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「怖っ!え…つまり、レンナートが私との婚約の許可を正式にもらいに行った日、いきなりこんな話聞かされたの!?
あの人昼前に帰ってきたよ!?国王陛下はどんな説明したのよ!あの人ちゃんと分かってんのっ?!」
「アリス、落ち着いて!」
(下手したらレンナートが死んじゃう!餌になっちゃう!!)
「それで!どうすんの?何か手があるんでしょうねっ!!」
「大丈夫!我がケニフィス国には、五百年前この国を建国した英哲王ジェラルドとその忠実なる騎士たちがかつて邪悪なる者を退けたと伝わる聖なる銀剣が宝物庫ん中にあります!
それに、騎士たちの末裔もいるから、大丈夫!」
「吸血鬼に、聖なる銀剣に、騎士の末裔っ!?」
「ファンタジックよね」
「ファンタジックじゃないよ~なにそのふわっとした設定~」
シルヴィアの他人事のような楽観的な様子に泣きたくなった。
「つまり、今回の婚約話はギルデ国から親玉の吸血鬼が数十年ぶりに出て来るっていうんだから、この機会にやっつけちゃえってなったわけ」
人差し指立ててウィンクしながら言ってるけど、
「そんな上手くいくの?親玉をやっつけてもまだまだわんさか手下もいるんでしょ?」
「チッチッチッ、親玉倒したら丸く収まる。それがお約束ってもんでしょ?
ぐだぐだ細かいことツッコんでたら、この世界置いてけぼりだって分かってるでしょ?」
「そっか、そう…だよね。この世界結構ご都合主義だしね」
「それで、レンナートとしては自分が囮になるから、愛しいアリスに危険が及ばないように泣く泣く自分から突き放し、だけど手放すことは出来ずにいるといったジレンマな状況なのよ。愛よね~、愛」
「でも突き放すっていっても今の状況じゃちょっと調べれば私との関係なんてすぐバレるでしょ?
あ!それより、吸血姫もまずあなたのお兄ちゃんに縁談持ってくるべき!」
(王女なんだから皇太子様に縁談持っていくべき!)
「うちのお兄ちゃん、次期国王だから手を出すと動き辛いんじゃないかな。それと、お兄ちゃん恋人いるよ」
「ホント?!」
「ホント、ホント。詳しくはまた教えてあげるけど、結構すったもんだがあって、最近やっと落ち着くとこに落ち着いたのよ。
もうこれが話が一本書けそうなくらいいろいろあってさ~」
「そうなんだ」
(へえ~あのイケメン皇太子様が。
どんなすったもんだがあったんだろう。ワクワクするわぁ。
そう言えばシルヴィアも……)
ティースタンドからスコーンをとって手で上下に割り、クロテッドクリームとジャムをのせて口の中に放り込む。
放り込むが、口に入るまではマナーを駆使して茶会セットたちを扱う。
『王女様の午後のお茶』にクリームでべたべたに汚れた皿や見苦しいほどの食べカスなど以ての外だ。
王家の料理人が作った絶品スコーンをモグモグと咀嚼しながら思う。
(シルヴィアもちゃんと熱愛中なのよね。相手は離婚歴のある年上の貴族の男性。確か、三十代前半の軍人で、将軍職だったはず。
王女様の身分としてはバツイチと年齢差で難しいお相手だけど、シルヴィアが猛アタックしたんだよね。
この人、前世は三十代半ばだったから。
で、その最中にどこかの国の王子との縁談で誘拐紛いなことがあって、将軍が救出に向かった。
それがきっかけで二人の距離がぐっと縮まり、すったもんだあっていまは落ち着くとこに落ち着いて……話が一本書けそうな……)
ごきゅん、と喉を鳴らしスコーンを飲みこんだ。
「あれ?ちょっと待って…」
「あ、気づいた?」
「もんすごく嫌な予感なんだけど、これって、主人公が変わるけど同じ世界観のシリーズになってるヤツ?」
恐る恐る聞いてみたが、
「うん!多分そうだと思う!今回のヒロインは間違いなくアリスね!VS吸血姫編!」
(すごく嬉しそうだ。)
悪い予感的中で混乱し始めた脳内を落ち着かせるため、ぬるくなった紅茶を一気に飲み干す。
「それじゃ、皇太子様のお相手もひょっとして…」
「いいや、あの子は本物。ここん世界の子よ」
「あー、そうなんだ」
「異世界転生と転移。所詮、私らは人には言えない身の上よ」
手元に力が入ってしまいそうになり、白磁のティーカップの取っ手に飾られた繊細な小花をついペキッと折りそうになった以外は丁寧な所作でティーカップをテーブルにそっと戻した。
スコーンに奪われた口内に水分が戻り、ふーと深く息をはき出す。
いよいよ聞くべきだろうと腹をくくる。
「それじゃぁ、話戻すけど…、つまり…騎士の末裔って……やっぱりレンナートですか」
「間違いなく。でも、この国にはかつて邪悪なるものを退けた騎士たちがいた伝説と、宝物庫に五本の銀剣が残されているだけなの。
その剣には不思議な力が宿っていて、それを解放して戦うことまでは分かっているけど、その方法は騎士の血族が所持すれば自ずと解放されるとしか文献にはないらしいのよ。
ローゼンエスト公爵家はジェラルド王の同母弟が創った家で、王を守った騎士の中でもリーダー的存在だった。だからレンナートが剣の継承者に間違いないの。
なのにその力の解放の方法がわからなくてその焦りもあって暗~くなってるんじゃない?」
(伝説の騎士たち?邪悪を退け?剣に宿る力?
ああ、なんて王道なんだ。目眩がしてきた。)
「それで?あと四人って誰?彼の周りで主要な登場人物なんて………もしかして、あいつかぁ~」
(はぁ~アルフレッド)
「あいつって、アルフレッドでしょ?そんな情けない顔しないの」
「あんなのにそんな大層な役できるの?!寒いことばっかり言ってるアルフレッドだよ!?」
「あんなのって…。大丈夫、大丈夫。
あんたには頼りなさそうに見えるだろうけど、アルフレッドは社交界ではモテモテで仕事もデキる男なんだから。
それに、アリスが屋敷でメイド業してる間に、レンナートは外でちゃんと仲間集めてお話も進行しているみたいだし。
今のあんたはせいぜい彼の心変わりに不安そうにプルプル震えているヒロインちゃんしてればいいの!」
「でも何か私にもできることないかな。剣の力が解放されないとダメなんでしょう?」
キラリとシルヴィアの目が得意げに輝く。
「最大のお仕事があるでしょ?こういう時の相場はわかるでしょ?
聖なる剣の力の解放。つまりきっかけは、ヒロインのピンチよ!
ヒロインのピンチを救うためにヒーローの力は覚醒するのよ!
そして、ちょっと調べればわかるアリスとレンナートの関係がそこへの伏線になってるの!」
(すごく楽しそうだ。)
「ピンチ…つまり、『殺されかける』もしくは『とても酷い目に…』遭っちゃうの?」
(痛いの嫌だなあ。)
「それは婚約パーティーの当日になってみないとね!とにかく、レンナートが苦悩しているのは、なにより愛するアリスに誤解を与えて辛い思いをさせていると思っているからよ。
季節はちょうど秋。悲壮なピアノの調べが盛り上げる中、彼の周りには枯葉が舞い散り、切なくアリスを見つめてるんでしょうね!」
そうして美貌の王女様はスコーンを口に放り込みながら、耽美じゃん!と言ってお笑いになった。




