教室は、人の気配を感じる分、かえって心細さをSに与えた。彼女は未だ、夜を知らない。
Sは鞄の中から花田の貯金箱を取り出した。彼女が原稿用紙代に使った分で大半を消費してしまったが、それでもまだ二千円ほどは残っているようだった。彼女は貯金箱の出し口を開けると、鞄からグレーの巾着袋を取り、残りの十円玉をすべてその中へ流し入れた。
それは、決してネコババでも、賽銭泥棒でもなかった。花田の十円玉は、そうするべき、正しい目的で使われたのだ。あるいは、それは何かの代償である。Sはそのことを知っていた。
Sが貯金箱の出し口を閉めていると、廊下から、いくつかの足音が聞こえてきた。例の一団が戻ってきたのだろうか。Sは慌てて、貯金箱の置き場所を探した。元の場所に戻すのでは間に合わなさそうだ。それで彼女は、やむなく上を見上げ、背伸びをして、黒板の横の掃除道具入れの上に、できるだけ周りから見えないよう深く置いた。これからの数日の間は、持ち主に見つからないでいたほうがいいだろうから。それからSは、急ぎ足で教室を出、廊下を“倉庫”に向かって歩いた。教室を出たすぐのところで数人とすれ違ったが、やはり彼女らは、Sに顔を向けさえしなかった。
Info: my good luck!




