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背はスラリと高く、腰まであるふわっふわの豪奢な金髪に陶器のような白い肌、金色のけぶるような長い睫毛に紅い瞳の大きな目、ピンクに色づいた甘やかな唇に笑みをのせている。
十八歳というまだ大人になりきれていない顔立ちには無垢な清らかさが残るのに、細い腰や豊満な胸元が成熟した女性の妖艶な色香を漂わす。
とても魅力的な女性。
ローゼンエスト公爵の婚約者であり王女という身分に相応しく、複雑な模様の透けるように薄いレースをふんだんに使った光沢のあるパールホワイトの豪華なドレスに身を包んでいた。
美しいものに囲まれたこの耽美な世界であっても、こんな容姿が実在するとは信じ難い。『ただの人間』ではありえない別格の美しさだ。
これが吸血姫とわかっていても、魅了されない男性などいないのではないかと思われるほどの壮絶な美女ぶり。
男性貴族たちのみならず、女性たちもみな一目で王女の虜になり、息を呑み彼女から少しも目を離せないでいる。
こんな女性を前にしたら正体などどうでもよくなり、さすがのレンナートも心を動かされるのではないだろうかと、ハラハラした気持ちで彼の表情を窺うと―――レンナートは作られた笑みを顔に貼り付けていた。
形式通りに王女にスッと手を差し出しエスコートする姿をみて、嬉しさに胸が熱くなった。
銀の公爵と金の王女、二人が並んだ姿に広間は未だに静まりかえったままだ。
いや、気圧されている。人の波が自然と割れて、その真ん中を二人は真っ直ぐ進む。誰もが通り過ぎる二人を目で追いかける。
二人は広間の正面に設けられた数段上の壇にのぼると招待客たちへと向きなおった。
レンナートが王女の腰に手を添えながら片方の手を取り礼をすると、同時に王女もレンナートと繋がれていない方の手でドレスの端を摘んで深く腰を落として淑女の礼をする。
親しい女性を紹介する時の所作だが、初対面とは思えないもっと以前から心を通わせているかのように完璧に息が合っていた。
「ケニフィス国公爵レンナート・エリク・ローゼンエストは、ギルデ国王女シモネッタ・デ・ギルデを婚約者とし、ここに皆様にご紹介申し上げます」
レンナートが朗々と告げると、招待客たちははっと我にかえる。一拍おいて拍手が湧き起こった。レンナートが楽団のいる一角に視線を向けると音楽が奏でられ二人の婚約を祝う宴へと場が和む。
明るい陽光を浴びて人々の羨望を集める光輝く金と銀、奏でられる美しい音楽。柔らかな風にさわさわと靡く花々のように貴婦人たちが微笑みあいながら二人を見つめておしゃべりをしている。
一番後ろの端っこから遠目にそんな彼らの姿をみていると、これがお芝居だと分かっていても胸がざわつく。
彼の手が私以外の女性にふれて、彼の口からこの人が婚約者だと私以外の名前が告げられる。
なんて、不愉快なんだろう。
するとレンナートはそんな私の心を気遣うかのように私の方を見てくれた。
今もシモネッタ王女の腰に手を添えて片時も離さず傍に置きながらも、和やかに談笑する輪から私に視線を投げてくれる。
了見の狭い感情がたちまち緩む。
(レンナート……ありがとう…
でも…でもね、あなたは知らないんだから仕方ないんだけど…私、思うの…
シモネッタに私たちの関係がバレバレだしどうせピンチになるなら、こんなに徹底して距離置かなくても良かったと思うの!)
吸血姫シモネッタ王女がとうとうやって来た。誰をも魅了するほどの美女ぶりだが私の目にはその本性が丸見えだ。
背負ってる花は、牡丹に芍薬っ!さすがに物凄い迫力だ。その花のチョイスはむしろ人間離れした美しさに合っている。
さらに花の色は真紅っ。自然ではあり得ないほどに赤く、色が濃すぎて赤黒く見える。もう爛熟といっていいほどに満開になった大輪から蜜のようにタラリと何かが滴っていた。
(あれは…血だぁ~!なんちゅう禍々しさっ!
さすが親玉っ。)
「ギルデ国シモネッタ王女がようやく到着したようだね」
柔らかい口調のよく通る男性の声が正面の方から聞こえた。
壇上奥のカーテンの陰から姿をあらわしたのは、婚約パーティーのスペシャルゲスト国王陛下。
国王陛下の登場に会場のざわめきは一瞬でやみ、皆が壇上へ注目する。
国王陛下に続き、王家直系男子のしるしであるストロベリーブロンドの髪を靡かせた皇太子様と美貌の王女様もゆっくりと姿をあらわし、国王陛下の左右に立った。そして王族たちを守る近衛兵たちが段下に並ぶ。
先触れもなく王族らが登場したことに歓談していた貴族たちは困惑気味ではあったが、音楽がすっと止むとまるで水面に波紋が広がるように皆が膝をつき頭を下げて最敬礼していく。
立っているのは、レンナートとシモネッタだけ。二人は素早く段下までくると並んで膝をついた。
「ようこそ。我が国へ、ギルデ国王女シモネッタ殿……」
国王陛下は穏やかに微笑みながらシモネッタの名前をよんだ。
だが、ただ名前をよんだだけなのにその中に何か含みを感じ、壁際で使用人たちとともに蝋人形のように直立不動になっていた私の背筋を悪寒がゾクリとかけた。
そして、国王陛下がゆっくりと続けた言葉がいきなり吸血姫との対決の合図となった。
「ーーー五十八年ぶりの国外は……、いかがかな?」




