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第六章 サイラスの怒り(4)

 オーギュストの首に両腕を回すのと、背中に焼け付くような痛みを感じたのは同時だった。


 あーあ。


 サイラスに向かって血飛沫が派手に飛んでんだろうなあと思うと悔しい気がした。


 俺からは、何一つ、あいつには与えないって決めてたのに。


「オーギュ‥‥‥無事か?」


「ああ。無事だ。お前が庇ってくれたから。どうして。どうしておれなんかを庇ったりしたんだ!」


「そりゃ庇うだろ? 好きな人なら」


 近衛に取り押さえられたサイラスが、信じられないとこちらを見ている。


 もう薄ぼんやりとしか見えてないんだけど。


 俺、このまま死ぬのかなあ。


 まぁいいか。


 望み通り、オーギュストの腕の中だし。


 父さんが慌てて医師団の手配をしている。


 オーギュストは自分のシャツをさいて、俺の応急処置をやってくれている。


 そんな事はもういいから、どうせ間に合わないから、少しでも腕の中に居させてくれよ。


 最後に一度くらい、ちゃんと愛してるって言いたかったなぁ。


「これだから人間は嫌いなのよ」


 不意に響いた声に頭の中で叫ぶ。


(女神サリア?)


 不意に現れた女性は中空に浮かんでいる。


 背中には猛禽類の立派な白い翼がある。


 俺はもう目が見えていなかったけど、女神サリアだけは、はっきりと見えていた。


 俺は死ねないのか?


 せめて好きな人の腕の中で死ねたらいい。


 そう思っていたのにそれすら叶わないのか?


 オーギュ。


 俺を離さないでくれ。


 死ぬならお前の腕の中がいい。


 オーギュ。


 オーギュ。


 心ではオーギュストの名を呼ぶけど、体からはどんどん力が失われ、ふわりと中空に浮かんで行くのがわかった。


 いやだ!


 女神のところになんて行きたくない!


 オーギュ!


 オーギュ!


「無駄よ。今私が現れたのを認識した瞬間から、地上は私の支配下。見えていても動けないわ。あなたの声も届かない」


 どうしてこのまま死なせてくれないんだよ!


「盟約違反だからよ。ランドルフと交わした盟約に記憶と自覚が戻るまでは待つというものがあるわ。これはそれまでは生かしておくという意味も踏まえているわけ」


 生きていい年数まで盟約で決まっていた?


「反対に二十歳以上は保証しない。死ぬなり生きるなりお好きにどうぞというリミットもある。あなたはそれを破ろうとしているの。なら盟約違反ということで、私が後三年待つ必要もないでしょう?」


 いやだ!


 オーギュ!


 オーギュスト!


 どんなに叫んでも、どんなに呼んでも、オーギュストは動けない。


 これが女神の力。


 もう残っていない力で、俺は唯一の希望をオーギュストに向かって落とした。


 ランドルフが残した家系図。


 いや。


 遺言。


 それが手の中に収まったとき、オーギュストが初めて叫んだ。


「‥‥‥くな。シリルを連れて行くな!」


 その言葉が泣きたいほど嬉しいのに、もう姿さえ見られない。


 女神の住む世界に連れて行かれたら、女神の夫に迎えられ、オーギュには二度と逢えない。


 そんな結末しか待っていないなら、最後の抵抗だ。


 ただ一度でいい。


 自分の意思で変化できるなら。


 金の髪が黒く染まり、また長くなっていく。


「ノエルの姿に?」


 俺は女神により生かされるかもしれないけど、女神の夫にはならない。


 女神から見たらランドルフが裏切ったのかもしれない。


 でも、そんなの俺が知るもんか!


 俺の人生は女神の玩具じゃない!


 強制されるくらいなら、俺は女を選ぶ!


 どうしても俺を諦めないというなら、死ぬまでの三年間、ノエルのままでいる。


 オーギュ。


 好きだったよ。


 完全にノエルの姿をしたシリルの瞳から涙が流れて行く。


「シリル。行くな! シリル!」


「最後の最後まで抗うわね。まあいいわ。後三年あるもの。どこまで抵抗できるかしら?」


「女神サリア! シリルは必ず返してもらう! 必ず迎えに行く! 忘れるな!」


「来れるものならいらっしゃいな。私も女神を名乗るもの。妨害はしないわ。精々頑張りなさいな。ランドルフは頂いていくから」


「くそッ!」


 消えていくふたりにオーギュストは、シリルから託された遺言を握りしめた。


 そこへポトリとシリルの涙が、遺書の書に落ち、漆黒の書物だった遺書の書が、真紅に変わった。


 丁度そこで体も動くようになり、近衛たちも戸惑っている間に、囚われていたはずのサイラスが、

猪のような速さでオーギュストへと突進してきた。


 すると遺書の書から黒衣姿のランドルフが現れ、サイラスを弾くと雷撃で痺れさせ自由を奪った。


「ランドルフ様」


「やられたわ。あの子が死を覚悟して兄の求婚を断ったこともそうだが、それに激怒した女神が、まさか直々に攫いに来るとはな」


「ランドルフ殿。このままでは終われません。どうすればいいのか、教えて頂けませんか?」


 アドニス王に言われ、ランドルフはオーギュストを振り向いた。




 どうでしたか?


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