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耽美な異世界に落ちてしまったのですが、耽美系女子演じるのも限界です。  作者: ちよのまつこ


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「アリスーッ!!!」


 レンナートが叫んだ瞬間、鼓動のようにドクンッ!とあたりの空気が震えたのがわかった。

 ついに眠っていた聖剣の力が解き放たれたのだ!


 ほかの聖剣もレンナートの聖剣に共鳴し輝きと共に一振りずつ順に聖剣の力が解き放たれた。

 力が漲(みなぎ)るのを感じるのか、騎士の皆さんが聖剣を振り一人ずつかっこよく剣を構えていく。

 一気に訪れたベタベタなお約束の展開に、吸血姫は振り返ったままナイフを振り下ろす手を止め、私は首の締め付けも弱まっていたが逃げることを忘れ、二人してその光景を唖然・呆然とみていた。


 レンナートが吸血姫を目掛けて聖剣を振ると、剣圧が会場の床を高速で抉(えぐ)りなが進みピンポイントで直撃した。吸血姫が堪(たま)らず私を手放したが強い勢いで投げ出されてしまい足を挫(くじ)いてしまった。


「痛ッた!!」


「アリスーッ!」


 レンナートがすかさず駆け寄り私をきつく抱きしめると、剣を持たない方の腕で私を軽々と抱き上げ、なんとそのままひと蹴りで跳躍。吸血姫から充分距離を取った安全圏に私を下ろした。


 聖剣の力は持ち主の身体能力まで爆上げするようだ。いきなりの超人技に開いた口がふさがらない。


「アリス…無事でよかった。辛い思いをさせてすまなかった。少しの間ここで大人しくしているんだよ」


 汗で少し乱れた銀の髪をかきあげ、紫の瞳の目元を優しく細め秀麗な顔で微笑みかける。


(…レンナートの笑顔を見るの久しぶり)


 吸血姫に打たれて赤くなった私の頬を優しく撫ぜ、唇にチュッと小さくキスをすると、スッと立ち上がり敵に向かって駆け出した。

 数多いる吸血鬼たちを聖剣でなぎ払い一直線に吸血姫目掛けて突進していく。雑魚(ざこ)な吸血鬼たちがどんどん塵と化していく。


 先ほどまでの戦いとは比較にならない圧倒的な強さ。

 他の騎士たちも人間離れした跳躍や大技を繰り出し、まるで激しい剣舞を踊っているかのような華麗な戦い。手にした聖剣はそれぞれいろんな色の光を纏い力が放たれる。とにかく空間も重力も自然の摂理すべてぶっ飛んだ状況を目にして、大役(たいやく)を果たした喜びよりも出たのは乾いた笑いだった。


(は、ははは…漫画じゃない…アニメだ。耽美系アニメの世界だッ!)


 腰が抜けたようにヘタリこみながらも、そう心中で絶叫していると、突然誰かに両肩をがっしりと掴まれた。


「アリス」


「シ、シルヴィア?!」


「まだよ。多分、もうひと山…あるわよぉ」


 後ろからおんぶお化けのように両肩にのしかかりながらシルヴィアは耳元で小さく低くそう囁いた。傍(はた)から見れば私の無事を喜び抱き着いているように見えるだろうが、私にとっては悪魔の囁き。


「もうひと山って…」


 吸血姫に首を絞められ頬を殴られ散々怖い目痛い目に遭ってシルヴィアの言うヒロインのピンチで聖剣の力を目覚めさせ、ついでに足まで挫いた。

 なのに、まだこの上なにがと思いながらレンナートと戦う吸血姫を見た瞬間その赤黒い瞳がギラリと妖しく光った。


(あれ?体が、勝手に…)


 私がふらりと立ち上がると、「やっぱり」と後ろから聞こえ、引き止めるどころかシルヴィアに背中を押し出された。


 挫いて痛い足を庇(かば)いながら、会場をまっすぐ進む。

 床に散らばった花びらが風に煽られ私の周りを悲壮感たっぷりに舞う。

 吹き込んだ強風や混乱によって巻き散らされたのは飾られた花ばかりでなく招待客に供(きょう)されていた料理も同様のはずなのだが、グチャグチャになってるはずのそれらは綺麗さっぱりなくなっており、あるのは花びらだけ。

 散乱した食べ物を汚らしく踏み歩くなど以ての外で、こんな修羅場な時でも美しさ優先のこの世界。


 後ろから「アリスぅー!行ってはダメぇ~!」と演技がかったシルヴィアの声に怒りを込めて振り向きたいが体が言うことを聞かず声も出ない。


 おぼつかない足取りで戦いの渦の中を進む私の姿はレンナートの仲間の騎士たちにも異様に見えただろう。

 黒髪短髪の実直そうな軍人青年がふらふらと会場を進む私に驚き、止めようと手を伸ばす。


「アリス殿!」


 軟派そうな金髪の青年貴族が、一体どうしたんだ、と驚きながらも私に向かって駆け出す。


「アリスちゃん!」


 思慮深そうだがツンデレ属性っぽい少年貴族が、行ってはいけない、と制止の声を上げる。


「アリスさん!」


 戦っていた騎士さんたちが、ふらふらと進む私に驚きそれぞれに止めようとするが、雑魚吸血鬼たちがうまく邪魔をする。


 最後に私を止めようと立ち塞がったのはアルフレッドだった。


「アリス!!」


(アルフレッド!今だけ許す!抱きついても羽交い締めでもいいから私を止めて!!)


 だが私の心の絶叫も虚(むな)しくアルフレッドも雑魚に邪魔され難なく通過。


(アルフレッドのバカー!)


 レンナートは吸血姫と対峙し、私に背を向けていて気付かない。


 やがてレンナートたちまであと数歩という所までせまった時、レンナートの聖剣が吸血姫の心臓を目掛け突き出されようとした。

 その時、吸血姫の口角が僅かに上がったのが見えた。

 私は見えない強烈な力で引き寄せられると、吸血姫を庇うように手を広げ、いきなり二人の間に割り込んだ!

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